ブルネロ クチネリが考えるずっと着られる服とは?【特集やさしい服】

ブルネロ クチネリのシンプルな服は、10年前のコレクションの服とも洒脱に組み合わせられる。買い替えず、買い足すことでワードローブを完成させる服。ブルネロ・クチネリ氏が長年続けてきたそんな服作りは今、持続可能な社会実現への指針として、改めて脚光を集めている。

もう始まっている新たな社会への転換期

自然災害の多発化及び激甚化が各国から報告されている近年。地球温暖化を食い止め、サステナブル=持続可能な社会を築くことが喫緊の課題となった今、あらゆる人間活動に変革が求められている。そんな現代にあって、ブルネロ クチネリの拠点であるイタリアの小村ソロメオには、世界的企業の経営者や著名人、政治家らがブルネロ・クチネリ氏と言葉を交わしにやってくるという。彼らは氏の言葉に、何を求めるのだろうか。

「ここ2〜3年の気候変動が、私たち人類の精神に大きな影響を与えたのは確かでしょう。そしてそれが、変わらなければならないという意志を熟成させた。そういった意味では、今人類は“再生”の時期を迎えたと感じています。その兆しは、すでに多方面に表れているのです」

猛威を振るう自然を前に、人間は危機感に苛まれがちだ。だがクチネリ氏は、現在を、人類が生まれ変わり、新しい社会を築く転換期と見る。そして、それは周囲の人々の行動に見て取れるという。

「先日、娘からこんな話を聞きました。昨年のクリスマスをレストランで祝った時、20代の友人が厨房に行き、シェフにこう言ったそうです。“余らせるともったいないので、料理は控えめに”と。かつてのこの世代に、そんなことを言う者がいたでしょうか。また、私は孫娘とよく近隣の森を散策するのですが、彼女は落ちているプラスティックを拾い、私のポケットに入れて持ち帰ろうと言うのです。これには驚きました。彼女たちのように、今世界では若い世代が社会を変えるべく、声を上げ、行動している。これは素晴らしいことです。つまり、若者たちはもう変わっているのです」

ソロメオ村に暮らすブルネロ・クチネリ氏とそのファミリー。自然と人々がハーモニーを奏でる美しい環境と、人間性重視のライフスタイルは環境意識を育む。そして世代を超え、やさしく持続可能な社会を受け継いでいくのだ。

気候変動だけでなく、社会的分断や富の偏在など、問題が山積する現代社会に異議を申し立てる若者たち。彼らに希望を見いだすクチネリ氏は、その声にこそ未来のヒントがあると言う。

「暴力に訴えず、笑顔を絶やさない若者たちは、社会への抗議ではなく大人たちとの協議を望んでいます。そしてすべての人間と動物、自然を尊重し、森羅万象のバランスのなかで、やさしく穏やかに生きようとしている。現代社会には、新しいバランスが問われているのです。それはすべての人間活動に共通することであり、我々の服作りもそうありたいと願っています。製造過程で人間や自然に害を与えず、シンプルでバランスが取れた服。消費されるのではなく、つまり捨てられることなく、修繕を重ねながら末長く着続けられる服を作り続けたいのです」

環境に負荷をかけずに生産された最高品質の素材を厳選し、人間性重視の営みの下、最高峰の職人技によって生みだされるブルネロ クチネリの服。ソロメオ村の工場には修理専門の広大なスペースがある。それは上質な服を可能な限り長く着続けてもらうことで、無駄を減らし、人間と自然との間に、やさしいハーモニーと普遍的なバランスをもたらすためなのだ。

「若者を中心とした現在の人々に見られる、人間性ややさしさ、そして自然との調和を重視する傾向は、実は500年前のルネサンス期の人々と共通するもの。“Renaissance”がフランス語で“再生”を意味するように、それは人々の心から始まっている。私はそんな現在の人々に感銘しているのです。森で孫がプラスティックを拾うまで、そんなことは思いもしませんでしたから。そう、私たちは歴史の新たな1ページを綴っているのです」

一度は荒廃したが、人間と自然を尊重したクチネリ氏の思想と経営哲学により、見事再生を果たしたソロメオ村。中世の面影を残す、自然と調和した美しい風景に、持続可能な社会の理想郷を見る指導者や経営者は多い。


Direction=島田 明 Text=竹石安宏(シティライツ)