食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.2

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを数回にわたって綴る。


お酒をあまり飲めない人に対する件

お酒を楽しむ事をウリにした店がお酒を飲まない人、飲めない人お断りなのはよく分かる。

前回の予約争奪戦の話の時にも触れた店だが、雑色にある「トラットリア ラ マルゲリータ」はあくまでもワインを楽しんで欲しいのが店主の気持ち。その為「ワイン飲めない方お断り」と貼り紙にハッキリ書いてある。

とは言え、ここで出すワインは決して高いわけでもなく一本5000円程度のリーズナブルワイン。ただしご主人のワインへのこだわりは輸入時の温度管理法にまで及ぶ。

メニューには「ヒラメのカルパッチョ」、「ニューカレドニア産の天使の海老」、店名にもなっているピッツァ「マルゲリータ」などがあり、いずれもこのメニューを美味しく楽しむために幾つかのワインが位置付けられている。

これとは全然違う話になるが、笑ったのが、代々木上原の美味しいお蕎麦屋さん「手打蕎麦ごとう」で、「当店は蕎麦屋です。お蕎麦を召し上がらない方はお席代としておひとり500円頂戴しております」と言う貼り紙。

そうか蕎麦屋に来て蕎麦食べない人もいるんだぁ、と逆に驚かされる。ホント客も百人百様。

僕らの常識と思っていることが、そうではないケースも多い。

一度お誘いを受けたけど、日本酒をそれほど飲めないと行くのも失礼かなと思ってお断りした川崎市高津区にある大人気創作料理店「潟潟や」。この店、逆に日本酒の苦手な人も楽しめる日本酒があると謳っているのを聞いて、行けばよかったと今更ながら後悔している。そう、こうした提案があれば、全く飲めないと言うわけでもないので、出来る範囲で存分に楽しみたい。

そう言えばコーヒーハンターとして有名な「ミカフェート」やGINZA SIX内「グランクリュ」というカフェを展開する川島良彰さんが「うちはコーヒーが飲めない、苦手な人にこそ、本物のコーヒーを飲んでもらいたいから来て欲しい」と言っていた事を思い出した。確かにコーヒー苦手な友人を連れて行った時に「え?まるで別の飲み物、味が透き通ってる」と言って簡単に飲み干した。ダメなものはダメではなくて、ダメなものをなんとかそうではないように工夫するのもアリだと思う。


ぺアリングの位置付け

一方、酒といえば、最近ペアリングで出す店が増えている。僕のように2、3杯程度で酔い始めてもう十分かなとなってしまう人間からすると出てくる皿に合わせたペアリングで飲むとtoo much。コース後半はグダグダになってしまい、料理を味わうどころではなくなってしまう。好きな飲み物を好きな量だけ飲みたい方。

昨日行った焼肉屋さんでもビール1杯、レモンサワー2杯の後は烏龍茶に変えてしまった。このくらいが丁度良いのが自分のキャパ。

そう言えば先月4月24日付のイギリスの科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に日本人は酒に弱くなるように進化のプログラムに組み込まれていた事が理化学研究所や大阪大学などから発表された。なんらかの要因でアルコールに弱い日本人を作る事で生きるために優位になる事があったようだ。

2017年実施の最近の調査(※)を見ても、20~70代までで飲酒回数0回を含む月に3回以下が6割弱(56.8%)を占める。2012年は52.6%だったので、たった5年で4.2%も飲まない人が増えた事になる。

50代は半数である5割がほぼ毎日飲むのに対して(「毎日」が34.6%、「週に5~6日」が15.4%)、20代は1割程度しかいない。(毎日飲む人はわずか9.5%、「週に5~6日」が1.1%、計10.6%)※出典は(2017年の東京都生活文化局実施「健康と保健医療に関する世論調査」(調査対象:20歳以上70代まで)

全体的に、男女ともに飲酒の頻度が高い人は40代以上に多く、30代以下には少ないため、これから徐々にもっと飲めなくなる人が増えるであろうから早めに対応策を業界で考えた方が良い。

もちろん酒類、ペアリングが単価を上げ、利益を確保するためのひとつの手法というのもよくわかる。でも、コース料理だけなら3万円台の料理(それでも十分高いが)なのに、ペアリングする事で料金がひとり10万円になる人気フレンチにもビックリするし、昔は「うちは肉の味がわかってもらえれば良いので、お好きなワインをお持ちください」と持ち込みも無料だったステーキ屋さんは、今ではペアリングで20万円を超える事もある店になったと言う。人は人気が出て、売れてくると考え方が変わるよう。

渋谷区にある人気料理店のペアリングは料理は美味しいのに、セレクトされた日本酒ぺリング含めたワインペアリングが全く僕には合わなかった。個人的な好みの話なのかもしれないが、その時一緒にいた人間に聞いても合わなかったそう。味の好みは相対的なので相当吟味しないとみんなに合うセレクトは難しいと思う。

