エチオピアで起業 日本人女性の挑戦ーandu amet代表・チーフデザイナー 鮫島弘子ー滝川クリステル いま、一番気になる仕事

現在、ファストファッションが街を賑わせているが、実はもう気づいている人たちがたくさんいる。大量生産・大量消費・大量廃棄という、地球に優しくない不都合な現実に。「長く愛してもらえる商品を作りたい」。その一心で立ち上がった鮫島さんの姿を追う。

エチオピアの宝物を世界にシェアしたい

滝川 世界最高品質の羊革・エチオピアンシープスキンを使い、現地の職人の手で丹精に作られたバッグ。鮫島さんが2012年に立ち上げられたandu amet(アンドゥ アメット)は、上質さとエシカルの融合するラグジュアリーブランドです。アフリカでのフェアトレードって、世界でも数少ないんですよね。

鮫島 ラグジュアリーのコンセプトで展開するには、確かにまだ難しい土地かもしれません。ビジネスに必要なインフラが整備されていませんし、人々の価値観も違いますから。10万円以上で販売する高級バッグなのに、輸出手続きの際に役人にポンと床に投げられたり、ボールペン痕(こん)をつけられたり。そんなことをされては売り物にならないので怒るのですが、「問題ない!」って済まされてしまいます(笑)。

滝川 それは笑いごとではないですよね......。現地の職人さんたちとは、どのように価値観のすり合わせをなさるんですか? 

鮫島 世界の一流ブランドのクオリティーを求めるので、ある程度の摩擦は覚悟しています。でも私たちが彼らの国に勝手に行って日本人の感覚を押しつけ、ただ衝突しても何も生まれません。そこはいつも葛藤です。さらに現地の行政側との間で理不尽な問題も続出し、起業当初は気が遠くなるような思いでした。

エシカルなビジネスを貫くということ

唯一無二の触り心地&デザイン 製造業のボトムアップ活動、その名も「カイゼン」トレーニングなどを行いながら、意識や技術を高める現地スタッフたち。「Big Hug[Mimi](¥120,000)」(写真右上)は、独自のデザイン性と驚くほど柔らかな手触りで、感度の高い女性に人気。

滝川 わかる気がします。私も国内でありながら、財団設立当初は大変でしたから。今はどのくらいの割合でエチオピアに?

鮫島 この2年は自社工房の立ち上げのため、ほとんど現地に滞在していました。だいぶ安定稼働してきたのと、今後は日本での販売に力を入れたいので、今年はもう少し日本にいるつもりです。それでも半分以上はエチオピアでしょうね。

滝川 業務委託ではなく、完全に自社工房での製造なのですね。

鮫島 現地に子会社を設立し、そこで企画から素材調達、製造を行っています。エシカルであることを徹底しようと思ったら、すべてのプロセスや情報をきちんと管理・掌握(しょうあく)していなければなりません。過去に業務委託契約したビジネスパートナーの工房に半年住みながら製造していた時、アンエシカルな種が生まれそうになったことは何度もありました。まして年に1回、1週間程度の視察では、見えないことはたくさんあると思います。

滝川 もともと鮫島さんは、青年海外協力隊のデザイン隊員として2002年にエチオピアへ行かれたのですよね?

鮫島 はい。それまでは国内化粧品メーカーのデザイナーでした。

左:andu amet代表・チーフデザイナー 鮫島弘子、右:滝川クリステル ドレス¥204,000(NINA RICCI/CORONET TEL:03-5216-6517)、シューズ¥96,000(JIMMY CHOO TEL:03-5413-1150) ピアス、ブレスレットはスタイリスト私物

世界最高品質のエチオピアンレザー

大量生産・大量廃棄のシステムに疑問を持って会社を辞め、エチオピアに渡りました。現地で悲惨な貧困の現場を目の当たりにした一方で、エチオピアならではの素材やデザイン、職人の技術、そして人々の純粋さに可能性を感じて今にいたります。

滝川 エチオピアのレザーが世界最高品質だなんて、一般的にはまだ知られていないのでは。

鮫島 これまでずっと付加価値の低いローマテリアルの状態で輸出され、イタリア製の革やフランス製の高級バッグとして売られてきました。そのままではエチオピアの宝物が外国に搾取(さくしゅ)されるだけ。エチオピアに技術を根付かせ、お金を落とすためにも、現地で最終製品まで製造できるようになる仕組みを持つことはそもそもの目標でした。

滝川 andu ametは「ひとつの製品を長く使う」ことも大切にされていますね。

鮫島 革製品って基本は食肉の副産物のレザーを使っていて、商品を作るために命を奪うことはありません。むしろそのままだとゴミとして廃棄されるもの。でも食肉の副産物のレザーであれ、オーガニックコットンであれ、限りある地球の資源を使っていつかはゴミとなるものを生み出している。エシカルといわれようとも、大きな視点でいえば自然に対する罪はあります。ただ、そのものが命を全うするくらい長く使えれば、その罪も少し許してもらえるかなって。

長く使ってもらうためには?

滝川 革製品やファーに関してはさまざまな意見があります。私もリアルファーは身につけなくなりましたが、すでに持っているファーを捨てればいいとは思いません。親を亡くした幼い野生動物の寝床とか、何らかの形で無駄にせず使うこともまた、命に対する義務ではないかと。

鮫島 それと以前に外資系のラグジュアリーブランドで働いていた時に実感したのですが、いいものって、素材のよさやデザインに加えて、使う人が愛情をかけて育てることで本当に完成するものだと思います。大切に扱うから、長く使ってもらえる。

滝川 好循環ですね。

鮫島 またandu ametは次々に移り変わるトレンドに左右されないデザインを心がけています。

滝川 確かにほかにはない、とても独創的なデザインですね。

ファストファッションの真逆を行く

鮫島 シンプルで無難なデザインの方が売れるのはわかっていますが、誰からもそこそこ好かれるより、本当に気に入ってくださった人に、唯一無二のものとして長く愛してもらえる物が作りたくて。だからトレンドありきで考える製品とは、企画はもちろん、製造にかける時間も違います。こだわった製品だからこそ、使っていただく時間も長く。私たちは「スローファッション」と呼んでいます。

滝川 巷(ちまた)を席巻(せっけん)するファストファッションの真逆ですね。

鮫島 今はまだ貧困や飢餓のイメージが強いエチオピアですが、いずれは素晴らしいレザーの国、スローファッションを先駆けた国、という印象に変えていけたらと。そして古くから継承されてきた美しい自然も伝えたい。だからバッグのデザインは、草原やナイル川のような、エチオピアの持つ大自然の美しさがモチーフです。実はナイル川の源のひとつはエチオピアにあるんですよ。根本にあるのはそういう「素晴らしいものを見つけたからシェアしたい」という気持ちなんです。

滝川 本当にエチオピアがお好きなんですね。

鮫島 「もう大嫌い!」って思うこともあります(笑)。でもエチオピアの人と接していると、自分を許し相手を許す大らかさがあって、それは自分を含む日本人が今いちばん学ぶべきところかなと思っているんです。それぞれに悩みはもちろんあるんだけど、いつも笑顔で幸せそうで。そういうポジティブなオーラも今後、製品を通じて伝えていきたいですね。



Christel's Times Monthly Column

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滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
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