浅野忠信 世界で最も求められる日本人俳優。独自の方法で語学を習得 激変する映画界と向き合う

この冬に公開されたハリウッド大作『沈黙-サイレンス-』では、江戸時代の通辞(通訳)を演じた俳優、浅野忠信氏。膨大な英語セリフ、その流暢(りゅうちょう)さに驚いた人も多かったに違いない。

「英語の勉強はハリウッドで出演作が決まった2009年くらいから始めてはいましたが、本当に手探りで。定まってきたのは4年くらい前。知人から教わった、精読できるレベルの文章を毎日1時間音読するという方法なんですが、最初の1年間は中学校の教科書を本当に毎日、全部で500回くらい繰り返して......。英語が大嫌いになりました、吐き気がするくらい(笑)」

 20代で出演し始めた海外作品には、俳優としての楽しさと方向性を見い出した。だが「小さい頃から面白そうなものにすぐ挑戦し、やり始めてから"こんな大変だったとは"と後悔するタイプ」。今回もそのパターンだったが、苦労の甲斐あって今では通訳なしで英語台本に対処できるようになっているという。

時代が求める映画の変化を無視しては通れない

『47RONIN』『マイティ・ソー』をはじめ、30代での海外への挑戦で培われたものは? と問えば、答えは「諦めない粘り強さ」。実は『沈黙』のオーディションでは一度落とされたが、巡り巡って別の役で返り咲いた。

「"マーティン・スコセッシ監督と仕事がしたい。きっとできる"と、根拠もなく信じていましたね。『モンゴル』(2008年公開)の時もそう。全員ロシア人の現場で、モンゴル語も乗馬もダメな自分には無理だろと思いながら"やります"と言ってしまった。でもなんとかなるもんですよ。もちろん大変な努力が必要でしたが、みんな助けてくれるし。0.001ミリでもやりたい気持ちがあるなら、最後まで諦めるべきじゃない」

 集大成的な『沈黙』を終え、早くも始まっている次の挑戦は、20年以上ぶりとなる民放連続ドラマ『A LIFE~愛しき人~』への出演、つまりテレビである。「20代で多く出演したインディーズ映画が、ある時期から製作本数が減っていった。30代では思いもしなかったハリウッド映画に出るようになり、40代の今は、映画がiPhoneですら撮れる時代になっている。映画にも時代の流れがあって、もちろん今も映画館で観るのが理想ですが、それ以外でも楽しめるものも求められている。そんな変化のなかで僕自身がこれまでの映画の枠を飛び越えるために、テレビに向き合う必要があった。ここにきてテレビのやり方に対応するのは本当に大変なんですが、それも承知のうえ。町のおばちゃんに"見てるわよ"なんて言われる、僕はそんなふうにありたいんですよ」

 だが本音を言えば、状況に「挑戦させられている」だけで、実はもっとゆるゆると生きていたいらしい。

「世の中が"挑戦する人がカッコいい"と言いすぎるから、僕みたいな人間は"怠けてちゃいけないのでは"とプレッシャーを感じちゃって。自分を挑戦へと鼓舞するなんて、頑張りすぎですよ。むしろぼーっと外を眺め、光や季節の匂いや風を感じて、楽しかった子供時代が蘇るような瞬間のほうが、僕自身は挑戦に前向きになります。深く考えず、流れに身を任せればいいか、くらいの気持ちにね」

Tadanobu Asano
1973年神奈川県生まれ。88年にデビュー、映画を中心に活躍し海外にも活躍の場を広げる。今年はマーティン・スコセッシ監督作品『沈黙-サイレンス-』ほか、クリストファー・ドイル撮影『壊れた心』、『マイティ・ソー』シリーズの第3弾『ソー:ラグナロク』など海外作品の公開が続く。

Text=渥美志保 Photograph=薄井一議

*本記事の内容は17年2月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)