光る個性 気鋭店が未来を牽引 酒場★新世代

ひと昔前の〝酒場〟といえば、ネクタイを緩めたサラリーマン……といったイメージが強かったが、近年、人気を呼んでいる酒場はガラリと様変わり。モダン空間の中で多国籍料理と日本酒をマリアージュさせる専門店や、圧倒的な発想力の豊かさで街全体を盛り上げるビストロなど、ほかには真似のできない〝新機軸〟を打ち出す気鋭店が続々登場。一歩先行く、ニュージェネレーションのパワーの秘密がここにある!

<東京/代々木八幡>
Sakeria 酒坊主(サケリア サケボウズ)

昨年の9月にオープン/カウンター席で店主との会話も弾む。

ノージャンル&ボーダレス
酒場規格を超えた気鋭店

 いい意味で、日本酒酒場らしからぬ店だ。カウンターをメインにしたシンプルモダンな店内はバーを思わせる趣き。カジュアルな服装に坊主頭がトレードマークの店主・前田朋さんは、吉祥寺『にほん酒や』で経験を重ね、昨年9月に「自分が行きたいと思える」店をオープンした。

サンマのテリーヌ¥1,500/「酔右衛門 特別純米無濾過」¥800。

 取り揃える日本酒の傾向は味に芯があり、酸を感じさせるタイプ。品書きは敢(あ)えて作らず、お客の好みを探りながら銘柄を選び、飲み手や種類に応じて加水やお燗で楽しませる手練ぶりだ。
 酒同様に料理もフリースタイル。刺身やポテトサラダなど定番も押さえつつ、スパイスを巧みに取り入れながら、他の店にはないようなニッチなメニューで誘惑する。例えば、豚スペアリブのオリエンタル焼き。タンドリーチキンから発想したオリジナルで、カレーの要素を控えめに中華のスパイスに寄せたひと品。

豚スペアリブのオリエンタル焼き¥1,350/「白影泉純米」¥1,000。

 合わせる酒は、しっかりした味わいの純米酒「白影泉」。68度と比較的高めの温度にお燗することで味に締まりが生まれ、肉にも負けない力強い味わいを引き出す。想定外の組み合わせに、ただただ驚くばかり。
 午後4時からの営業も左党のツボを突く。店主が試みる美酒の仕掛けとギャップの連続に、深みにハマること請け合い。抜け出す術はなさそうだ。

主要銘柄7~8種に、年度違い等含め約70種ほど。古酒や熟成酒も。
Sakeria 酒坊主(サケリア サケボウズ)
TEL:03-3466-1311
住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-37-1 ロナーYSビル201
営業時間:16:00~23:00
休み:月曜
席数:カウンター8席、テーブル8席
アクセス:地下鉄代々木公園駅、小田急線代々木八幡駅より徒歩5分


<東京/恵比寿>
和酒バル KIRAZ(WASHU-BAR KIRAZ)

笑顔と気さくな人柄が魅力の店主/料理の腕前も超一級!

飲んで食べて日本酒の新たな楽しみを実感!

 先入観や思いこみが(いい意味で)裏切られた時、ある種の快感を覚えることがある。人生経験を積み、ちょっとやそっとのことでは動じないという諸兄に訪れていただきたいのが『和酒バル KIRAZ』だ。
 店を切り盛りする馬宮加奈さんは、徳島の「三芳菊」という由緒ある酒蔵に生まれ育った生粋の日本酒女子だ。
「もともとは、特に日本酒が好きというワケではなかった」が、ある日、蔵を継いだ兄に薦められて飲んでみたところ、その美味しさに衝撃を受けたという。

旬野菜のグリル(¥3,500のコースの一例)/野菜は群馬や高知の農家から。

 日本全国から厳選した銘酒に合わせて供するのは、アヒージョやタパス風料理。高い酒が旨いとか、安い酒は悪酔いするとか、そんな“先入観”をのぞくため、価格表示は敢えてしない。“ありが豚”のグリルに生(き)もとを合わせれば、互いの味のふくよかさが増し、日本酒ベースのカクテルを飲めば、ほろほろと心地よい酔いが身体を包む。そんな、ささやかな発見が、日本酒との距離感をグッと縮めてくれるに違いない。

