食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.10

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを綴るシリーズ。    


勘違いしている料理店

大阪で相当人気の焼き鳥屋さんらしいが、電話すると「初めての方には聞いていただくことがあります」と電話口でおばちゃんが言う。それを聞けないなら、席は用意できないと。もちろん「はい、聞きます」と僕。店は混雑しているので最低3時間はかかる。途中で帰ったりするのはお断り……ん? と言うことは店は18時半スタートなので、新幹線でその日のうちに東京に帰りたいと思っていた僕には新大阪駅発最終新幹線21時23分に乗るのにちょっと間に合わず、無理である事が咄嗟に判断できる。「あー、だと、新幹線に……」と言ってる最中に、電話を一方的にガチャッと切られた……。

ふーっ、なんだか、大変だね。楽しむための食事なのに、予約時点でストレスが溜まるなんて。人気出るとこれだから……、なんだか世の中理不尽だわー。まだ、オンラインで予約が取れない方が無機質で諦めがつくし、電話のリダイアルも諦めがつくけどいつの間にお店の人ってこんなに偉くなったんだろう。

ガチャ切りは大井町の人気居酒屋でもされたな。言っておきますけど、それって失礼ですから。

と思えば先日お邪魔した京都「下鴨茶寮」、予約時間のタイミングで玄関前にお出迎えに来てくれていた。もちろん部屋のしつらえ、掛け軸、サービスのタイミング、すべてがほぼベスト。先ほどのガチャ切りと正反対。どうやら、この食の世界には素晴らしくホスピタリティが行き届いている店もあれば、酷すぎる店もある。すごく料理の勉強している人たちもいれば、ダメダメな社会常識もない人達が混在していて、料理業界とひとくくりで語れるものではない。

勉強をしていると言えば、銀座の「盡(じん)」料理長の佐藤 慶さん。僕が知る限りではあるがその料理へのこだわりは理論から来ているものであり、相当の知識量。別に彼が話してくれるわけではなく、じっくり所作を見てると感じるものがある。今回はしつこく僕が聞いてようやく語ってくれた。バターは自家製、それもその日作ったものしか食べさせない。ご本人が乳化剤と安定剤が苦手だからこそここに至っている。佐藤 慶さんのバターは清潔な容器の中で牛乳を掻き回して水と脂に遠心分離させる。つまりは乳清(ホエー)とバターに分離。それが本来の形であり自然のモノ。分離させないために乳化剤と安定剤を入れる製品は不自然。だからこそ、人が従来から受け入れていた体にとって自然の形で提供したい、と言うのが佐藤 慶さんの哲学。

さてもうひとつ「アニサキス」等虫やら細菌対応の件。これも勉強して知識があって、ちゃんと調理していれば確率は相当落ちる。僕の知人でも人気有名フレンチ店で食事した翌日の明け方に起きた腹痛で病院へ駆け込むことになったケースもあったし、別の友人は食物アレルギーの一種であるアナフィラキシーにまでなって、いつも食事の際注射を持参している。一緒に食事に行くと僕らに彼はこう言う「自分は食べ物でいつ気絶するかわからない、何で反応するかもわからない。家族は練習済みだが、もし自分が倒れたら注射をお願いします」と。元々料理番組も担当していた演出家だから、食事のたびにビクビクする姿はかえって痛々しいし、万が一そんな症状が出たら僕らも冷静に対処出来るかどうか自信もない。

最近では食通で著名だった「佐藤尚人さん(通称さとなおさん)」がアナフィラキシーにかかり、寿司好きだったのに魚が一切食べられなくなくなったことをブログ上で告白した事に皆一堂に驚き、ショックを受けた。僕自身さとなおさんとは面識はないものの、これだけ食べているといつ同じようになってもおかしくない。この事は決して他人事ではないのだ。

