食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.4

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを数回にわたって綴る。  


料理作りに大切なモノは何か?

あー、ついに……。67年続いた函館のミシュラン掲載(ビブグルマン)された中華の「星龍軒」が4月で廃業してしまった。

何が起きているか? 北海道新聞の記事に拠れば、店主(65歳)が「目も悪くなり、楽しんで料理を作れなくなった」と掲載されている。さらにUHB(北海道文化放送=フジテレビ系列)のニュースによると「仕込みがきつい。60半ばになるのに、こんなに働いて、みんなが喜んでくれればいいけど、知らない人にまでそこまでやって、果たして楽しいのかなって」と答えている。

手応えがないという事か。

この店には人気の「塩ラーメン」や「炒飯」の他、「ザンギ(鶏の唐揚げ)」、「串かつ」、「カツカレー」という街の食堂の顔もあれば、「餃子」、「八宝菜」、「青椒肉絲」などド真ん中の中華メニューもしっかり用意されたれっきとした中華料理店だ。

だが、ミシュランでは「ラーメン店」として紹介され、みんながみんな函館名物でもある「塩ラーメン」を注文するようになったこともある。

もちろんミシュランに載った評判のせいで急に行列が出来て対応しきれない事(仕込んでも早めに売り切れる)、さらには一回こっきりの観光客が長蛇の列を作るため元々来てくれていた大切な常連が入れず、喜んでもらえている実感がない事、そんな事でだんだん店主も張り合いを失い、心身が疲れた事が原因のようだ。

あれ? 他ならぬ僕も一因か……。すいません。

実は2年前に函館新幹線開通の折に行って、並んで「塩ラーメン」と「炒飯」を食べた。

心が折れる。予約キャンセルでテーブルがぽっかり空くのも料理人さんにとっては気持ちが萎えるのだそう。

例え、キャンセル料をもらったとしてもそれはまた別問題。モチベーションの保ち方がなかなか難しい。

あそこの店より旨いか不味いとか、勝ちとか負けではなく、ただ美味しいものをその街の人たちに食べてもらいたいと言う店もある。

そんな店もたちまち、今や評価サイトやブログで注目の店になってしまう。

お前が言うな、という声も聞こえて来そうだが、ミシュランに選ばれる、食べログのゴールドやシルバーに選ばれる。そんなことではなく、ひたすらいつもの客を大切にする店は貴重だ。

例えば、カレーちゃんこで人気の荒木町の「心山」。冬期の予約は人気でなかなか取りにくいお店。

実は昨年雑誌の鍋特集で取材協力の依頼をしたが、キッパリ店主のオバちゃんに断られた。この店、僕は冬の時期に毎年最低1回は10年以上来ている店。一応常連とまでは言えないかもしれないけど、顔は覚えてくれている。それでも断られたのは「ただでさえ忙しいのに、これでお客さんが増えて、常連が来れなくなったら嫌でしょうが」

と至極尤もなお返事。はい、すいません。

でも、なんだかその返答は嬉しい。

心折れないために

最近、料理店同士のコラボ企画が多い。

2人? もしくは数人のシェフが、お互いの技術を磨き合ったり、面白い料理を創造し合って、客にも分かち合う。ただし日頃と違って料理スタッフが両店から出て来るため、倍近くの複数人数が絡む。それ故に値段は日頃の倍近くかかる事になる。

昨年、某秘密の場所で行われた寿司の対決「喜邑 vs なんば」は、新しい発見があって楽しかった。

熟成寿司の世界を極めた喜邑さんと、いわゆる真っ直ぐなお寿司のなんばさん(日比谷はネタとシャリの温度にこだわる店に変革したが……)が交互に出すことによって、実は僕は喜邑さんの鮨の奥深さをさらに知ることになる。

喜邑さんの熟成寿司は、ずっと食べているとその味に慣れて来て、最後はやや感動の振れ幅が小さくなる。なんばさんの寿司が交互に入ることで、その都度舌がリセットされて、なるほどの旨さが伝わって来たのは新しい発見だった。もちろんなんばさんの寿司も、逆に直球の素晴らしさを教えてくれる。

この巨匠2人の対決(企画はネタごとの採点が出来る紙まで配られたが、全然書き込むこともなく対決でもなんでもなかったが……)は、単なるふたつ星寿司店が対決したという面白さより、新しい気づきを与えてくれたことに大きな意味を正直感じた。

企画主催者が元々そんなことを考えていたかどうかは知らないが……。

コラボあれこれ

ただし、コラボの多くはなんでこれコラボしてんの? 有名人同士だから? と言うものも多い。

客もバカじゃないから、え? この2人が組んで何が生まれてくるんだろう?

