Grade 4 back and sides inch on top~ツーブロッカーに罪はない~

英国王エドワード1世の末裔にして、父親はニューヨーク・タイムズ誌の東京支局長。日本で生まれ、11歳で渡英すると、英国皇太子御用達のプレップスクールから名門ロンドン大学に進む。帰国後、現在はタレントとしてラジオDJやMC、情報番組のプレゼンターなどで活躍するハリー杉山。英国の超エリート社会でもまれた日々、そして日本の芸能界でもまれる日々に、感じることを綴る。

ルールへの依存は成長の道を閉ざす

現代社会が我々に与える情報量は無限大です。我々は日々、様々な電子機器を駆使し、朝起きると共に最新の情報により脳をアップデートし、いらないと思った情報を海馬は捨てていきます。新型コロナウイルスが世界を襲う今、緊急事態宣言が発表された4月上旬から4ヵ月が経ちました。きっと皆様も僕同様、ワクチン、抗体検査、ファクターX、補償、クラスター、医療崩壊。いろんなコロナ関連のキーワードを検索し、グレーゾーンを彷徨ってきたでしょう。それに加えて、#Blacklivesmatter、ベイルート大爆発、ゾンビゼミ、香港国家安全維持法、スポーツ再開、イスラエルUAE国交正常化……衝撃や感動を与えるニュースに溢れた一方、日本社会の各方面から、自分が驚くほど議論に上がったテーマが一つあります。

「ツーブロック騒動」です。

都議会にて、都議会議員が複数の都立高校でツーブロック禁止の理由を質問したところ、教育長は、「外見等が原因で、事件や事故に遭うケースなどがございますため、生徒を守る趣旨から定めているものです」と回答。驚きの答弁。ツーブロックだと犯罪に巻き込まれやすいデータが何もない中、意味のない校則と思い、世間は怒った。多様化を受け入れる時代にしては、外見で人を差別しても良いというメッセージを豪快に発しているとも思える。ネットは大炎上、情報番組でも袋叩き。尾木ママの“サザエさんのタラちゃんもツーブッロクよ”でクスッとする発言意外はユーモアなく、教育長の言葉は徹底的に批判された。

議論は広がる。誰がこのくだらないルールを作ったのか? そもそも社会にルールはどれほど必要なのか? 外見に対しての学校側からの強要が話題になることは過去を振り返ると少なくない。2017年には生まれつき髪が茶色にも関わらず、教諭から校則を理由に黒く染めるよう強要され不登校になり、大阪府の高校3年の女子生徒が慰謝料計約220万円の損害賠償を求める訴訟を起こしたことは記憶に新しい。シンガーソングライターのAnlyの曲 “MANUAL”もまさにこのテーマを掘り下げ、“マニュアル”化した鈍感な学校側の価値観を批判する。ただし今回の議論においては生まれ持った外見という広いテーマではなく、あくまでも”ツーブロック”にスポットライトを当ててみたい。

現在の僕。ツーブロックです。

そもそも“ツーブロック”をどう定義するのか? トップとサイド、もしくは襟足を短くカットし、長さが異なる髪のブロックが2ヵ所あればツーブロックと定義する場合、どこまでがツーブロックなのでしょう? 都立高校の先生方はどれほどの厳しさでツーブロックをジャッジするのか? 短くカットされた部分は何mmまで許されるのか? これぞまさに迷宮入りしてしまいますが、実はツーブッロクカットがリバイバルした20年ほど前のイギリスでは、短くカットされた部分のミリ数によって、先生方から忘れられないご指摘を私は受けたことがある。

当時学校内で一番流行っていたヘアスタイルは“Grade 4 back and sides, inch on top”だった。これはトップには1インチ=2.54cm, 横と後ろは4mm。極めてスポーティーなショートヘアにワックスを加えれば、あなたもベッカムになれる! と勘違いした何万人の英国少年の内の一人に私もいた。ところが欲張ってGrade 4をある日Grade 2にしたところ、次の日呼び出され、驚く指摘を先生から受けることになる。

「ハリーくん、君はナチスに憧れているのかね?」

「君の髪型は“Wehrmacht(ヴェーアマハト=ドイツ国防軍)”を彷彿させる。当時を知っている方々には失礼だ。もし街を歩きながら何か言われたら、デヴィッド・ボウイ好きだと言いなさい」と楽しそうに笑いながら注意してくれた。私も緊張が緩み、笑いが漏れた。

まさか先生にナチスと比べられるとは思っていなかったが、私は罵倒されることもなく、優しく指摘された。むしろ想定外のピンチを脱出する為に、遊び心に溢れるかわし方を教えてくれた先生に僕は“スタイル”を感じた。ここで言う“スタイル”とは我々日本人が思う身体のスタイルではなく、生き様、思想を表すスタイルである。たった2mmの違いを先生は見抜き、余計な威圧感を出すことなく、実にナチュラルに僕に反省の念を抱かせた。黒髮は聖なる校則と信じ、たとえ生まれつきの髪でも黒でなければ許されるものではない。精神崩壊へと追い込んでも大事なのは学校のイメージと勘違いする教諭たちとは天と地の差だ。たとえルールを学ぶ場でも、生徒達の思いを理解しようとせず、心のキャッチボールが出来ない教諭から誰が学ぼうと思うのだろうか。スタイルがなさすぎる。

そもそも我が母校は髪型に対してはそこまで厳格ではなかった。英国最古の全寮制学校であり、600年以上オックスフォードやケインブリッジ大学に生徒を進学させてきた学校の割には、髪の色や髪型に対しては厳しくない。写真の右端の彼はニルヴァーナのカート・コバーンを好き過ぎてグランジ系のバンドでベースを弾いてそうな風貌だが、それも許された。

寮の同級生たちと共に卒業写真。右下がニルヴァーナ好きな彼。ちなみに僕は下段真ん中です。

何故なら肝心なのは髪型ではなく成績だったからだ。

上下関係、集団意識、連帯責任。どんな国でも我々人間は幼少期からこれらの基礎を潜在意識に叩き込まれる。社会で生きていく為には基礎的な常識を与えてくれるかもしれないが、ルールへの依存は成長の道を閉ざしてしまう。学生たちが人生の成功の扉を開ける為には、誰にでも無限大の可能性があると教えてくれる大人の存在が必要だ。

ルールブックに生きるロボットたちではない。

ハリー杉山
ハリー杉山
1985年東京都生まれ。イギリス人の父親は、ニューヨーク・タイムズ誌の東京支局長を務めたジャーナリスト。11歳で渡英後、英国最古のパブリックスクール・ウィンチェスターカレッジに進学し、ロンドン大学に進む。英語、日本語、中国語、フランス語の4ヵ国語を話す。現在は、タレント・MC・ラジオDJなど、多岐に渡って活躍。スポーツにも造詣が深く、常日頃からトレーニングは欠かさない。今年は東京マラソンにも出場し、3時間40分06秒を記録。プレミアリーグ・アーセナルの熱烈なサポーターでもある。『POP OF THE WORLD』(FMラジオJ-WAVE、毎週土曜日6:00〜8:00)でナビゲーターを務めるほか、『ノンストップ!』(フジテレビ、毎週月曜〜木曜日9:50〜11:25)ではプレゼンターを務める。4月2日よりスタートする新番組『おもてなしの基礎英語』(NHK Eテレ、毎週月曜〜木曜22:50-23:00)、4月5日よりスタートする新番組『木曜のシネマ★イブ』(BS日テレ、毎週木曜23:00-23:30)、に出演予定。
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