作家ヘミングウェイが特注したサファリジャケット【伊達男たちのオーダー列伝】

古今東西のウェルドレッサーと称される男たちをつぶさに観察すると、ある共通点に気づく。誰しも服のブランドが前面に出ることなく、いっときの流行とも無縁ということだ。そして、そんな彼らが必ずと言っていいほどたどり着く到達点がオーダーメイドなのである。


「人生について書きたいなら、まず生きなければならない」

「青光りのする八角形の銃身と、頰にぴったり合う暗褐色の素敵なくるみ材の狙撃用銃床を備えたオーストリア製の狙撃銃が、二つのベッドを見下ろす壁にかかっていた。その銃に装着する照準望遠鏡は、たしかトランクの中に入っているはずだ」

これはアーネスト・ヘミングウェイの代表作『武器よさらば』の一節だ。銃の質感や造形が手に取るように伝わってくる、まさに銃を熟知していなければ書けない表現だが、同作には他にも臨場感のある戦場の描写が随所に盛りこまれ、戦争の残酷さが浮き彫りにされている。

そこには赤十字社の一員として従軍した、第一次世界大戦での実体験が活かされているのだ。 

こうした行動派の作家と呼ばれるヘミングウェイの手法は、行きつけだったニューヨークの高級アウトドア用品店アバクロンビー&フィッチに特注したサファリジャケットにも表れていた。それは通常のウエストベルトを締めつけず動きやすいラバーシャーリングへ変更したのみ。

だが、幼少より銃に親しみ、生涯狩猟を嗜んだヘミングウェイが、血の通った生命と銃越しに対峙する経験から考案した、真に実用本位のオーダーであったのだ。 

生前、ヘミングウェイは「人生について書きたいなら、まず生きなければならない」と語った。壮絶な戦場から才能が集ったエコール・ド・パリ、手つかずのアフリカの大地までを旅し、現場での実体験を基に傑作を書き綴ったヘミングウェイ。

その文章が今も人々の心に響くのは、生き生きとした血が通う、彼の生きた証そのものだからだ。

Ernest Hemingway
1899年米国イリノイ州生まれ。高校卒業後に新聞記者となり、特派員として渡仏。やがて小説を執筆するようになる。スペイン内戦にも従軍し、それらの経験を活かした戦争小説が高く評価される。1954年『老人と海』でノーベル文学賞を受賞。


Direction=島田 明 Text=竹石安宏(シティライツ) 
Photograph=Getty Images