アニサキスは魚等の内臓に寄生し、魚の死後筋肉に侵入。筋子では、筋子を守ってる膜の内側に入って来ると言う。厚生労働省にガイドラインが提示されていて冷凍でマイナス20度で24時間以上、生食用の魚は マイナス20°Cで7日間又は マイナス35°Cで20時間がアニサキスの死滅に効果的と書かれている(ヨーロッパでは基準自体は日本より緩いが実は次のことが義務付けられている。生食用の魚及び軟体動物はマイナス35°Cで15時間以上又は マイナス20 °Cで 24 時間以上の冷凍)。加熱の場合は中心部の加熱が60°Cで1分が有効と言われている。

さて、本当に料理人さんはこの事を知って行動してくれているのか。先ほどの佐藤慶さんの場合は加熱は芯の部分を85℃まであげ、筋子の場合はワインを90度近くまで火にかけその中に筋子を入れて処理すると言う(75℃でも生きたアニサキスを見たので、ここまで上げているのだそう)。そう言うケアの上に美味しい料理を作り上げるのが本当のプロだと思う。ただ単に美味いのが一番ではないのだ。人の命を預かっているのだから真剣に勉強する事が基本だとも言う。こう言ってもらえると本当に僕らは安心出来る。

別の銀座の有名イタリアンシェフからも以前言われたことがある「川井さん、僕らは食べ物を扱っているのだから、殺そうと思えば殺せるんですからね」と。ドキッとするような強い言葉だが、そう、僕らは料理を食べる時に、もう少し命を預けていることをちゃんと認識しなければいけないと思う。実際、もう10年以上前になるが(今ほど食物アレルギーが問題になっていない頃に)僕の前職の会社の後輩で蕎麦アレルギーの人間が知らずに食べた料理の隠し味に蕎麦粉が使われていて悲劇に見舞われたことがある。悲しいことに呼吸困難に陥り命を落としてしまった。

知識を持つことも重要だが、店側でそれに呼応して細かなケアが実際に出来ているかが重要。と同時に、食べる店を選ぶ僕らにも本当は責任はある。どう考えても悪い環境の店で生肉に近いものを食べたら、それは自己責任と言われても仕方ない。この夏、一度「あっ、ヤバい」という経験もあった。そこで食べた翌日具合が悪くなった。決して環境的に褒められるような店ではない人気ホルモン店へ行った時のことである。幸い軽い症状で済んだが、やはり店、メニュー選択は自己責任の部分も大きい。そう言えば、そこの亭主、冗談だったのかも知れないが、もし具合悪くなってもウチで食べた事は言わないように、なんて言葉も言っていたし。

そう、わずか2年前の2016年に起きた東京と福岡での肉フェスの食中毒。もう既に僕らの記憶から薄れつつあるが、実はあれが鳥肉の火入れの不十分さが原因でカンピロバクター細菌によって600人もの人たちが具合が悪くなったケースである。潜伏期間が長いのも厄介で原因が特定しにくい。多くの人はほぼ数日で下痢発熱悪寒は収束するようだが、怖いのはまれに「ギラン・バレー症候群」と言う難病を引き起こし、食あたり後、両手足に力が入らなくなったり、自己免疫疾患ゆえ全身麻痺で死ぬことさえあると言うことだ。2018年の厚生労働省の発表している速報の食中毒件数の原因では関東ではアニサキス、関西方面ではカンピロバクターに起因するケースが多く見られる。

僕が食品衛生責任者の資格を取るために受けた座学でも「(一社)東京都食品衛生協会」が一番強調していた部分が鶏肉の生(牛生レバーも)の危険性で、このカンピロバクターとギラン・バレー症候群の話だった。