せっかくの美味しい料理がもったいない。自分で選んでいれば自己責任だけれど、それも出来ないのでその店に通う事をやめてしまった。料理は美味しかったのに残念。これもやり方に違和感を感じた例。

逆に場所も連絡先も非公開の渋谷区にある「ete」でいただいた「白子と下仁田ネギと蟹とカリフラワー、オレンジ色はカラスミ」のひと皿に合わせてペアリングで出された「白子を混ぜた日本酒」はまるでスープのように楽しめる日本酒になっていた。その時、ペアリングの楽しさが覚醒した覚えがある。提案さえ良ければ本当に楽しめる。だが実際にはなかなかそれに出会えない。

こんなケースもある。来た客にはひとり一本はワインを飲んでもらう、と言うノルマの店。飲めない人もいるんだから(実はその料理人も飲めない)、だったら、その分お金払うから気持ち良く食べさせてもらいたい、と思うのは僕だけだろうか。その時一緒に行ったゲコの方が『僕は来てはいけない、と言う事をおっしゃってるんですかね』と少し寂しそうに呟いた姿は今も僕の脳裏から離れない。だったら、先ほどの店のように「入店お断り」にして、ちゃんと分かるようにネットなりで宣言して欲しい。

もしくはそれなら最初から飲もうが、飲むまいがひとりいくらと言ってもらった方がこちらも行くか行かないか決めやすい。

名古屋にあるお店から「あなたはお酒を飲めないので、次の予約を受けません」と言われた友人がいる。会員制の粉物系のお店。

アレルギーとまでは言わないけれど、お酒を楽しみたくても楽しめない人もいる。決して彼の場合ケチってるわけではなく、いつもノンアルコールビールをひたすら飲んでいるから問題ないと思うのだけれど。その拒否理由が何故だか基準がわからないと違和感マックス状態になる。

酒や飲料は店の利益の根幹。でも先ほども触れたように、20歳以上の6割がほぼ飲まない人になって来ている。さあ、どうする。

インバウンドで外国人が増え、お金持ち外国人の中に金に糸目をつけずガブガブ、ワインを飲む人もいるが、一方、実は逆に厳しい現象もあって、イスラム系の方は宗教上飲めないのはもちろん、香港、台湾、アジア系の方の多くに、ドリンクにお酒も飲まずに「Hot Water(お湯)」を注文し続けて飲む人も多いのだそう。お湯ではお金は取れないと嘆く店主もいるが、外国人の喜びそうな北海道の水とか富士山の源泉ミネラルウォーターとか、痩せる水と言われるコナニガリ水(ハワイ深海水で1本なんと750ml 40,200円!まっ、これは冗談)とか今流行りの「作りたて強炭酸水」を提供できる機械とレモン果汁やら各種の搾りたてフルーツの果汁を入れて付加価値をつける事も有りかもしれない。

評判の銀座のフュージョン料理「チウネ」や人気中華の大井町「萬来園」のようにある程度良い値段の美味しいジュースを用意してくれれば、こういう店に来る客は食を積極的に楽しもうと思っているので何か美味しいモノを飲もうと前向きであることが多い。現に僕の友人はその両店ともに提案されたジュースをガブガブ飲んでいた。このように店側は世界中から美味しいドリンクをワイン同様、見つける努力もする必要があるのかもしれない。(もしくはこう言うお客さんに日ごろ好んで飲んでいるモノを聞いておき、さらにそれを超える提案があったりすると、尚のこと嬉しい)

そして小料理屋等では当たり前の「お通し」的に飲み物料を取ることもあり得る。もしくは飲もうが飲むまいがある一定量までは統一価格という手もある。(平均価格より少し高めにセット)。

あの伝説の高級会員制餃子店(滅多にやらないし、店主の意向次第なので店という概念に当てはまらないが)「M苑」は食べて飲んで○万円と価格は開催時に決まっている方式。ある意味明朗会計。

広告業界でも、ある予算内で良い提案があればクライアントは受け入れてくれる。ワインもノンアルコールドリンクも同じで予算が明確で良い提案と分かれば受け入れる。開けてびっくりの予算オーバーみたいな話がワインには多いので、違和感が出てくる。広告業界では想定していた予算を大幅にオーバーすればクライアントに怒られるか次の仕事はない、という話になる。

これが常識だと思うが、食の業界側ではそうでもないと思っているのかもしれない。

僕らだって店には是非適正利潤をあげて、ずっと健全経営して長続きして欲しい。そのために、ある程度高くてもいいから個々人に合った美味しいシャンパンと白ワイン、赤ワインが明瞭会計だったら出来る限り、目一杯喜んで飲みたいと思う。

駆け引きのように客からどれだけ取れるかと言う敵対的な話ではなく、お互いがどこで納得できるか仲間のように店の人とお互い知恵を出し合って、ずっと良い関係を続けられるのが理想だなと僕は思うのだけれど。

第3回に続く

第1回: 食べログフォロワー数日本一・川井潤の「違和感の多い料理店」vol.1




川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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