食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.6

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを綴るシリーズ。  


グルメ事情百花繚乱

千代田区のある場所に5月に出来た店「R」。SNS禁止、マスコミ取材拒否で基本秘密になっているが、ちらちら情報が漏れ始めて来ている。東京以外の料理人がわざわざ店ごと移動して料理を振る舞う会員制レストラン。オープンキッチンで開放的でもある。

今のところ、素晴らしいラインアップが続いている。筆者もオープンすぐにお邪魔させてもらったが、面白いアイデアだと思う。もちろん現地の店は食材も、調理環境も100%整っているし、店の佇まいや周辺の雰囲気も店の一部でもあるので、かえって現地の店に行ってみて感じたくなる効果もある。

元々、関西の会員に東京の料理人が料理を振る舞うサロンとして京都に存在する「S」がこのレストランのアイデアの元。

いろんな企画構想が食の業界に起こっているのが、今現在である。

なんだかバブルをじきに迎える1985年に神宮前にできたオープンキッチンのイタリア料理店「パスタパスタ」を思い出した。オープンキッチンはその当時保健所の認可を取るのも困難で、それでもやり通した店がオープンした頃はワクワク面白い空気感があった。食が企画と連動し始めた黎明期。何かが変わる時代が来る。あの頃は良い方に行くしかない時代。

少しこの店「R」にお邪魔してその頃に似ていると思えたのだ。ただ、行き着いた先の感じもして、今後の不透明感があるのがその頃との違いか。

折しも今年の4月青山に「テストキッチンH」をオープンさせた山田宏巳氏が、その時のバスタパスタの初代料理長。再び彼が食と企画を連動させ始めた時代と重なっている事も面白い(山田シェフ、まだ行けてなくて、すいません)。

考えてみればその時、山田シェフの下についていた北見博幸氏(ミキータ)、植竹隆政氏(カノビアーノ)、濱崎龍一氏(リストランテ濱崎)と錚々たるメンバーがそこにいて、その他フランスに修行に出て後に広尾のヴィノッキオに呼び戻される阿曽達治氏(元リストランテASO料理長)、その元で働く和知徹氏(現マルディグラシェフ)と「ひらまつグループ」にメンバーが揃っていた時期。この時の「ひらまつグループ」はまるで水滸伝「梁山泊」状態。その後の料理のいち時代を築いて来たシェフたちが勢揃いした面白い時代でもある。

時代は変わってインバウンド対応必須

もちろんこの時は、ほぼ日本人さえ相手をしていればよかった時代。

今のようにインバウンド外国人まで客として完全にターゲットに捉えないといけない時代とはだいぶ違う。

周知のように2017年の訪日外国人は2869.1万人(対前年比19.3%増)と過去最高。韓国、中国、台湾、香港、タイの東南アジア圏、その他アメリカ、イギリス、イタリア、スキーシーズンだけでなくなったオーストラリア人訪日など、ほぼどの国もインバウンドが増え、今年に入って5月までの5ヶ月間で1319万人の訪日外国人と対前年比116%増、6月時点で1500万人を超え、年内3000万人を超えるとみられている。

その中で食をテーマに来る人はどの程度いるのか? 日頃でも人気レストランで外国人客を見かける事も普通であり、地方でもマニアックな食事の場所で出くわす事を考えれば、かなり増えている気がする。

面白い話を聞いた。都内高級ホテル「A」でも「『すきやばし次郎』に予約取れるなら、オタクに泊まっても良いよ」、といった上から目線の外国人客も増えていると言う。

レストラン予約がいろんな面で主軸に動き始めてきている。

こうなると、80年代の頃ような対応ではなく、海外向けの仕掛けを考えているかどうかも必須の時代である。今のままで良いわけがない。予約システムにしてもポケットコンシェルジュはインバウンド対応に力を入れて来ているが、それ以外は内向きの対応が多い。多分これからレストラン自体も国内対応のみの店、海外対応もしっかりする店、ハッキリと二分化していくのだと思う。

そう、実はインバウンド、外国人を狙ったレストランも出てきた。出版のカドカワが初めてレストラン事業に進出した飯田橋の「INUA(イヌア)」。「世界のベストレストラン50」で世界一を4回獲得した「noma」のレネシェフ。そのパートナーであるトーマス・フレベルシェフが飯田橋で腕を振るう。日本の食のレベルは世界でもトップクラス、日本は食材も豊富で、そんな日本で勝負したい、と言うのが本音らしい。

