反町隆史・温子音・石井孝之 男の人生にはいつだって珈琲がある

人と語らう時、集中力を高める時、ひと息つく時。「24時間仕事バカ!」の傍らにはいつだって珈琲(コーヒー)がある。珈琲を愛する者、そしてそこに情熱を傾ける者―。
コーヒーカップを覗(のぞ)きこめば男たちの仕事術が見えてくる。珈琲のある場所、すなわち仕事人たちの最前線を訪ねながら、あの人の珈琲時間を覗く。

反町隆史 充足感を味わえる特別な嗜好品

愛用のファイヤーキングのカップで、淹れたての珈琲に目を細める反町隆史。15年前、キリマンジャロの山頂でキリマンジャロコーヒーを飲むという番組企画を立てたほどの、珈琲好きである。
「あの味は一生忘れられません。苦労してたどりついた山頂で、自分で淹れた珈琲を飲むことで、達成感と充足感を心ゆくまで味わえた。僕にとって珈琲は、自分の理想のシチュエーションで飲みたい、特別な嗜好品です」
シチュエーションを整えるためには入念な準備が必要になる。例えば友人を釣りに連れて行く時。山登りをする時。新しい作品に臨む時。準備を怠らないから自分も周りも楽しむことができ、珈琲を味わう余裕ができる。
「なんだって準備不足だと不安で楽しめませんし、行き当たりばったりだと絶対に失敗するわけです。釣りやキャンプは多くの道具が必要なので、現場をイメージしながら段取りを組む。俳優の仕事も一緒で、台本を何度も何度も読み返し、監督と納得がいくまで話し合ってから現場に入る。そうすれば無用なプレッシャーも減らせますしね。きちんと準備をして遊びや仕事を終えたあとの珈琲は、どんなものでも格別です」

Takashi Sorimachi
1973年埼玉県生まれ。'94年俳優デビュー。代表作に、映画『男たちの大和』『蒼き狼 地果て海尽きるまで』など。3月7日放送のドラマ『執着 捜査一課・澤村慶司2』で主演をつとめた。


園子音 必要だからこそこだわりすぎてはいけないんです

『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『地獄でなぜ悪い』など、鋭い作風で世界の注目を集める映画監督・園子温。そんな鬼才が、小さなカップに砂糖をふたつ入れた。
「普段はブラックだけど、身体が糖分を欲しているんだよ」
取材が行われたのは都内某スタジオ。新作『ラブ&ピース』の撮影の合間だ。
「この脚本を書いたのは27歳で、ぴあが撮らせてくれた作品が国際的に注目された頃。アイドルのドラマを撮らないかなんて話はあったけど、撮りたくなかった。なのに自分の企画は通らない。今考えると、うまくいかなかったのは全部自分のせいなんだけど、この脚本には当時の怨念が入ってるかもしれない」
内省的にくすぶっていたその時代、珈琲にハマって都内の純喫茶を巡り歩いていたという。その数年後、あらゆる自分の殻を突き破ることで完成した今の園子温の哲学は、「こだわって頓挫するなら、駄作でもいいから完成させる」。
「いつだって煮詰まってますけど、どうにか撮っちゃう。何でもできはしないけど、以前より経験があるから、ある種の自信はある。映画は肉体労働だから、監督をやれるのもあと10年が限度。そう思ったら、無駄なことやってる時間はないよね」
そんな戦場のような現場に珈琲は欠かせないが、味へのこだわりはなくなった。
「贅沢を言いだすと、必要な時に手に入らなくなるから。現場には珈琲が必要なんですよ。理由はわからないけど、お茶を飲みたい時と、珈琲を飲みたい時は違うよね。ブレイクのためじゃない」
 現場を仕切る男の眼光は鋭い。その一挙手一投足に、ある者は心酔し、ある者はうなだれる。現場の珈琲はだからこそ旨く、だからこそ苦い。

Sion Sono
1961年愛知県生まれ。'87年にぴあフィルムフェスティバルグランプリ受賞。以後精力的に作品を発表し続ける。『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』など、国内外で注目を集める。


石井孝之 ラグジュアリーな空気を引き立ててくれる味と香り

現代アートを扱うギャラリーとして、タカ・イシイギャラリーは国内外で広く知られる。右の写真は、オフィススペースの奥に位置する「ビューイングルーム」。下見や接客に使われている。多少なりとも作品購入の意思を持つ顧客が招じ入れられることになるので、
「ここでお出しする珈琲に妥協はできません」
とは、オーナーの石井孝之。アートは決して安くないものだし、オリジナルの価値を持つ。そうした商品を扱う場として、ギャラリー内はできるだけラグジュアリー感を保ちたい。香りや味に深みがない珈琲を出してしまっては、雰囲気が台無しになりかねないのだ。
「僕が相対するのは、モノを見る目がある方ばかり。珈琲の話をすることは少ないけれど、旨い珈琲を淹れれば『おっ』と反応してくださいます」
豆は都内の専門店から仕入れ、いつもペルーの豆を指定。酸味は抑え目で、香り高く飲みやすいのが気に入っている。
1日に数件の来客があり、石井氏はそのつど珈琲を飲む。他に、自席で考えごとに耽(ふけ)ったり、大きな商談前に集中を高めたい時などにも、手元には愛用のコーヒーカップを欠かさない。縁を薄く仕上げた陶製のマグで、
「口当たりがいいからか、味もぐっと引き立ちますよ」
多い時で1日5杯は飲むが、作り置きはしない。ドリップ式で丁寧に落としたものを淹れたてのタイミングで飲む。
「シンプルな飲み物だけど、細部にこだわると、味わいに大きな差が生じるのは面白い。そんなところは、どこかアートと似ているのかもしれません」


Text=山内宏泰、須永貴子、渥美志保 Photograph=名越啓介
*本記事の内容は14年2月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい