食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.11

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを綴るシリーズ。   


飲食店からの選民が進む時代。SNSやらあれこれ

案外相手はなんとも思ってないのかも知れないが、これまでフェイスブックで繋がっていた料理店店主からいつの間にか、友達関係を削除されていたりする。別に大した意味ではないのかもしれないが「あぁ、『あなたは別に店に来なくていいよ』もしくは友達に一度はなったものの『あなたのこと、大して仲良くないし、他の人優先するからバイバイ』と言う意味のメッセージだ」とこちらは勝手に受けとめ、削除されたんだなぁ、と考えてしまう。ただそう来られると、その店に結果自ら積極的に行くことはまずなくなる。

会員制の和食屋さん、プロモーション上手な肉屋さんが僕の場合それに当てはまる。先日も友人からたまたまその店へのお誘いを受けたけれど、もうその店に行く気にはならないのでお断りした。

まあ、相手からすれば上から5000番目(フェイスブックの上限人数は一応5000人=上限人数解除の話も出ていたが現在はそのまま)にもならない友人関係なのだから、来なくたって屁の河童だろうが、まあ、こうして勝手にくっついたり縁が切れたりしていくのも今のSNS時代の特徴なのだろう。

そうなると逆に、あの店のオーナー、料理長、シェフと縁が切れるのは嫌だなあと思う人も結構いるので、そのためには頻度多く通うなり、先方が困っている時や頼みごとがあったりした時はなるべく応えるようにしている。それでも、年間店に食べに行ける回数は決まっていて多くても四季ごとが精一杯で、普通は年に2回程度行ければ良い感じである。そんな事から年間に2回以上リピートする店はせいぜい20店舗程度と自分の場合、限られている。

東京で食べログに登録されている店の数は13万6千軒。(全国では88万軒)実際には、仮にほぼ毎日まわったとしても晩ご飯なら延べ300軒が限界だろう。ランチ入れても600~700回行ったら異常だと言われるだろう。以前にも触れたが、あくまでも日本全国の平均外食回数は昨年11月では月4.15回、平均外食価格2,531円と言う現実もありつつ(「2017年 ホットペッパーグルメ外食総研調べ」)、年間にしても50回程度といったところ。

実際に僕が食べログに書き始めて2年数ヶ月、書き込み件数1300、その間海外に行った時や、あまりにも取り上げるに値しない店は書き込んでないので、おおよそ年間650回くらいか……。平均に比べて約10倍強。10人分外食していると思うと異常だよね。でも、僕の周辺にはそれ以上の人たちがわんさかいる訳で……。やはり、この周辺の人たちは普通の人たちではない事、時代はグルメバブルである事をちゃんと認識しておかないと、すべてを見誤る。こんなブームやトレンドなんて、いつの間にかサッと変わってしまうもの。

一方、今バブルだからこそ客の選別を多くのお店が出来ることも事実。選別自体を店のプロモーション手段に使っている状態もいつまで続けられるか……。

ビジネス界では「見える化」がひとつの流れだが、レストラン業界はどんどん「見えない化」「秘密化」の流れになっている。会員制(わずか31人のみの会員制の店もあるし)、常連客のみ、ツイッターのみからの予約受付、マンション個室での食事会開催、住所連絡先完全非告知、もちろん行ったとしてもSNSへのアップ禁止。どんどん、知られない存在の店が増えている。マーケティングの世界では新規顧客を獲得するコストは既存顧客維持の5倍かかる「1対5の法則」と言うものが存在しているが、既存顧客を守って維持していくことの方が効率は良い。(新規顧客は店をマンネリ化させないためであったり、今までと違う客を開拓し、次に繋げるためであり、よく見られるのは2~3割程度取り込んでいく形態)。

もちろん昔から秘密の存在の店、そんな店はあったのだが、その時代は本当に客を選び、店の雰囲気を保ちたい、と言う狙いだった。だが今はさっきも言ったようにプロモーションの色合いが濃い。

場所も秘密、ラインのみ予約受付(と言うことは知り合いのみしか予約できない)の中目黒の「U」、違和感のある扉だけが主張する白金にあるイタリアン「E」、ネット上に店の名前はあるが場所は不明確で常連のみ予約のできる西麻布「W」、紹介者同行で暗証番号を押してしか入れない広尾の中華「W」。

かつては客を選別するための手段だったものが、今はそれもありつつ店のプロモーションになっていて隠れんぼゲームのような感覚になっている。かれこれ20年以上前だが隠れ家的店は紹介者が2人いないと入れない自宅を店にしていた「K」や評判はともかくマンションを転々として店を移転していたイタリアンのジプシーシェフ「Uさん」の店=知人でないと追いかけられない店だった。五反田(住所は白金台)の住宅街にあり、ごく普通の一軒家に看板も何も出ていない「石鍋N」あたりが走りだったかもしれない。その「石鍋N」も紆余曲折を続けつつ、今月から再び同名店舗をあの名物マダムが腕を振るう形で六本木で再開し始めた。昔から有名人が集まる場であり、会員制のようなものだったが、今回はハッキリと会員制を謳っている。本気なのかプロモーションなのか、近々見に行ってみようと思う。