日本も世界の注目を食で集める国になったと言うことなのだろう。

「INUA」、筆者の予約は8月で、まだ訪問出来ていないものの、すこぶる評判が良い。ここにだけ注目するべきとはもちろん思わないが、今回は蟻ではなくて蜂の子がメニューに出ているそう。長野や岐阜に行くと「ざざ虫」同様よく出てくる食材だが、なかなか僕らが好んで手を出すものでもない。そんな日本の昔からある食材を新しい視点から見直してくれると、まったく別物に見えるので面白い。ごはんと蜂の子……どんな味で出てくるのか。これもまた美味だと高評価、今から楽しみでもある。

実は「INUA」まだ「noma」から客が流入するようなウェブリンクがデンマーク「noma」側にされていない。今でも既に外国人のお客さんが多いようだが、「noma」側にリンクがされた時には本格的にインバウンド需要が生まれて来る。

少なくとも2020年までは増え続ける日本に来る外国人にどのように店の情報を伝達していくのか、今後のレストランにはこんな視点も必要だろう。

本当はレストラン業界全体、いや国までもが考えるべき課題である。

国もつい最近外国人労働者受け入れを増やす事に舵を切ったが、専門技能を持った外国人シェフは就労が認められているもののレストランサービスで外国人労働者を雇うことには未だになかなか高いハードルがあって対応出来てはいない。

英語や外国語が喋れるサービスメンバーの育成も、今のままでは個別店舗対応にならざるを得ない。対応策は国も巻き込んで行う必要もある。

来年のラグビーW杯、2020年のオリンピックと開催会場では対応が必須であるにも関わらず、なかなかその準備対応も聞こえて来ない。

特にW杯は会場となる岩手県釜石市や埼玉県熊谷市、大分県大分市横尾など15000人収容、30000人収容スタジアムがあるのに対してその収容人数を処理できる食の準備、特に外国人対応は急務な割にその対応策は見えてこない。

ここはむしろ、これからの日本の食を魅せるチャンスなのだから、企画・戦略が必要だと思う。気づいている人もいると思うが、手探り状態は否めない。全体のオーガナイズが必要な時期にきているのかもしれない。

2020年時、今でさえ逼迫している人気料理店予約はどう対応していくのか? インバウンドをちゃんと受け入れられるのか、食でおもてなしは出来る体制か。世界の方々にステキな日本の食を味わってもらうチャンスと捉えて、食べてもらって評判を世界中に拡散してもらいたいモノである。

そしてその時僕ら日本人は、どこの店に行っているのだろう?それもまた不透明。

2020年の予約を既に受け付けてしまっている店はインバウンドには対応できないだろうし、今後のチャンスをひとつ潰してしまうかもしれない。

今普及しつつある予約サイトも含めて全体で考える必要がある。オールジャパンのためにも。食べログは何か考えているかな?考えていると思いたいけど。

レストランによって異なるのかもしれないが、各所でヒアリングすると、日本に来る外国人客の多くはトリップアドバイザーや食べログ英語版を見てくる客が多いという。確かに点数評価の高い店、食べログゴールド、シルバー、ブロンズ店で多くの外国人客を見かける。

地方でもその傾向は多く見られる。ケープタウンで獲れた「ミナミマグロ」を食べさせる事で有名な静岡市清水区の「末廣寿司」も台湾人個人観光客に溢れていた。最近訪問した高知の人気焼肉店「でべそ」という店でも、片言の英語と日本語で中国の方達が集団で注文している姿も見た。伊勢海老を丸ごと生きたまま焼く「残酷焼き」で有名な徳島の「ししくい」も、台湾人の予約客で満席になる事もあって日本人を断る事もあるという話を聞いた。

日本のどこに行っても、美味しいと言われる店に台湾、中国メインランドの個人客、シンガポール人、タイ人、オーストラリア人などが多く訪問する時代になった。「INUA」はおそらく欧米人を呼び込む事も多くなるだろう。

日本人と外国人が並列に予約対応の必要な時代もそう遠くない。ならば、今後どうして行くのか、方針やら戦略やら対応がそれぞれのレストランにも必要な時代になって来た。

vol.7に続く


vol.5 食のスタンプラリー化ほか


vol.4 キャンセル事情ほか


vol.1 予約困難店、インフレ化ほか


川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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