小さな体で優勝を成し遂げた貴景勝のネガティブ力 〜ビジネスパーソンの実践的言語学21

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「明日はうまくいかないだろう、明日はうまくいかないだろうと思いながらやった」ーーー大相撲九州場所で初優勝した小結・貴景勝

身長175cmは、大相撲の世界では小兵の部類だ。戦後32人の横綱のなかで、貴景勝より小さい力士はいない。唯一、昭和28年に横綱になった第42代横綱・鏡里喜代治が175cm前後。当時よりもはるかに力士の大型化が進んだ現代の大相撲で、22歳の貴景勝が優勝の偉業を成し遂げたのは、立派の一語に尽きる。

高校3年で入門した貴乃花部屋は、この1年ゴタゴタ続き。九州場所前には、貴乃花親方が突然引退し、千賀ノ浦部屋に移籍することになった。相撲に集中するのも困難な状況のなか、13勝2敗で優勝。相撲の技術、肉体の充実だけではなく、メンタルのコントロールもうまくできていたからこその結果といえるだろう。

優勝を意識しはじめたのは、7日目以降。

「明日はうまくいかないだろう、明日はうまくいかないだろうと思いながらやった。うまくいかない前提でやっていた」

スポーツにおけるイメージトレーニングといえば、勝つこと、成功することをイメージし、意識づけるというのが一般的だ。北島康介は、オリンピックでのガッツポーズまでシュミレーションできていたというし、羽生結弦もジャンプが成功することをイメージしながら眠りにつくという。

だが、貴景勝は違った。自分には15日間勝ち切る力はないかもしれない。だから「うまくいかない」ことをイメージする。よくいえば謙虚、悪くいえばネガティブ。でもだからこそ、そこから「じゃあ、どうしよう」と思考が進んだのではないだろうか。千秋楽、大関・高安が御嶽海との一番に敗れて優勝が決まったが、貴景勝はこの一番を観戦せず、黙々と優勝決定戦の準備をしていたという。きっと「うまくいかない」から、常に準備を怠らないのだ。

優勝しても決してはしゃぐことはなかった。直後のインタビューでは、笑顔がないことを指摘され、「うれしいけど笑う必要はない。力士だから。次の場所は始まっている」と回答。一夜明け会見でも同じような謙虚な言葉を繰り返した。

「達成感を出してる場合ではない。今場所で終わりならあるかもしれないけど。まだまだありますし」

「何が(優勝できた)理由か分かっていない。そこが課題」

「来場所、白星黒星じゃなく質を高める」

横綱不在の場所での優勝ということで、本人としても満足、納得できない部分があるのだろう。時代は結果至上主義、勝てばすべてが肯定される。スポーツでもビジネスでも結果がすべてだ。だからこそ、貴景勝のような結果に一喜一憂しない古くささが輝いて見えるのかもしれない。闇雲に結果を求めることなく、自分を見つめ努力し続ける。それが成功、勝利への王道であり、近道だ。そのことを証明してほしいから、彼には古くさいまま、謙虚でネガティブなまま相撲界を盛り上げていってほしい。

次回に続く

Text=星野三千雄


新人王・大谷を讃えるイチローの飽くなき向上心


羽生結弦を絶対王者たらしめる勝者のメンタリティ