木梨憲武 誰も嫌いになれない!? 職場の愛されオトコ

30年以上テレビで活躍を続けるバラエティーの天才であり、個展を開けば20万人以上を集めるアートの天才であり、男性からも女性からも支持される愛される天才。ニコニコ、飄々(ひょうひょう)としていながらも、どこかしたたかで、揺らぎのない“芯”を感じさせる男、タレント 木梨憲武。 彼はなぜ、愛されるのか? テレビには映らない実像に迫った。

「あー、どうも、どうも。例の件、どうなってます?」
 撮影用小物として受話器を渡された木梨憲武は、突然ひとり芝居を始めた。カツ丼を目の前にすると、頬が膨らむまでかきこみ、出勤途中に同僚に会った、というシチュエーションの自転車を使っての撮影では、何度も片手を挙げて「ヨオッ!」と満面の笑顔を見せてくれた。
 彼に伝えたのは、“愛されるビジネスマン”という設定だけ。それだけで彼はすべてを察し、期待以上にその役を演じてくれた。終始笑いに包まれた撮影は予定の半分の時間で終了した。
 驚くほどのエンタテインメント精神、そしてプロフェッショナリズム。彼の「愛される理由」、その一端を見せられた気がした。
「そんな大そうなものじゃないですよ。ただ周りに乗せられて、ほめられて、いい気になっているだけです(笑)。ただ、長い間この世界で生きてきましたから、現場で自分が何を求められているかは何となくわかります。あとは、それを『やりすぎかな』というところまでやってみる。使われないということはわかっていても(笑)。でもそこまでやるのが自分の役割。あとはプロの皆さんに任せるだけです」
 穏やかで丁寧な口調で、表情豊かに語る。数分間、話しているだけで、「愛される男」といることの心地よさを感じる。

「やめてくださいよ。そういうイメージを持ってもらうのは光栄ですけど、そんなに愛されていませんって。自分の子供は口もきいてくれませんから(笑)。そもそも自分で、『愛されたい』とか、あんまり思わないです。若い頃はやっぱり、モテたい、カッコつけたいという気持ちはありましたよ。でも今はそういう気持ちはほとんどないです。カッコつけず、開けっぴろげ。『こいつ本当はどんなヤツなんだろう』と思われながら付き合うより、自分のことをわかってもらって付き合うほうが気持ちいいし、楽です。だから最近は、街にいても、テレビに出ていても、ほとんど変わらないです。自分のなかでも境目がなくなってしまいました(笑)」


 こだわる部分は、徹底的にこだわる。彼が今夢中になっているのは、20年間続けてきたアーティストとしての活動だ。東京・上野の森美術館を皮切りに、全国を巡回中の『木梨憲武展×20years』は、総入館者数20万人を突破。開催館の入館者数記録を次々と更新する人気だ。

「絵を描くのは仕事というより、好きなことを続けてきただけです。でも美術館で個展をやっていただけるとなると、いい加減な気持ちではできません。展示場所が変わるたび、オープンの2、3日前に現地に入って、自分で考えながら準備をします。作品は同じでも“箱”が変わると、印象も変わる。だからプロの方の意見を聞きながら、ああでもない、こうでもないと、展示方法を考えます。そこに正解はないんですが、自分なりの正解を探して、『よしっ』と思えた瞬間が一番気持ちいいですね」

 自らの提案で始まったBSフジの旅番組『木梨目線!憲sunのHAWAII』もそんな彼のこだわりが詰まった“作品”だ。

「最近は家族旅行でハワイに行ってもロケハンばかりしています。毎朝5時に起きて、朝日を撮影していますし(笑)。そして撮影が終わったらスタッフと一緒に編集室にこもります。

 最近はそういう作り手側の作業が楽しくなってきました。ビジネスマンの方とは違うかもしれませんが、僕の場合、仕事を仕事としてやるより、普通の生活を送りながら、オンのようでオフ、オフのようでオンの時間を過ごすようにしています。気を張っているだけだとロクなことがない。うまく“抜く”ことで、あまりストレスを感じないでいられるんだと思います」

 ゆるさとこだわりの絶妙なバランス。それが彼の魅力の源泉であるのは間違いない。だが、それだけなら彼はただのいい人、いい男だ。木梨憲武にはどこか色気がある。それは、彼のなかに予定調和をよしとしない、毒気や狂気が見え隠れするからではないだろうか。

「うーん、自分ではよくわかりませんが、『余白』が好きというのはあるかもしれません。物事がすべてコントロールされ、決まったとおりに進むより、『そうくるか!』、『うわっ、どうしよう』というほうがワクワクします。だからいつも自分のなかに余白を作っておき、いかようにも対応できるようにしています」
 
考えてみれば、「愛される男」に「どうして愛されるんですか?」とたずねるのは、象に「どうして大きいんですか?」と質問するようなものだ。彼自身が答えられるはずがない。では彼にとって、「愛される男」とは、どんな存在なのだろうか?

「僕のなかで愛される男といえば、水谷豊さんです。とても仲良くしていただいていて、よくウチにもお茶を飲みにいらっしゃるんですが、とにかく面白い。ずっと第一線のトップに立たれているプロフェッショナルでありながら、プライベートは本当にお茶目でカワイイんです。大先輩のことをこう言うのは、失礼かもしれませんが、ああいう面白い人は誰からも愛されると思います。まあ、僕は仲良くなりすぎて、水谷さんが家にいても、寝ちゃうことがあるんですけどね。水谷さんが『最近、見送りもしてくれなくなったなあ』ってこぼしています(笑)」
 木梨憲武のライフスタイルには、いくつかの決まりがあるそうだ。「毎朝神棚に手を合わせる」、「身だしなみに気をつける」、「掃除をする」、「遅刻をしない」、そして「挨拶をきちんとする」。
「偉そうなことは言えませんが、結局、当たり前のことが一番大事ですよね。遅刻をして『すみません』から始まる現場が気持ちいいわけないじゃないですか。挨拶なんて、しつこいくらいにすればいい。『今日はありがとうございました』と言って、翌日には『昨日はありがとうございました』って言う。それがイヤな人っていないと思いますよ」
 誰も木梨憲武になることはできない。だが、彼のように愛されたければ、当たり前のことを当たり前にできているかどうか、自分自身を見直すところから始めてみるのもいいだろう。

スーツ¥369,000、シャツ¥74,000、タイ¥23,000、靴参考商品(すべてルイ・ヴィトン/ルイ・ヴィトン カスタマーサービス フリーダイヤル0120-00-1854)、チーフ スタイリスト私物、ハット¥44,000(ボルサリーノ/銀座トラヤ帽子店 TEL:03-3535-5201)
木梨憲武の愛され習慣
どんな時も自然体を崩さない
「カッコつけるのが悪いとは言いませんが、僕の場合は開けっぴろげ。そのほうが楽です」

時には相手に身をゆだねる
「自分ばかりが前に出ようとしない。周りにいるプロの方々を信頼し、ちゃんと任せたい」

朝早く起きて心の余裕をつくる
「0時までには寝て、早起きしています。仕事までの時間の過ごし方を大事にしています」
NORITAKE KINASHI
1962年東京都生まれ。80年石橋貴明と、とんねるず結成。タレント、歌手として活躍。94年にテレビ番組の企画で始めたアーティスト活動を本格化。アトリエを持ち、本の表紙やCDジャケットなどを手がける。全国を巡回中の『木梨憲武展×20years』は、20万人を超す来館者を記録。

Text=川上康介 Photograph=HIRO KIMURA(W) Styling=大久保篤志
Hair & Make-up=北 一騎

*本記事の内容は14年11月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)