クロック収集家が心震えたYATAGALLASとは?

長年、スイス高級時計の世界を取材してきた時計ジャーナリストの名畑政治氏は屈指のクロック収集家だ。そんな名畑氏の心が震えた、「YATAGALLAS」の魅力とは?


暮らしを格上げする名作クロック

自宅にはジャガー・ルクルトの「アトモス」や1 920年代に天才時計宝飾師レオン・アトが作った「ATO」の電気クロックなど、名品を多く持つクロック愛好家である名畑政治氏。そんな名畑氏が初めて高級クロック「YATAGALLAS」の製造背景を知った時、湧き上がる興味を覚えたという。

「機械式マニアと思われがちなのですが、実はデジタル時計も大好き。ニキシー管を用いた『YATAGALLAS』は、同じデジタルでもLEDや液晶とはひと味違います。LEDや液晶は8を基本に辺が欠けて数字を示しますが、ニキシー管は1から9までの電極が順次光って数字を示す。しかも蝋燭にも似たオレンジ色。デジタルなのに、なんだかアナログなんです。それに、このニキシー管を〝再発見〞し、新たに作ったのがチェコの起業家というのも面白いですね」

ガラスチューブの製造から電極の組みこみまで、すべてチェコのダリボル・ファルニー社で行われる。

実は、チェコは東欧随一の工業国。かつてレンズ交換式の高級カメラを作り、今も自動車産業や自社でムーブメントを作る時計会社があるという。そんなチェコの起業家ダリボル・ファルニー氏が、より高性能なニキシー管の製造を決意し、これに共鳴したイエガードクソンF o under&CEOの中野功詞氏が「YATAGALLAS」を作った。

「今の日本には"物作りの時代は終わった"という悲観論が蔓延していますが、私は違うと思います。楽器や靴や鞄でも、世界に誇る技術があり職人がいる。ただ、それをアピールし本当の意味での高級品を育てるのが下手なんです。その点、『YATAGALLAS』の開発を指揮した中野さんは、世界一の住宅設備機器メーカーでの経験を生かして、本物の高級品を作り百年続くブランドを育てたいという明確な意志がある。『YATAGALLAS』では設計担当の河上 誠さんがアナログ電子回路の達人を訪ねて改良を施し、外箱を東京芸大木工科の先生に依頼するなど、高級クロックとしての価値を高める努力を惜しまない。今後、ニキシー管の国産化も計画しているとか。そんな思いと努力が詰まった物を知り、所持することはひとつの投資の形かと思います」

密閉されたガラスチューブにネオンガスを封入することで発光する仕組み。電極の接続は手作業によるハンダづけ。

「YATAGALLAS」はクロックであると同時に、芸術品。クオーツの台頭で一度は消えた機械式時計が複雑機構や工芸的要素を高めて復活したように、クロックも趣味性や癒やしの感覚を研ぎ澄ますことでアートに昇華する。そんな時代がやってきたことを、「YATAGALLAS」で改めて実感することができるだろう。

ニキシー管は日本に送られ全品検査を経て「YATAGALLAS」に組みこまれる。

名畑政治 
時計ジャーナリスト 1959年東京都生まれ。腕時計やクロック、カメラ、ギター、アウトドアなど、男の嗜好品を独自の視点と豊富なコレクションを駆使して取材・執筆する。


Text=フジセツコ