和酒バル KIRAZ(WASHU-BAR KIRAZ)
TEL:03-3712-7277
住所:東京都目黒区三田2-9-5
営業時間:18:30~23:30
休み:日曜・月曜
席数:18席
アクセス:JR恵比寿駅東口または目黒駅中央口より徒歩10分


<東京/神田>
神田 日本酒バル 酒趣
(Kanda Nihonsyu bar Shu Shu)

ひとり客でも肩肘張らずに楽しめる大人の癒やし空間。

和の要素を排した酒亭で、日本酒の懐の広さを知る

 黒板に躍る「シャルキュトリー盛り合わせ」「スモーク盛り合わせ」の文字。酒亭の概念を小気味よく覆してくれるのは、『神田日本酒バル 酒趣』。バルのように気軽に、日本酒とフレンチやイタリアンを合わせるのがこちらのスタイルだ。日本酒は淡麗辛口を中心に50種ほどを用意。気になる日本酒をいろいろと楽しめるよう、70mlのグラスが用意されているのも嬉しい。

シャルキュトリーの盛り合わせ¥1,200/フォアグラのテリーヌほか。

 料理を担当するのは、総括料理長の堀井貴之さんで「どうせやるなら中途半端はしたくない」と、イタリアンシェフ時代に培った腕を存分に揮(ふる)う。ういきょうで鼻に抜ける香りをプラスし、辛みが強いタスマニアマスタードでいただく自家製のソーセージなど、調味料ひとつとっても並々ならぬこだわりが。敢えて和の要素を排した料理と選び抜かれた日本酒。その相性のよさに、日本酒のポテンシャルの高さを改めて知るはずだ。

左:純米酒「寧音無濾過火入れ」。濃厚な味わい/右:「龍勢冷やおろし 八反」。日本酒はすべて70ml ¥450、110ml ¥600。
神田 日本酒バル 酒趣
(Kanda Nihonsyu bar Shu Shu)

TEL:03-3254-3353
住所:東京都千代田区神田紺屋町5 矢野ビル1F
営業時間:17:00~23:00
休み:日曜・祝日
席数:カウンター8席、テーブル8席
アクセス:JR神田駅東口より徒歩3分、地下鉄神田駅1番出口より徒歩4分


予約が困難な人気店が続出
 酒場最盛!『神泉界隈』事情

 数年前からビストロを中心とした若手の店が増え始めた神泉界隈。今ではジャンルも多岐にわたり、プライベートでもビジネスでも用途によって使い分けられる店の数が多いのも魅力だ。
 そんななかでも、今、人気を呼んでいるのがこの3軒。『ル・ブション・オガサワラ』は、シェフの小笠原正人さんが、かつて訪れたフランス・リヨンのブション(現地ではビストロのこと)を再現した空間。料理も現地さながらに、いずれもポーションが大きく、味わいもしっかり。それでいて、値段も良心的とくればグルメ女子が多いのもうなずける。そんな同店に意中の女性を誘えば、株がグーンと上がることは間違いない。

カップルや女性客で賑(にぎ)わう店内。予約必須も納得。

 一方、大人の粋な時間が過ごせるのが『知花』。薬膳を取り入れた見た目も美しい逸品と蕎麦(そば)のコースを提供する蕎麦割烹だが、9月からは、もっと気軽に楽しんでもらいたいと、酒肴を盛りこんだ蕎麦前セットをスタート。どれも優しい味わいで、お薦めの日本酒との相性も抜群。しっとりとひとりで、あるいはビジネスパートナーと仕事の話をぶつけあっても、どこか心が和む空間だ。

店内奥にはゆったりできるテーブル席も用意。

 仲間とワイワイ盛り上がるなら、断然『かしわビストロ バンバン』へ。近江地鶏をメインに据えたリーズナブルな料理と多彩なお酒で楽しませてくれるのはもちろんだが、元気で明るいスタッフのサービスに思わず気持ちも開放的に。なみなみとワインが注がれる、通称こぼれデキャンタを前にすれば、日頃の疲れも忘れて、仲間と盛り上がることは必然。週末の飲み会にはおぼえておきたい1軒だ。

