【コロナ危機】自分の好きな飲食店を守るには!? 天才シェフ・米田肇の戦い

新型コロナウイルスの拡大で先行きも不透明な今、日本の食文化を守るべく立ち上がったひとりの料理人がいた。大阪に拠点を置く、ミシュラン3つ星シェフの米田肇さんだ。政府関係者との連携など、今、もっとも、最前線で日本の飲食業会の窮状を訴え、行動し続ける。日本の現状と未来とは?

世界的に日本の食文化は素晴らしいもの。今こそ、この国の宝を国レベルで守るべき

料理人・米田肇をご存知だろうか? 大阪・江戸堀にあるレストラン『HAJIME』を開店してから、当時、わずか1年5ヵ月の史上最速でミシュランの3つ星を獲得するという離れ業をなし遂げた人だ。不可能と思われることを可能にする熱量を持ち、努力を厭わない。そんな米田シェフが今、難関に挑んでいると聞き、早速話を聞いた。

「皆さんもご存知のとおり、新型コロナウイルスの影響により、経営的に持ち堪えられない飲食店がどんどんでてきています。実際私のフェイスブックのメッセンジャーに『今日でお店を閉めることにしました』と連日コメントが届きます。日本の世界に誇るべき飲食店が今、まさになくなり始めてしまっているのです。日本政府は観光において、日本の食をアピールしてきましたが、現状、まったく大切にしているとはいえない状況です。居ても立っても居られず、『飲食店倒産防止対策』への賛同を集め、国に動いてもらわなければと活動を始めました」

その署名サイトでは、立ち上げから1週間を待たずして、ネット署名だけでも10万人を突破。コメント欄には中・小規模は違えど、米田シェフの活動への労いの気持ちをはじめ、レストラン経営者たちの不安な心境を共有する言葉が後を絶たない。

2021年のオリンピックに、レストランがないという事態もあり得る

「今のまま行くと、来年2021年のオリンピックの時に、レストランがないという状況になりかねません。日本のラーメンは世界一美味しいのに、世界一安いですよね。つまり、日本の食は世界的にみてもコストパフォーマンスが素晴らしい。料理人はお客さんに喜んでもらいたいという純粋な思いでやっている人がほとんどですから。ただ、労働に対する対価が低いということは、ある程度繁盛しないと続けられないということでもあります。今の状況はまさに、閉めざるを得ない状況そのものなんです」

3月20日頃から不要不急の外出自粛を、3月30日には接客を伴う夜の飲食店への利用を控えるよう東京都が要請した。だが今、営業自粛をしているレストランも多いなか、ロックダウンが行われずにいる。この先もしもロックダウンが起これば、潰れるお店が生まれるのは明白。

「よく『雇用調整助成金は9割でるんでしょ?』と言われるのですが、これは大きな誤りです。実態は54%。そのことを知らない方が非常に多いんです。会社都合でお店を休む場合、平均給与の60%を払うという大前提があります(※法律で定められた最低限度)。その内、9割を国が支払い、1割を会社が支払うというのが事実です。例えば、月収20万円の人は12万円で辛抱してほしいと。108,000円(=12万×9割)は国で支払い、12,000円(12万×1割)は会社で支払うということ。つまり、9割ではなく、実際は54%しか保証がされないんです。しかも受け取れるのは2ヵ月ほどかかります」

イギリス政府は早急に、飲食店閉鎖などで賃金の80%を肩代わりする策を打ち出した。日本では抜本的な試作は行われていない。では、どのようにして日本の飲食業界は乗り越えたらいいのか。そこで米田シェフが考えたのが、『飲食店倒産防止対策』だ。売り上げ減少や店舗休業の状況でも払い続けなければならない固定費(家賃)と雇用者給与の補助が盛り込まれている。

「コロナ収束のためのロックダウンと、この『飲食店倒産防止策』はセットだと思っています。オリンピックのこともあり、日本は世界から今注目されています。4月3日には農林水産省、文部科学省、そして食の補正予算に関わっている官僚や議員の方々にお会いして、窮状を訴えかけました。まだまだ現状を打破するには道のりは遠いとしかいいようがありません」

賛否両論あるのは覚悟している。バカだから動けるのかもしれない

「私のお店がある大阪も基本的にはいち地方です。地元よりも、海外の方や、全国の都市からいらしていただけるお客様が大半という状況です。関西は一昨年、台風と震災がありました。通常の状態に戻るまで1年半かかりました。つまり、仮にコロナが収束しても、急にお客様は、戻らないので収束後から半年の間に再び体力が持たないお店がでてくるのではないかと危惧しています。一刻も早く政府に動いてもらわなければ間にあわないんです」

先頭に立ち、国に訴えかける活動をし始めたことでわかったことがあるという。

「飲食業の現状をご存知の方が政府にはほとんどいないということを痛感しました。6席のカウンター席のみのお店が1000円のとんかつ定食を出すとします。原価率4割、光熱費、利益の4割は翌日の食材費にして、人件費を半分とったとすると、例え4回転して24名のお客さんが入ったとしてもほとんど残らない計算です。これが小さなお店の現実なんです。声を上げ、行動し続けることで世論から変えていかないと、何も変わらないんです」

米田シェフのお店『HAJIME』もインバウンドでゲストが減っていることは確か。だが、開業以来12年間、すべてを数字に落とし込んで、目標を立て、いつ何があっても良い状況に準備するということを徹底してきた。年内は、スタッフへの給与も支払える状況にあるという。では、この署名活動への原動力は何なのか?

「日本のレストランや料理屋さんに消えてほしくない、だだそれだけなんです。私は今までも賛否両論があることをずっとやってきました。この署名活動や政府への働きかかけもさまざまな意見をいただきます。我ながらバカだなぁと思う時もあります。でも、日本には、街場の屋台、活気ある居酒屋、各国のレストラン、名店と言われるレストランなど、いろんな形態の飲食店があります。つまり、日本の食文化は、文化の厚みそのもので、世界に誇るべきものなのです。それが何一つ欠けてもいけない」

料理界において圧倒的情熱で、不可能の壁を打ち破ってきた米田シェフが今、日本の食文化を守るべく先頭に立っている。

この国難をいかにして乗り越えるか。今まで日本の飲食店が築き上げてきたものを守っていくためには、皆の考えを総動員して、能動的に行動を起こし、協力するしかない。その一員になることは大きな前進になるのではないだろうか。

Hajime Yoneda
HAJIMEオーナーシェフ 1972年大阪府生まれ。大学で電子工学を専攻し、エンジニアに。’98年に料理界へ転身。渡仏などで修業を積み、2008年に独立。史上最短で三つ星を獲得する。
  

『飲食店倒産防止対策』署名サイトhttps://bit.ly/2JlkrVn

Text=谷内田美香(ゲーテWEB編集部) Photograph=鞍留清隆