EXILE橘ケンチはなぜ日本酒に魅せられたのか?

日本酒を心から愛するEXILE/EXILE SECONDの橘ケンチ。日本各地の酒蔵を巡って親交を深め、近年では自らの手で日本酒造りも行っている。橘ケンチはなぜ日本酒に魅せられたのか? 年々深まる一方という日本酒への愛について話を聞いた。


酒の本当の旨さに目覚めた

20代の頃から「お酒」というよりも「お酒の場」が大好きで、仲間とよく飲みに行きました。いま振り返ってみると、その頃は"酔うこと"が楽しかった。お酒のジャンルは何でもよかったし、お酒を味わうというより「盛り上がって仲間と楽しめればそれでいい」という感覚がありましたね。

そんな意識が大きく変わったのが、2016年の秋のことです。お世話になっている方に、麻布十番の日本酒バー「赤星とくまがい」に連れて行ってもらって、日本酒と料理のペアリングというものを初めて体験しました。その体験は、まさに衝撃でした。

「日本酒って、こんなにおいしいんだ」。そして、「こんなに料理に合うんだ」と。それまでにも日本酒を飲んだことはありましたが、優先順位は低かったんです。どちらかというと、ビール&焼酎派。それが、自分の中で日本酒の存在が一気に膨らんだ。一晩にして、違う人間になったかのような気分でしたね。

ちょうどその頃、LDHが分社化し、LDH JAPAN、LDH USA 、LDH EUROPE 、LDH ASIAと世界に支社をもつ体制に変わりました。各支社にEXILEのメンバーが入り、それぞれが世界を盛り上げる。その変革のなかで、僕はLDH ASIAの担当になりました。

アジアの国々へ頻繁に行くようになり、現地の方とお話しする機会が増えました。そこで強く感じたのは、「僕は自分の国を、何も知らないな」ということ。現地ではLDHについて説明すると同時に、日本という国の魅力や歴史、現在の様子についても話さなければなりません。でも、できなかったし、日本を知る努力が足りないと痛感しました。逆に、もしできるようになれば、大きな武器になるとも思ったんです。

日本酒は文化発信に欠かせない

日本について知識を深めていくにはどうしたらいいのか? 入口として、「日本酒、ありだよな」と、ひらめきました。その頃はちょうど僕の日本酒愛が強まっている時期で、「蔵を訪ねて作り手と話をしたい」という気持ちが高まっていました。EXILEのコンサートツアーでは、全国各地を回ります。地方都市に出かけたときに、酒蔵に足を運ぶことにしたんです。

酒蔵にはツアーの合間に出向くほか、コンサートの翌日がオフであれば、その日を酒蔵めぐりの日に当てています。酒蔵は、コンサート会場があるような都市ではなく、人里離れた不便な場所にあることが多いですから、場合によっては1日がかりになります。現在、僕が訪ねた酒蔵は80か所くらいになりました。

全国各地の酒蔵を訪ねるようになって気づいたのは、「酒蔵はその土地のハブである」ということ。酒蔵には老舗が多いですから、その土地の歴史に詳しい。原料は米なので、農家との付き合いも深い。製造のためには気候や風土も知らなければならない。郷土料理との相性についても考えるので、食文化や飲食店についても豊富な知識をもっている。酒蔵の主人や作り手と話をすると、酒に限らず、さまざまなことが学べます。

また、酒蔵は横のつながりが深く、蔵同士の情報交換が盛んですから、新しい情報も得られます。「次はあそこの蔵を訪ねてみるといいよ」という感じで、紹介してくれることも多いんですよ。

自分の手で日本酒を造る

日本酒に傾倒し、知識はかなり増えましたが、自分としては物足りなさも感じていました。お酒に込められた作り手の思いや物語を理解するには、自分で造る必要がある。そう思い立ち、交流があった新政酒造社長の佐藤祐輔さんに「自分の手でお酒を造りたい」と申し出ました。

佐藤さんをはじめ、蔵人の方々は、僕をあたたかく迎えてくれました。こんな素晴らしい蔵でお酒を造る限りは、中途半端は許されない。酒造りの全工程に携わることを決意し、秋田に通いつめました。お酒造りは力仕事が多く、肉体的には想像以上の厳しさ。でも、楽しかった。出来上がった日本酒「亜麻猫橘」を初めて飲んだときの感動は一生忘れることができません。

日本酒造りは、僕の生活の一部になりました。新政酒造の翌年には、京都の松本酒造でお酒造りに挑戦。日本酒に夢中になって最初に買ったお酒が松本酒造の名酒「澤屋まつもとSAIDO」で、いつか一緒に仕事をさせていただきたいとの夢を持っていたんです。出来上がった酒は「守破離橘」。これも抜群のおいしさでした。さらに今秋には、3回目のお酒造りとなった福岡県・白糸酒造「橘六五」が完成しました。

"日本酒があるライフスタイル"を深めていたところ、LDHグループで飲食店事業を展開するLDH kitchenから「飲食店をプロデュースしてみないか」という話をいただきました。酒蔵を熱心にめぐる僕の姿を見ていたHIROさんが、「新しく店を作るならケンチにやらせてみたい」と推薦してくれたそう。もちろん、快諾です。そして、9月8日、目黒区青葉台に「LDH kitchen IZAKAYA AOBADAI」が開店しました。

※次回(橘ケンチさんがプロデュースした「LDH kitchen IZAKAYA AOBADAI」はどんな店なのか)に続く。

Kenchi Tachibana
神奈川県生まれ。2007年に二代目 J Soul Brothersのメンバーに抜擢。その後、’09年、EXILEにパフォーマーとして加入。’11年からは、橘ケンチ、黒木啓司、TETSUYA、NESMITH、SHOKICHIの5人から成るEXILE THE SECONDとしても活動を開始する。’13年、NHK Eテレ「リトル・チャロ4 英語で歩くニューヨーク」に得意の英語を生かしてレギュラー出演。ちなみに、英語のほか、北京語も堪能。俳優業にも積極的で、劇場版『SPEC~結~』、ドラマ『スターマン・この星の恋』(関西テレビ)、舞台『歌姫』などに出演。


Text=川岸 徹 Photograph=鈴木規仁