連日、ワイワイと楽しい雰囲気に包まれる店内。


<東京/神泉>
ル・ブション・オガサワラ
(LE BOUCHON OGASAWARA)

豚肩ロース 自家製ハム¥580/お手頃な前菜も多数揃う。
サラダリヨネーズ¥980/リーズナブルながら迫力のボリューム感。
ル・ブション・オガサワラ
(LE BOUCHON OGASAWARA)

TEL:03-6427-0327
住所:東京都渋谷区円山町13-16 BNKビル1F
営業時間:18:00~翌3:00
休み:不定休
席数:カウンター16席、テーブル10席
アクセス:京王井の頭線神泉駅より徒歩3分


<東京/神泉>
知花(ちはな)

蕎麦前セット¥1,000/酒のアテになる料理が並ぶ。内容は季節により変動。
知花(ちはな)
TEL: 03-3465-0666
住所:東京都渋谷区松濤2-14-5 ヴィラ松濤1F
営業時間:16:00~L.O.22:30※コースは18:00~の要予約
休み:不定休
席数:カウンター5席、テーブル8席
アクセス:京王井の頭線神泉駅より徒歩4分


<東京/神泉>
かしわビストロ バンバン

風味が豊かなトリュフのパルミジャーノリゾット¥880。
かしわビストロ バンバン
TEL: 03-6416-4645
住所:東京都渋谷区神泉町2-8
営業時間:18:00~L.O.23:30(土曜17:00~、日曜17:00~L.O.22:30)
休み:月曜
席数:カウンター6席、テーブル34席、テラス6席
アクセス:京王井の頭線神泉駅より徒歩すぐ


<大阪/島之内>
島之内 フジマル醸造所
(Shimanouchi Fujimaru Jouzousyo)

連日満席で予約必須。

隣でワインが発酵中!ワイナリー酒場の突破力

 2階フロアの大きなガラスから1階を見下ろすと、巨大なタンクでポコポコと、今まさに発酵中のワインの姿が。時には、大阪南部の葡萄畑から運びこまれた大量の葡萄を、若きオーナー自らが圧搾する姿まで。
 このワインダイニング『島之内 フジマル醸造所』は、その名のとおり、ビルの中に本格的ワイン醸造施設を備えた、世界でも例のない都心型ワイナリー&ダイニングだ。国産ワインから、注目のグルジア産ビオ・ワインまで、約20種のグラスワインのなかには早速、2014年ものの新酒もサーブ中。そのうえ、シェフの岡学さんは神話的名門『ポンテ・ベッキオ』の出身。

イチジクのキャラメリゼとスモーク・リコッタ。¥1,200。

 前菜にもメインにも、表に裏に、無数の手間をかけた料理は堂々、トップ・トラットリアの域にある。その極上イタリアンを食堂価格で、すぐ隣で発酵するワインのライヴ感とともに楽しむ時間、それは特別な興奮にならないわけがない。

赤ムツとアサリ、季節野菜のココット蒸し/スープは昆布が隠し味。¥3,150。

 さらに昨年末、この醸造所の経営母体である大阪・日本橋の『ワインショップ フジマル』にも新展開が。広々したショップの一角をリニューアルし設けた、スタイリッシュな試飲カウンターだ。ここではなんとグラスワイン以外に、約2200種類揃うワインすべてが、小売価格と同価格で楽しめるから驚き。

20年熟成のポマール1級(モンティーユ)¥7,906など、掘り出し物が無数のフロア。宝探し感覚でも楽しい。

 もちろん、その大半は選び抜かれた極上の自然派ワインである。さらに、画期的なのは、すぐ近くにある黒門市場からフードの持ち込みまでOKなこと。多彩なお総菜だけでなく、鰻、ハモ、フグ刺しなど、黒門市場名物に世界のワインをぶつける楽しみに、グルマンなら妄想ノン・リミットなのではないか? 
 そして、今年4月には、東京に進出。絶品の料理とワインが楽しめるダイニングに、直接購入可能なショップも併設し、早くも人気を呼んでいる。大阪から飛び火した、ワイン酒場の進化系の勢いは増すばかりだ。