今は閉店してしまったが南平台に合言葉を言わないと入れないバーもあった。まあ、これは愛嬌であちらが「山」と呼びかけて来ると答えはもちろん「川」なので、答えられれば誰でも入れてくれると言えば入れてはもらえたが……。その店、来てたメンバーが確かに凄かった。芸能界のドン(女性)Wさん、元野球監督Gさん、ロッケンローUさんなど、店にいるだけで周辺に人達がビビっていることも多々あった。でも、こう言うのは洒落っ気があって楽しい。

なんだか、あの頃と違ってワクワク感が今の会員制にはない。つまりは店側の勝手な都合であって客本意の店づくりではない感じがするのだ。

さて、こうした店主導の店作りの影響で徐々に客側のニーズと乖離して始めている。行きたい時に行ける店がなく、接待やデート時に悪影響を及ぼしてくるのだ。2ヶ月先の接待ならまだ対応のしようもあるが、今週、下手すれは今日明日に店を決めないといけない状況では相当厳しい。特に彼女と盛り上がった時なんて早めに設定しないと意味がなくなってしまうケースが多いと思うのだが……。みんなの予約が人気店に集中しているために結局、勝負時のゴハン、いわゆる勝負メシの場所が消滅してしまう。

美味しい会員制だったら、行きたい時に行けるようにしてくれないと会員制の意味がない。ましてや美味しくもない普通の味の店が会員制をひくことに意味はない。むしろ腹立たしい。

となると、予約できない時には結局昔から続く老舗店やグランメゾンでの食事に落ち着く事も最近良い手だと気づいた。そろそろミーハー的スタンプラリーのようなレストラン巡りにも飽きて来た事も影響している。

中華であればホテルオークラの「桃花林」もありだしマンダリンオリエンタルホテルの広東料理「センス」、パレスホテル東京の中国料理「琥珀宮」、フレンチは昔ながらの四谷の「オテル・ドゥ・ミクニ」、有楽町「アピシウス」、ANAインターコンチネンタルホテル東京36階「ピエール・ガニェール(ホテル内にあるにしては珍しく月曜休みと言うのが難点であるが)」、帝国ホテルのフレンチレストラン「レ・セゾン」も数日前に予約を入れれば、大箱でもあり、ほぼ入れる。なんと言ってもその辺りにある店とは違って最上級のホスピタリティでおもてなしをしてくれる。

そうそう、「レ・セゾン」でのランチ時の事であるがジャケット着用がお約束ながら、外が暑かったためジャケットを持って入ったら、「今は到着したばかりで暑いから良いのですが、落ち着いたらジャケット着用をお願いします」とさりげなく年配の店のサービス担当の方から注意された。その言い方もスマートで好感が持てたし、喋り方のトーンにもよるかもしれないが若者から注意されていれば気分も違ったかもしれないが紳士然とした年配のサービスマンから言われれば若輩者のワタクシなんかがカチンときている場合じゃない。汗は引いていなかったが1分後にはちゃんとジャケット着用していた自分がいた。

当然ながら味、サービス、すべてがお手本になるようなレベルの高いお店。満足度も相当高い。ランチでいただいたので、コースで7000円(税込み、サービス料は別途)とビックリするほどリーズナブル。シャンパンを一杯飲んでも税サービス入れて1万円を少し超える程度。

下手な予約困難レストランへ数ヶ月先に行く約束するよりも、入りやすいこのグランメゾンへ行くのはホントにおススメ。大切な人、大切な日に是非使いたいお店。

だって勝負どきに予約が取れないんじゃあ、彼女と仲良く出来るチャンスを大きく逃している危険性があるのだし、そう言う時に逆に店の方でなんとか席を作ってくれたりすると、もうその店から一生離れられないライフタイムバリュー(顧客生涯価値)的な存在になって、自分も常連、愛用者になって長期にわたってリピートしようと思うようになる。

僕にとっては融通を利かせてくれるお寿司屋さんはいつも頭の中で気にかかる。日比谷だったり二子玉川だったり。学芸大、代々木上原、新富町にあるお寿司屋さんも気にかけて下さるので勢い寿司の回数が増える。三田にある中華、その他仲良しフレンチ、和食の方々、なども今年お世話になってしまったので、いつも頭の中の意識にあって自分が行けなくても知り合いの上顧客を紹介したくなる店である。

顧客のコントロールなんて案外簡単なもの。美味しくてちょっと融通利かせれば、ホントそれだけで、常連顧客になってしまう。下手な限定感の小細工なんて必要ない。

vol.12に続く


vol.10 勘違いしている料理店


vol.9 経営権と料理人と


vol.8 違和感ある現象、対応などあれこれ






川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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