と思うと、結局最後まで、なんだかよくわからない企画になっているケースも多くある。

単純に新しい料理が見れておもしろいと思えばよいのだが、下手すると美味しさが掛け算にならず、なんだかバラバラだなぁと思ってしまう独りよがり(コラボだから2人よがり)の会もある。

これまでも、楽しめた会もあれば、何だかよく分からず値段だけ高い会、コラボと言いながら交互にお互いの皿を出す会(これはコラボとは言えず、単なる2レストランが出し合ってるだけの会)、それなら、別々にそれぞれの店に伺います、と言いたくなる。

コラボする側はしっかりとその企み、意図を僕らに伝えて欲しい。僕らがこの会に何を期待すべきなのかを。基本お腹に入る量は同じなのに、単なるコラボの組み合わせで、楽しみが倍近くなければ倍額取られるのは敵わない。

予約の取れない店で有名な外苑前の「傳」の長谷川さんは結構コラボ企画をやる。その長谷川さんから、このコラムを書き始めた初っ端に反応して来てくださり、僕が「長谷川さんは戦略的でスゴいですね」と書いたら「楽しいことやってるだけですよ〜」と返信メッセージをいただいた。その時ふと思った。

そうだ、心折れないために「楽しいこと、好きなことをやる」のは重要だなと。

楽しい事とはなんだ?

とあるフレンチレストランもコラボ企画をよくするが、海外に出ることも多い。

海外コラボで相手からの刺激を受ける一方、自分が通じるかを試す、相手の技を知る、考え方を知る、その国そのものを勉強する、世界に自分の名前が広がるレバレッジが効く、次の食の新しいテーマが見つかる可能性もある、面白い食材が見つかる、面白いプレゼンテーションの仕方に刺激を受ける、サービスの考え方への刺激も受ける。

そのためにコラボして、その料理人がガス抜き出来るのなら、店のファンとして多めにお支払いして協力する事も本望である。その時、客の気持ちはアントレプレナーに近いかもしれない。それだけ応援したい店が存在してくれることは喜びに繋がる。

昨年その「傳」で行われた長谷川在佑料理長とミラノの「RISTORANTE TOKUYOSHI」の徳吉洋二シェフ(元々イタリアミシュラン3つ星「オステリア・フランチェスカーナ」のスーシェフを9年間務める)のコラボは、コラボの真骨頂を見た。

両シェフともすごく楽しそうだったし、会場も楽しくワイワイ、僕らもその楽しさのお裾分けをしてもらった気がした。

2人が本当に親しそうにしているだけで客は嬉しい。さらには料理が本当にコラボしていた。その時のひとつの料理メニューが「ウサギと亀」。

というのもスッポンの出汁(亀)担当が長谷川さん、ウサギの方の具材加工担当を徳吉さんと言った感じで2人の息が合わないと作れなそうなメニュー。

食べたことのない美味しさだったし、楽しかった。

話は飛ぶが、来月、とある異業種料理店コラボ企画の集客に関わる事になった。僕としては客側の意見を代表する立場でいたい。企画として面白いのか? その価格設定は許容範囲にあるか、範囲にないなら僕は代表として機能できないので、その他の人に仕切ってもらった方が良い。楽しそうな企画が決まれば、大いに支援したい。

料理人さんがコラボを楽しみ、ご自分の刺激やら成長のきっかけになる事で心も落ち着くなら、僕らが助けない理由はない。

年末に構想されている超大物コラボ企画の相談も受けた。僕のような人間にそういう話が来るということは、やはり料理界は相当コラボブームなんだろう。

マグロの一番を狙うお寿司屋さんなら朝6時、大概は7時〜8時過ぎに市場に入って仕入れ、途中休んで午後から仕込んで夜営業を終え、後片付けまで終わる頃には10時間労働どころかそれを大幅に超える時間を優に超えている。ましてやランチまで開けている店は、システムや健全なシフトにしていない限り朝から晩まで働いている事になるので、肉体的にはもちろん、精神的にも余程強い人でないと、もたないだろう。

心折れないために、料理人同士コラボする。一方で価格面含めて企画で客の満足度を満たすように考える。

なかなか大変な作業。

先述の函館中華のご主人の言葉のように、人をハッピーに出来ている実感があれば心は折れにくいと思うが、果たして今の料理人さん達は、いかに。

自己満足の世界でなく、今のこの料理バブルの時だからこそ、客に対して本当に満足してるのか本音ベースで会話する必要な時期だと思う。

客も料理人さんに嫌われてその店の予約が取れなくなる心配をしたりしてるから、妙に料理を褒めたたえたりする(最近の褒められ方がこそばゆい、気持ち悪いと、感じている料理人さんもいますよー)。媚びないで、本音で語る人こそ、その店を愛している人なんだと思うが、いかがなものだろうか。

【第5回へ続く】


違和感の多い料理店 第3回


違和感の多い料理店 第2回


違和感の多い料理店 第1回