もう一度世界へ! ヒゲも伸ばして大人になった石川遼の臥薪嘗胆~ビジネスパーソンの言語学52

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「自信をつけるのは簡単ではないが、自身を失うのはあっという間。だから練習をするしかなかった」ーーー男子ゴルフツアー・日本プロ選手権で初の国内メジャーを制した石川遼

そこにかつてハニカミ王子と呼ばれた少年のおもかげはなかった。力強いガッツポーズとヒゲ面の笑顔。すっかり大人になった27歳の石川遼が劇的なゴルフを見せた。最終日、一時は首位と7打差となりながらも、驚異的な追い上げを見せ、最後はプレーオフを制しての国内メジャー初優勝。それがいかに奇跡的な出来事だったか、本人が一番感じているようだ。

「信じられません。今までの優勝で一番興奮した。落ちるところまで落ちて、優勝は不可能だと思っていた」

石川にとって15回目の優勝は3年ぶり。15歳で初優勝、17歳で賞金王と“史上最年少”が代名詞となっていた石川だが、ゴルフ人生もどん底まで落ちていた。2016年から一度は世界を目指したが米ツアー19戦で10度の予選落ち。米ツアーのシード権を失った。昨年はドライバーのイップスに苦しみ、今年になってからは腰のヘルニアで棄権という屈辱も味わった。

「自信をつけるのは簡単ではないが、自信を失うのはあっという間。だから練習をするしかなかった。今年までしかシード権がなくて、生涯獲得賞金の出場資格まで考えた自分がいた」

それでも石川は諦めなかった。これまでも、そしてこの日も。この日の彼は確かに幸運だった。17番、首位のハン・ジュンゴンのティーショットは池に落球しダブルボギー。ここで追いついた。そして、迎えたプレーオフ1ホール目で石川がカート道に打ち込んだボールがフェアウェー中央に跳ね返ってきた。確かに奇跡かもしれない。だが、その奇跡を呼び込んだのは、石川の諦めない気持ちがあったからだ。

「初日にOB、2日目に池に入れて、第3ラウンドは2連続ダボ、第4ラウンドは何が起きるか考えた。ゴルフノートを書きたくない日もある。でも逃げるのは簡単。逃げないことで見えることもある」

失いかけた自信を取り戻せることができたのだろう。石川は優勝インタビューでふたたび世界を目指すことを公言した。

「富士山より高い山に登りたい。エベレストに登ってやると思うことが大事。これから8000メートル以上を登らなければならない」

天国も地獄も味わい、すっかりベテランの風格も漂う石川だが、まだ27歳だ。逃げずに戦い続ければ、奇跡が訪れることもあるということを彼は教えてくれた。奇跡と呼ばれることのない勝利をつかむ日もそう遠くない気がする。

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images