【起業家インタビュー】 自身へのダメ出しを画期的なビジネスにしたビザスク端羽英子

東京大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。退社後は、化粧品ブランドの日本ロレアルを経て渡米。MIT(マサチューセッツ工科大学)でMBAを取得し、帰国後は、投資ファンド会社勤務の後に、起業の道へ。20代でここまでのキャリアを積み上げたのは、日本最大のスポットコンサルプラットフォーム「ビザスク」を運営する端羽英子氏だ。業界業務での知見を持つビジネスパーソンに、企業や個人が、必要なときに、必要な時間だけ、必要な意見やアドバイスを受けられるマッチングサービスは、直近1年間で26カ国でのマッチング実績があり、さらなるグローバルな事業展開を狙っている。端羽氏に「起業に向けてのキャリアがスタートした」という"29歳からの人生"について、語ってもらった。


自分が輝ける場所は自分で選ぶ

2007年6月、29歳のときにアメリカから帰国。会計と金融のスキルを生かせる仕事を探し、投資ファンドのユニゾン・キャピタルという会社に就職しました。会社に投資し、さまざまな戦略によって投資先の企業価値を高め、IPOしたり売却したりして利益を得るというビジネスです。

仕事の内容も職場の雰囲気も満足できるものでした。特に雰囲気は、今のビザスクにも影響を及ぼしていると思います。ハードな仕事をしているプロフェッショナル意識の高いチームである一方、仲が良くどこか家族で。こういうチームを作りたいと思いました。

あるとき、1年の業務を振り返るイヤーエンドレビューで、上司から「あなたはリーダーシップに欠ける」と言われたんです。会社の中で自分が最年少で経験も足りてないし、周りは金融のプロ。そういう意識が私自身の中にあって、リーダーシップを発揮できていなかったんですね。

上司の言葉に納得はできましたが、同時に「この環境で私がリーダーシップを発揮するのは難しいだろう」と思いました。「ならば、もっとリーダーシップを発揮できる環境に自身をおこう」とも。私は、人を評価する基準は"絶対評価"と"相対評価"があると思っていて、ひとつの場所で受ける評価のみが自分の絶対評価になるとは思っていません。自分がどうありたいか、どういう能力を発揮したいのか、ということを考えて、自分が輝ける場所を選べばいい。1番リーダーシップが求められる環境は、起業。そう思い、上司に「起業します」と宣言しました。もともと起業志向はあったものの、具体的に何をするのか決めないうちに"起業する"ことだけを決意しました。

起業に向けて最初に取り組んだのが、アイデアのリスト作り。ノートブックを広げて、100個を目標に「やってみたいビジネス」を書き出していきました。過去の自分の経験を振り返り、新たに調査を重ね、人と会ってヒアリングを行う。そんなふうにして書き連ねたアイデアは50数個になりました。いまにして思えば、どうしようもないものばかりでしたが、考え方の練習にはなったと思います。

"ダメ出し"が新しいビジネスの原点に

そんなアイデアのうちの1つを持って、知人に紹介してもらった著名な経営者の方に会いにいきました。そのアイデアとは、アメリカでヒントを得た通販のプラットフォーム。アメリカでは自分の経験を生かして商品を選び、ウェブで販売するサービスが人気を集めていました。ただ単に商品を売るのではなく、例えば、有名なビジネスマンが自身の仕事で役に立ったノートブックなどを紹介する。これは、ライフステージの変化があったとしても、自分の経験を活かして活躍できるビジネスだと感じ、"日本でも成功するはず"と事業計画を作りました。

でも、プレゼンの結果は散々。お会いした経営者の方から、1時間にわたってダメ出しされ続けました。「重要なことは何ひとつ考えられていない」「企画書は数字を並べただけだ」など、延々と……。そのひとつひとつに説得力があり、反論の余地もない。そして「このアイデアは100%失敗する」と、その方は言い切りました。

でも、その屈辱ともいえる1時間は、私の"目からウロコ"の時間にもなりました。「人の知見をいかすというのは、こういうことだ。ダメ出しと、数々のアドバイスをもらえたこの1時間にお金を払ってもいい」と思いました。この経験と気づきが、ビザスクのビジネスの原点になったのです。

そこからはアイデアの実現に向けて、練り込んでいく作業です。私が考えたのは、一部の専門家だけでなく、個々人がビジネスで培ってきた知識や経験を活用すること。どんな分野にも、知名度は高くなくても、貴重で価値の高い知識や経験は山のようにある。そして、その知識や経験に基づいたアドバイスを求めるニーズもたくさんある。例えば、新規事業に乗り出すときに、市場の現状やこれからのニーズについて知りたいと思うでしょう。でも、マーケティング会社を使うとピンポイントで欲しい回答が得づらかったりします。アドバイスをくれそうな人を探すにしても、時間もかかり、見つかる保証もないですよね。そんなときに、中小企業や個人でも低料金で気軽に情報を得られるシステムがあれば便利だなって考えました。

このアイデアを携えて、先日ダメ出しを受けた経営者を再び訪ねました。彼は企画書に目を通して「成功確率0%が1%になったな」と。たった1%の増加ですが、ものすごい進歩だと感じました。

