『ラ・ブリアンツァ』奥野義幸が目指す、日本ガストロノミーの構造改革とは?

「ラ・ブリアンツァ」のオーナーシェフ奥野義幸氏は、自身を「料理人の顔を持ったビジネスパーソン」だと表現する。ミシュランのビブグルマンに3年連続で選出され、麻布・六本木界隈で人気店を複数運営する一方、国内外でのレストランプロデュース、コンサルタント業、講演、メディアへの出演など、多岐にビジネス展開をはかる姿は、黙々と料理に向き合う職人気質が崇拝されがちな日本では異端に映ることもある。「料理はレストラン運営のいちパーツでしかない」。そう断言する奥野氏は、日本ガストロノミーの構造を根底から問うイノベーターだ。


なぜ日本にスーパーシェフはいないのか?

六本木ヒルズの一角にあるイタリアン「ラ・ブリアンツァ」。イタリアの星つきレストランを渡り歩き、研鎖を積んだ奥野義幸氏が繰り出す料理は、独創的で洗練されていながら、どこか懐かしさも漂う。有機野菜や天然酵母の自家製パンなど、食材も選び抜かれたものばかりが使用され、味にうるさいフーディーズからも絶大な支持を得ているわけだが、さらに驚くのはその価格帯だ。

一流レストランがしのぎを削る都内一等地にありながら、ランチは¥1,800〜、ディナーコース¥3,990〜というリーズナブルさ。そのコストパフォーマンスは驚異的としか言いようがない。「おいしいイタリアンを広め、もっと愛されるように」という想いがあるのは言わずもがなだが、その“広める”という目的に対しての奥野氏のアプローチは実にロジカルだ。

「カッコよくて、おいしい料理をつくりたい。これが料理人として最初に通る道です。しかし多くの料理人が、これができれば勝手にお客様が来ると思っている。実際、僕もそうでした。味に自信はある。しかし受け入れられない。3日間、お客様がひとりも来ない日が続くなど、死にたいと思ったこともありました。

そこで気がついたのが、『どうすれば自分の料理を食べてもらえるか?』をもっと理論的に考える必要があるということ。おいしい料理をつくるのは当たり前で、料理人の責務です。でもそれを広めるためには、考えなくてはならないことが山ほどある」

白とブルーを基調としたモダンな「ラ・ブリアンツァ」の店内。ビジネスの多角化で多忙を極める奥野氏だが、ほぼ毎日厨房に立っているという。

ヒエラルキーの頂点に君臨する、1回の食事で5万、10万とかかる店ではなく、40〜50代前半くらいの年齢層で日本経済を牽引する人が最も多く存在し、払える単価も高いミドルレンジに愛されること。ここに狙いを定めた店づくりをすることが、ラ・ブリアンツァの味を広め、ビジネス拡大の最短ルートになると踏んだ奥野氏。コンセプトに「ハイエンドなファミリーレストラン」を掲げ、サービス、価格設定、コスパ、お客様とのコミュニケーションなど、“おいしい”という満足感を構成するあらゆる要素を戦略的に練り直したという。

一方で、創業時から貫いていることもある。それは、お客様に合わせて料理の味を変えること。「自分たちの味を、分かる人に食べてもらえればいい」というスタンスを貫く店も多いなか、奥野氏は性別、年齢、会話から趣味嗜好を読み取り、同じパスタでも味つけを適宜アレンジする。さり気ないが、受け手の心を動かすには十分なもてなしだ。

「ビジネスパーソンとして勝つには、“常に気遣いであれ”。気を遣えない人間って、天才じゃない限りしんどいですよ。僕は天才じゃないから、とことんまで人のことを考えるんです」

この日奥野氏が振る舞ってくれたパスタは、手打ちのパッパルデッレにラムの煮込みを絡ませた一品。パルミジャーノをたっぷりとかけて。

結果、「ラ・ブリアンツァ」をはじめとする3店舗は、連日連夜大賑わいの人気店へと成長を遂げた。今年9月には、日本橋高島屋に新店「フォカッチェリア ラ ブリアンツァ」もオープン。食べ放題のブッフェとイタリア・レッコ村から届く貴重なチーズを使う極薄のフォッカッチャがセットになったコースを軸に、ドリンクも上質なワインが¥4,000台から揃い、より身近に奥野氏の味を楽しめる形態になっている。

「僕は、オーナーシェフだけど全国に何十店と展開する人間になりたいんです。ジョエル・ロブション、アラン・デュカスなど、世界にはビジネス感覚を持ったスーパーシェフがいますが、日本にだって存在していいはず。日本に強く根づいている『シェフは常に店にいなきゃいけない、常に料理と向き合っていなきゃいけない』という考え方に、問いたいんです。イタリアンというコンテンツを使い、どの切り口で儲けるか。そのためにはお客様に認知され、愛される必要がある。僕は、料理はそのいち要素でしかないと思っています」

「味を追求し続けるのは当たり前。大切なのは“その先”を見据えること」。これを自ら体現しようと試みる奥野氏。今はまだ目指す先の道半ばだというが、奥野氏の想いが実を結ぶとき、日本のガストロノミーにまったく新しい風が吹き込まれる気がしてならない。


YOSHIYUKI OKUNO
1972年大阪府生まれ。和歌山の割烹料亭の息子として育ち、アメリカの大学で経営学を学ぶ。28歳で渡伊。リグーリア州やピエモンテ州など、8州の星つきレストランで研鑽を積み、2003年「リストランテ ラ・ブリアンツァ」をオープン。現在、4店舗のオーナーシェフとして腕を振るうほか、食品プロデュースや料理講師、海外での店舗プロデュースなど幅広く活動中。


Text=岡村彩加(ゲーテWEB編集部) Photograph=田尻陽子