左:グルジア産ビオ「イアゴ・チヌリ」。グラス¥1,200/右:伊ビオの最高峰、マッサヴェッキア「ベラーチェ」。グラス¥1,500。
島之内 フジマル醸造所
(Shimanouchi Fujimaru Jouzousyo)

TEL:06-4704-6666
住所:大阪府大阪市中央区島之内1-1-14 三和ビル2F
営業時間:13:00~L.O.22:00
休み:水曜、第3木曜
席数:31席
アクセス:地下鉄松屋町駅4番出口より徒歩1分


<大阪/日本橋>
ワインショップ フジマル
(Wine Shop Fujimaru)

常備する料理はパテと煮込みのみ/肉厚のパテ・ド・カンパーニュ¥1,000。
左:シチリアの気鋭グラーチ、「エトナロッソ」グラス¥1,000/右:グルジア産ビオ、「ディディミ・ツォリコウリ」¥3,580。
ワインショップ フジマル
(Wine Shop Fujimaru)

TEL:06-6643-2330
住所:大阪府大阪市中央区日本橋2-15-13
営業時間:12:30~21:00
休み:火曜
席数:13席
アクセス:地下鉄日本橋駅10番出口より徒歩5分
●テイスティングワイン5 種¥500


東京店はこちら
<東京/浅草橋>
ワインショップ&ダイナー
フジマル 浅草橋店

 神田川沿いにある同店では、有名店とコラボした、ユニークな料理も楽しめる。

ワインショップ&ダイナー
フジマル 浅草橋店

TEL:03-5829-8190
住所:東京都中央区東日本橋2-27-19 Sビル2F
営業時間:13:00~22:00
休み:火曜
席数:10席
アクセス:地下鉄浅草橋駅A1出口より徒歩4分


<大阪/北新地>
スタンドシャン食(スタンドシャンショク)

シャンパーニュはグラス2種、ボトル40種を常備/1919年産もあり。餃子はまず、トリュフ・オイルでお試しを。


斬新な発想力が生んだ ”泡”×”餃子”の新世界

左上、左下:シャン食餃子¥500(6個)。グリーンペッパーほか4種のタレで/右:「ジョゼフ・デスプロワ・キュヴェ・シャンパン食堂」グラス¥950。

 シャンパーニュにはキャビアより餃子の時代? しかも、プロデュースが、北新地周辺で多彩なシャンパーニュ・ダイニングを手がけるTMグループとなれば、信用度も格別である。
 今年8月末、新地本通り1階でスタートしたこのバールの主役は餃子。プロデューサーであり、シャンパーニュ・マニアの元田武章さん曰く「昔から両者は相性が格別と思っていて。考え方によっては、餃子もビストロの肉料理のひとつでしょ」と微笑む。餃子には、炒めキノコと玉ネギで上品な甘みを加え、4種のタレのほかにトリュフオイルもカウンターに常備するなど、チューニングを重ねたスペックも流石である。シャンパーニュは気軽なグラスから1964年ものの「ゲイスラー」(4万円)など、熟成ものも破格の良心価格。餃子が開く、シャンパーニュのアバンギャルドな新境地、一度は遊んでみたい。

スッキリしたフロアは基本スタンディングだが、イスもあり。
スタンドシャン食(スタンドシャンショク)
TEL:06-6147-2498
住所:大阪府大阪市北区曽根崎新地1-5-9 谷安プレジールビル1F
営業時間:17:00~翌2:00
休み:日曜・祝日
席数:基本的にスタンディングのみ
アクセス:地下鉄西梅田、JR北新地駅より徒歩2分

Text=粂 真美子、小寺慶子、山脇麻生、盛岡ツトム、寺下光彦 Photograph=冨澤 元、上田佳代子、上野元行、菅野祐二、福森クニヒロ map=データ・アトラス

*本記事の内容は14年9月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。
14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)