アジアNo.1『ガガン』×福岡『ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ』の夢のレストラン

去る3月末、「アジアのベストレストラン50」2018年版が発表された。4年連続でトップに輝いたのは、バンコクにある「Gaggan(ガガン)」。そして、2年ぶりに48位に返り咲いたのは、博多フレンチの雄「La Maison de la Nature Goh(ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ)」。この名店を率いるふたりのスターシェフが、アワードの余韻も冷めやらぬ4月5〜7日に福岡で再会。完全クローズドのポップアップレストラン「GohGan(ゴーガン)vol.8」を開催し、フーディ達の舌を唸らせた。  

ガガンさんと福山さんの指示のもと、両店のスーシェフを中心にチーム一丸となってテキパキと料理が完成していく。

“アジアのトップ”と“博多美食界の太陽”が一期一会のジャムセッション

「ガガン」ガガン・アナンド氏と「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」福山剛氏によるフードイベント「ゴーガン」。“ゴーガン”とは、それぞれのレストラン名である「La Maison de la Nature Goh」と「Gaggan」を組み合わせた造語だ。シェフ同士のコラボレーションがまだ目新しかった2015年8月に第1回を開催、その後も年に3回ほどのペースで継続されていて、今では日本のみならずアジア中のフーディーズ注目のイベントとなっている。

第8回目となる今回の会場となったのは、博多の繁華街からほど近いモデルハウス。テーマである「すべての生命が芽吹く春 桜の宴」に合わせて、満開の桜が庭一面を埋めつくし、風情のある夜景を創り上げていた。

今回の「ゴーガン」は、各回16名限定のゲストがひとつの食卓を囲むスタイルで、九州や東京、日本各地のほか台湾やバンコクからも両シェフのファンが駆けつけた。
 
「3年前の夏に開催した第1回は、私たちふたりにとってもコラボレーション自体が初めての挑戦でした。当時、手探りで始めた新しいプロジェクトに関心を持ってくれる人はまだ少なく、それぞれが友達を誘ってなんとかゲストを集めました。それが現在では1時間で完売するイベントに育っています」(ガガン氏)

「ガガン」名物の絵文字メニュー。頭をひねって考えた答えもことごとくハズレ。予想を凌駕する料理が続々と登場した。

夜9時半、ガガン氏による挨拶と共に配られたのは、世界一読み解くのが難解(?)な“ガガン名物”絵文字メニュー。こんなイベントに馳せ参じるゲストは、いずれも食べ歩き好きを自認する面々ばかりだ。絵文字を前に、それぞれの食経験を踏まえて回答を導き出そうと、初対面同士でもたちまち距離が縮まる。

こういったポップアップイベントは「食材や厨房の動線、調理器具、チームが通常と変わることで料理の完成度が左右される」と、あまり積極的に取り組まないシェフもいる。また、とりわけ文化も言語も国籍も異なるシェフ同士の場合、コミュニケーション言語の問題もあり、それぞれのシグネチャーメニューを持ち寄るかたちでコースを組み立てることもある。

もちろん、それはそれで自慢の料理をお互いのファンに披露するいい機会だし、ゲストにとっても「今度はこのシェフのお店でコース料理を味わいたい」といったモチベーションにつながるメリットがあるのだが、ガガン氏と福山氏の場合、積み重ねてきた歴史が違う。

かたやインドアクセントの英語、かたや博多弁が母語。最初は「これにちょっとバターを加えて」といったシンプルな会話さえ、お互い「?」となることもあったそうだが、現在はふたりでディスカッションを重ね、どちらのレストランでも提供されない「GohGan」独自のメニューを生み出している。それはまさに一期一会のアート。ガガン氏が言うところの“ジャムセッション”だからこそ生まれるライブ感だ。

1品目は、ウェルカムドリンクのブラッディマリー。オレンジの中にはロシアのウォッカをトマトジュースではなく梅とシソのジュースで割ったカクテルが。

クリエイティビティ溢れるユニークな料理の数々は下記にレポートするが、とりわけ「ゴーガン」の性格をくっきりと描き出していたのが、締めとして登場したカレー。カレーは第1回以来、毎回登場するシグネチャーディッシュだ。