料理人さんが勉強していて信頼できる人、その上に美味しい事、さらに自分と相性のよい人であるともうそれはベストである。見えない勉強代やら仕入れの工夫やら仕込みで値段が張るのは理解できる。だってこちらも命を預けているのだから。単なる美味さだけにお金を払う時代ではないと思う。美味しい鮨を提供する「鮨 喜邑」の大将の木村さんに熟成寿司の事を語らせれば右に出る人はいない。木村さんは魚の熟成に8台の冷蔵庫を駆使し毎日毎時毎分のように小まめにチェックし、寝る間も惜しんで仕込んでいらっしゃる。熟成となるとそれは細心のケアが必要になるし、ひとつひとつ魚の種類によってどこから痛んで行くかも違うらしいので神経細かに研究なさっている。食べる側からしてもそうしてもらえないと安心できない。さらには鮨職人を集めて酢飯の研究会を開いたり、研究熱心でもあり後輩の指導にも当たっている。勉強熱心さには頭が下がる。

肉で言えば、「よろにく」のVanneさんもそう。どの部位の肉をどういった厚さで切って、どのくらいの秒数もしくは分数焼くか、さらには火をつけたり止めたり、余熱を駆使してベストで食べるとは何なのかの追求に余念がない。部位のネーミングもシズルを伝えるには重要。商標登録した「シルクロース」は本当に名前の通り繊細な味わい。牛の腰の内側の肉で牛1頭からわずか800gしかとれない部位には「ツチノコ」と名付け、いかにもマボロシの部位を表すネーミングをつけている。タレを少しだけつけていただくのが美味しいとVanneさんのオススメ法で食べると本当に目から鱗の美味しさ。もちろん「シルクロース」も「ツチノコ」もこの店オリジナルネーミングだが、悲しいことにパクるヤカラがいるのも事実。人が時間をかけて研究したり、アイデアを出しているのに、リスペクトもなく平気でパクる店がある。これも、業界内の良い店、悪い店を判断するよい材料になるかもしれない。

そんな勉強熱心な人たちの中に素人のような料理人も紛れ込んでくるから厄介だ。店の人気なんて適当な評判が評判を呼んでできあがってしまう事もある。地方にある熟成寿司店で明らかにイッちゃってる魚のネタを出して来る店があると言う話も聞くし、入店の仕組みが面白いからと評判になって人気になった店などは明らかに勉強不足であり、雰囲気もの。下手すると僕らの肝臓がヤバくなる。そういう店をちゃんと客側も分からないと、ただ単にグルメブームに乗っかる浅薄な人だと自分自身痛い目にあう危険性がある。

これはギャグに近い話だが、僕が呼ばれたある地方でのもてなしで「エイジドビーフです」、さあ食べてくだされ、と出された肉は単なる年取った牛の肉だった。それ、エイジドビーフの直訳で年取った牛であって丹精込めた熟成牛とはまったく違うものですから……。流行に乗っかるだけでまったく勉強していない人が混在する事も僕らは知っていないといけない。

ただ逆に勉強していることや深く研究していることを表に出さない料理人さんは多い。そんな事をひけらかしたらかえってみっともないと思ってらっしゃるのが職人さん気質。見せないそういう部分を感じて確信するのも食べ手側のセンスであり、ただ食べるだけでなく、そこに気づいた時は新しい人と出会った時のように楽しい。

今回のコラムで再三言ってきたように僕らは外食の際、料理人さんに命を預けていることを改めて再認識すべきであり、その上に美味しさの追求があるんだと思う。そんな視点も必要な時代になってきた。

vol.11に続く


vol.9 経営権と料理人と


vol.8 違和感ある現象、対応などあれこれ


vol.7 料理店に対する満足度の法則



川井 潤
川井 潤
元博報堂DYメディアパートナーズ。テレビ番組「料理の鉄人」ブレーン(1992年〜97年)。現在、食品メーカー、コミュニティ運営会社、新聞社等アドバイザーを務める。ここ数年は、滋賀県近江地区の美食プロジェクト、愛媛県真穴地区のみかんのブランディングなど地域や食のため、料理人の地位向上のために日本中のみならず海外まで出かけている。食べログフォロワー数日本一。食雑誌dancyuなどへの執筆多数。現在新たな食ビジネスへ料理人とコラボ企画進行中。
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