42歳タイガー・ウッズに学ぶべき不屈の魂  ~ビジネスパーソンのための実践的言語学⑫

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「こんなにスマホをかざされた優勝は初めてだよ」ーーータイガー・ウッズ(米男子プロゴルフツアーで1876日ぶりの優勝をとげた)

タイガー・ウッズが79回目の優勝をはたしたのは、2013年。そういえば、現在ほどスマートフォンは普及していなかったかもしれない。それから5年たっての80回目の優勝。ただの5年ではない。時間の流れが早いスポーツ界の5年。しかも30歳代後半から40歳を超えた復活劇だ。スーパースターの復活は、かつての天才の姿以上に、胸に迫るものがある。
 
かつてタイガーに憧れ、黒いキャップと赤いポロシャツでラウンドしたという人も少なくないだろう。肘を曲げたまま力強く拳を突き上げるガッツポーズを真似したこともあるかもしれない。1990年代後半から2000年代にかけては、まさに“タイガーの時代”だった。

'97年に21歳3ヵ月という史上最年少でマスターズを制すと、そこからは全米、全英といったメジャー大会を次々と制覇。プレッシャーに強く、勝負どころで見せる数々の神がかり的なプレーに世界が熱狂した。ナイキのCMで「この国では肌の色のために僕がラウンドできないコースがある」と発言し、大きな話題になるなど、ゴルフやスポーツという枠を超えた存在感、影響力を持つようになった。

そんなタイガーが転落するきっかけになったのは、不倫スキャンダルだった。複数の女性たちとの関係が取り沙汰されると、次は夫婦喧嘩から逃げる途中に交通事故を起こして負傷し、ツアーを欠場。2010年には、史上最高といわれる7億5000万ドルの慰謝料を払って離婚が成立したが、それまでのクリーンなイメージが地に落ち、スポンサーも次々撤退することになってしまった。

'12年、'13年とグリーン上では結果を残したが、かつてのような熱狂を巻き起こすことはできず、さらに腰の故障で欠場が増えることになる。ここ数年で腰を4度手術。激痛で歩くことも、座ることもできず、引退も覚悟していたという。'17年に運転中に投薬の影響で朦朧とした状態で職務質問を受けて逮捕されたときには、かつてのファンですら「タイガー・ウッズはもう終わった」と思っただろう。

しかし今年になって徐々にかつてのプレーを取り戻し、ついに果たした5年ぶりの優勝。20歳代のころよりは、少しふっくらしてシャープな印象はなくなった。どんな劣勢でも勝利に向かいキラキラと輝いていた目は、やさしく落ち着いた雰囲気をたたえている。タイガーといえど、体力や集中力は、間違いなく落ちているはずだ。それでも彼は、自分に憧れてゴルフをはじめた若いライバルたちを相手に勝利を収めた。もちろん単なるラッキーではありえない。どん底に落ちたこの数年間、どれだけの努力を重ね、自分を励まし続けてきたのだろう。

かつて彼は言った。「人生にもゴルフにも近道はない」。5年という遠回りをした彼は、若いころとは違う強さを見せてくれた。そして、かつての彼を知る世代は、大きな勇気を与えられた。

どんな人生でも、希望を失わなければリカバリーできる。

やはり彼はスーパースターだった。タイガー・ウッズの諦めの悪さに心からの拍手を送りたい。

第13回に続く

Text=星野三千雄 Photograph= Keyur Khamar/Getty Images


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