今回は庭に設置したオープンエアの薪釜で、ガガン氏が、出身地であるコルカタのインドカレーをベースに、タイ風のフレーバーをほんの少し加えた牛ほほ肉のカレーを勢いよく煮込む。一方の福山氏は、春らしい筍とそら豆の炊き込みご飯を土鍋で炊き上げた。この両者が調和したひと皿は、当然ながらインド料理でも和食でもなく、と言ってよくあるイノベーティブ料理のもの珍しさもない。なぜか食べ慣れた懐かしささえ感じさせる、世界のどこでも味わえない「ゴーガン」の味だった。

独自の投票システムから地方都市は分が悪く、一度ランク外になると再浮上するのは難しいと言われる「アジアのベストレストラン50」。福山氏率いる「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」はその既成概念を覆し、2年振りに48位に返り咲いた。

クリエイティビティに満ちたメニューはこちら!

地方都市からアジアの食を世界に発信。次なるステージは日本へ

福山氏との出会いが、人生を変えたというガガン氏。

「日本の四季を反映した高品質な食材や食文化の豊かさに魅了された私は、もっと日本にコミットして食文化を知りたいと考えました。けれども当時の日本では、バンコクで働くインド人の私を受け入れてもらうのは、なかなか難しかった。そんなとき、ふたつ返事で快諾してくれたのがゴウ。いま、私の元には毎日たくさんのビジネスプロジェクトが持ち込まれますが、ゴウ以外のパートナーは考えられません」

福山氏いわく「ガガンとは年齢も国籍も違うのに、通じるものがあって分かり合える」そうだが、その理由についてガガン氏はこう解説する。

「生年は違うけれど、ふたりとも誕生日が近くて性格や思考が似ています。ガストロノミーのクオリティは追求したいけれど、格式高い空間ではなく、お客様がリラックスしてワイワイ食事を楽しまれる姿を見るのが好きなんです。そして、ふたりとも博多が好き。あと、このお腹の出っ張った体型も双子のようにそっくりでしょう(笑)」

ガガン氏は4年連続でアジアの首位に立ったいま、アワードの世界から退き、2019年には受賞を辞退する意思を固めているそうだ。2019年末まで「ゴーガン」シリーズをポップアップとして継続し、2020年にはガガン氏、福山氏双方がレストランをクローズ。2021年には福岡にふたりで共同運営するファインダイニング「ゴーガン」をオープンする予定だという。ガガン氏は現在、その実現へ向けて、福山氏を水先案内人に、博多の老舗や名店とも親交を深め、博多に根を下ろす準備を着々と整えている。

「2021年以降、今後はGohGanとして再びアワードのステージでお会いしましょう」

言葉の壁を超えたふたりのコミュニケーション。2021年の「ゴーガン」開店に向けてガガン氏は日本語、福山氏は英語の個人レッスンを受講している。
Gaggan Anand
インドのコルカタ出身。2007年にシェフを志してタイ・バンコクに移住。インド料理を現代に再構築すべく、2010年、バンコクに「プログレッシブ インディアン キュイジーヌ」を掲げる自身のレストラン「Gaggan(ガガン)」をオープン。2015年~2018年、「アジアのベストレストラン50」で4年連続首位を獲得。才能の発掘にも力を入れていて、バンコクでは肉料理専門店「Meatlicious(ミートリシャス)」、モダンドイツ料理店「Sühring(ズーリング)」、女性シェフにスポットを当てた「Gaa(ガー)」などをプロデュースする。2018年3月、福岡の豆腐専門店「三原豆腐店」のバンコク店をオープンした。
Takeshi Fukuyama
福岡県出身。高校在学中からフランス料理店で調理の研修を始め、1989年より福岡のフランス料理店「イル・ド・フランス」にて研鑽を積む。1995年よりワインレストラン「マーキュリーカフェ」のシェフに就任。2002年、福岡の西中洲に自身のレストラン「La Maison de la Nature Goh(ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ)」を開店。日本の地方都市から食文化を発信することを目的に、地方都市レストランの旗手として海外のトップシェフとも積極的に交流。その人柄が慕われ「西中洲の太陽」の愛称で九州やアジア各国で絶大な人気を誇る。


Text&Photograph=江藤詩文