人と人の知見をつなぐ「ビザスク」誕生

2012年10月、スポットコンサルサイト「ビザスク」のベータ版が完成。ビジネスパーソンに自身の知見を登録していただき、彼らの知見を企業や個人のニーズにマッチングしていくビジネス特化型のスキルシェアサービスです。初めは実験を兼ねて知り合いだけのクローズドで運営しようと思いましたが、私は恥ずかしいことに、認証のカギのかけ方を知らなかった(笑)。予期せぬうちにユーザーが付き始めました。

そうは言っても、ビジネスとして成立するほどの規模ではありません。資金繰りには相当苦労しました。資金調達のために、ベンチャーキャピタルをまわりましたが、玉砕すること多数。そこで、経済産業省の補助制度に申請すべく企画書を提出したら、支援を受けられることになりました。取材の申し込みも徐々に増えた頃ですね。ただ「経済産業省から支援を受けた初の女性起業家」とか「ママ起業家の挑戦!」いったフォーカスの当たり方も多く。「もっとビジネスについて取り上げてほしい」と不本意に思う気持ちもありましたが、当時はまずはメディアに出てサービスの知名度を上げることに必死でした。ビザスクの正式ローンチからもうすぐ5年。登録者も依頼数も増えて実績が積み上がり、ビジネスとして注目していただけるようになったなと思います。

Happy – Happyの関係を築く

「ビザスク」は2013年10月に正式オープン。今年9月にアドバイザーの登録者が7万人を超えました。内訳は日本人が約6万人、外国人が約1万人。マッチング実績のある国数は直近1年間で26カ国になります。利用者も世界中にいて、「日本の"ものづくり"について知りたい」といったニーズも多く見られます。

ビザスクが支持をいただいている理由は、第1に「自分の価値に気づけること」だと思います。他人にアドバイスをすることで「この分野では、自分はプロフェッショナルなんだ」と気づきが得られます。もちろん、アドバイスを受けた側も満足感を得られる。Happy – Happyの関係を築けることが、大きな魅力といえるでしょう。

2つめの理由は「実名性」ですね。登録者は本名や役職・肩書などを依頼者に伝えます。そうすることで、ビジネスでも活用することができます。ネット上に掲載されているような匿名の情報は、たとえ有意義な内容であってもビジネスでは使えない。「株式会社○○の開発担当者の意見です」と実名を明らかにすることで、ビジネスシーンで有効な情報になるのです。またアドバイザーも実名を明かすことで、責任が生まれるし、やる気も高まります。プロフェッショナルの意識が生まれるということですね。

現在、「ビザスク」のマッチング方法は2通り。Web上で知見者を募集・検索してスポットコンサルを依頼する「WEBマッチング」と、当社のプロジェクト・マネジャーがスポットコンサルのプロセスをフルサポートする法人向けの「VQ」です。スポットコンサルの受け方は、電話でもいいし、対面も可能。アドバイザーと依頼者とのやり取りで決めていただきます。

先にお話ししましたが、現在のアドバイザー登録者は7万人。マッチングの成功率は約90%です。いい数値だなとは感じますが、まだまだ成長過程。社会にインパクトが与えられる規模まで登録者数を増やしていきたいし、「あらゆる分野を網羅し、マッチングできない質問はない」といえるくらいに成長したい。そこまで成長したら、またその先を目指したいですね。それがプロフェッショナルの仕事だと思います。

ビザスクを創業してから、暗黒時代と思えるくらい伸び悩んだ時期もありました。でも、周囲からは「あなたはものすごくポジティブな人だね」と言われます。今サービスが完成していない、ということは毎日何かの問題を解決しているということで、それってハッピーなこと。常に「昨日の私より、明日の私のほうが賢い」って思っています。これからも、何かを生み出せる自分でありたいし、変わり続けられる自分でありたいですね。


●座右の銘

「ゼロよりプラス」です。やらなければ何も生まれないし、たとえ悪い結果でも、やってみることに価値があると思います。

●愛読書
本は何でも読みます。起業家・投資家のベン・ホロヴィッツの著書『HARD THINGS』から、井上雄彦『スラムダンク』まで。旅行先でもよく本を読んでいます。

Eiko Hashiba
1978年生まれ。東京大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス証券投資銀行部門にて企業ファイナンス、日本ロレアルにて化粧品ブランドのヘレナルビンスタインの予算立案・管理を経験し、MIT(マサチューセッツ工科大学)にてMBA(経営学修士)を取得。投資ファンドのユニゾン・キャピタルにて、企業投資を5年間行った後、ひとりひとりのビジネス知識に着目し、企業の情報・相談ニーズを解決するビザスクを立ち上げる。
Visasq
2012年設立。従業員数は約60名。取引先は、コニカミノルタ、ダイセル、トヨタ自動車、パナソニック・ヘルスケア、AGC、SBイノベンチャーなど。経験豊富な「その道のプロ」に、1時間からピンポイントに相談できる日本最大級のスポットコンサルを運営。業界調査やユーザーインタビュー、新規事業や海外進出の情報収集、起業のアドバイスに、経験者の知見を活用できる。
https://visasq.co.jp/


Text=川岸徹 Photograph=太田隆生