BIGBANG チェ・スンヒョン “青春のすべてを仕事に注いだ”という人間になりたい

超多忙な韓流トップアーティストで俳優としても注目を浴びているBIGBANGのT.O.Pことチェ・スンヒョン。仕事への飽くなき情熱と野心には圧倒されること間違いなし。

“青春のすべてを仕事に注いだ”という人間になりたい

 そんな苦悩を抱えていたのか。目の前にはT.O.P(トップ/実名がチェ・スンヒョン)がいる。韓国はもちろん、日本でも人気を誇る若者の意外な告白に、驚かずにはいられなかった。

「一時期、ライブや撮影などの仕事を終えて部屋でひとりになった時、突然、現実に戻されるというか、混沌とする時があったんです。そのせいで眠れない夜を過ごしたことも、一度や二度ではありませんでした」

 T.O.Pのことは以前から知っていた。抜群の歌唱力と他を圧倒するライブパフォーマンスで、韓国はもとより、日本でも熱狂的な支持を集める注目のダンスボーカルグループ、“BIGBANG”のメンバーのひとり。そのなかでも彼は、端正なルックスとは対照的な低音の効いたラッピングと、スタイリッシュでありながら男らしいパフォーマンスで独特の存在感を放ち、女性だけではなく同世代の男性からも支持されている。

 しかも、その才能は音楽だけにとどまらない。日本でも放映された韓国ドラマ『アイリス -IRIS-』で、T.O.Pは冷酷な殺し屋をクールに演じ、「アーティストは演技ができない」という定説も打ち破った。そんな彼が、ひとりで言い知れぬ孤独を味わっていたとは思いもしなかった。

「ステージの上ではT.O.Pになりきり、ドラマでは劇中キャラクターを演じなければならない。その反動からふと我に返った時、“自分は一体何者だろう”って。本来の自分の姿がわからなくなる時があったんです」

 それは芸能界という刺激的な環境に身を置いているからこそ、襲ってきたアイデンティティ・クライシスだったかもしれない。スポットライトが華やかな分だけ暗転した時の現実は暗く、道を見失いかけたが、そんな時に舞い込んできたのが初の映画主演作『戦火の中へ』だった。

「オファーをいただいた頃は、ちょうど日本ツアーの真っ最中でソロ・アルバムも準備していたので、お断りしようと思っていました。でも、シナリオを読んで気持ちが動いてしまった。少々の無理をしてでも、何か発見できるかもしれないという思いがこみ上げてきました」

 映画は朝鮮戦争中に実在した、韓国軍・学徒兵たちの物語だ。戦闘経験がほとんどなかった彼らが、圧倒的装備を誇る北朝鮮軍を前にしても逃げることなく戦った実話を元に、戦争の残酷さや儚さを描いているが、T.O.Pが演じる主人公オ・ジャンボムが涙を誘う。不安と恐怖を押し殺しながら、学徒兵たちのリーダーに成長し虚しく散っていく姿に、韓国でも多くの人々が心揺さぶられた。彼はその演技で“韓国のアカデミー賞”とされる青龍映画賞の最優秀新人賞にも輝いたが、それ以上に得たものが多かったという。

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 嬉しかったのは、自分を通じて若い世代も映画に関心を持ってくれたことだという。黄色い歓声を浴びるトップアーティストの映画初挑戦作としては硬派で、ともすれば若い世代に敬遠されがちなテーマでもあったが、ファンや同世代の若者たちが映画についてネットで語り合っていると聞いて、胸が熱くなった。

「僕らは戦争を知らない世代ですが、知らないままで済ませてはいけないことが世の中にはたくさんある。僕がこの作品に取り組んだことで、同世代も何かを感じてくれたのなら、意義のある仕事だったと思います」

 もともとアーティストだからといって、人気やイメージを最優先したいとは思っていなかった。むしろ人々に何かを訴え、伝えたい気持ちが強かったという。

「音楽や演技を通じて何かを表現できる立場である以上、常にメッセージを発信したいという思いは強いですね。でも、かといって、いつも模範的でなければとも思いません。表現者として、時には世間に挑発的でありたいと思うし、物事の真実も訴えていきたい。常に新しい姿を見せたいし、見せなきゃいけないという強迫観念みたいなものもありますが、それは表現者の宿命でしょう」

 その言葉から感じ取れたのは、“時代のアイコン”としての自覚と、“アーティスト”としての矜持。彼は今、自分だけのアイデンティティを手にしたのだろう。

「でも、今でも今日の出来事をひとりで振り返ります。昨日、今日、そして明日のことを毎日考え、いつも悩んで自分で自分を苦しめています(笑)。ただ、そういう自問を重ねなければ歌詞にしても演技にしても、新しいものは生み出せないと思うんですよ。だから、進んで悩み、自分をいじめるタイプです。その過程はほろ苦くもありますが、その辛さが大きなエナジーに変わることを知ったので、怖さも不安もありません」

 だから今は仕事が楽しいという。恋愛や遊びよりも、今はとにかく仕事に狂いたいと語る。

「例えば年を重ねて過去を振り返った時、“青春時代に熱く忘れられない恋をした”という思い出を持つ人もいるでしょうが、僕は恋愛の思い出よりも、“青春のすべてを仕事に注いだ”という人間になりたい。いつか過去を振り返った時、自信を持ってそう言いきれるほどに、今は仕事まみれの日々を送りたいですね」
 挑戦したいことは山ほどある。大きな成功も手にしたい。

「何をもって成功とみなすのか、それすらもまだわからない年齢ですが、成功の定義は人それぞれ異なり、その価値観によって変わってくるのではないでしょうか。人には誰にでも、自分が望み、自分だけが知っている、成功のカタチがあるはずです」

 ならば、今や韓国はもとより日本でも人気を集める彼が描く成功とは何か──。昨年11月に23歳になったばかりの若者は、ちょっぴり照れくさそうな微笑みを浮かべて言った。

「まだ若く未熟な僕がこんなことを言うのはおこがましいかもしれませんが、ビートルズやローリング・ストーンズのように、強烈な影響をもたらす存在になりたい。彼らの登場前と登場後で時代が区分けされるように、“BIGBANGの前後世代”“チェ・スンヒョンの前後世代”という言い方をされるような、価値ある存在になりたいですね」

 夢は大きい。だが、その発言からもわかる通り、決して傲慢ではない。来日して時間ができれば、寿司を食べたり、趣味のベアブリック集めに出かけるのが楽しみだという。もちろん、対日感情のようなものはなく、むしろ同世代の日本の若者たちには親近感も覚えるという。

「でも、日本のアーティストとはあまり深く話したことがないんですよ。機会があれば音楽観とか演技観とか、思い描いている将来像だとか、いろいろ語り合ってみたいですね」

 その時、日本の歌手たちは彼に何を語るのだろうか。ストイックなまでに自分を見つめ、律するT.O.Pの目力に圧倒されやしないか、なぜか心配になってくる。

チェ・スンヒョン
1987年11月4日生まれ。ダンスボーカルグループ『BIGBANG』のメンバーとして、2006年にデビュー。'09年に日本メジャーデビュー。役者としても注目されている。BIGBANG公式フォトブック『BIGBANG PRESENTS ELECTRIC LOVE TOUR 2010』が発売中。公式サイト:http://www.ygbigbang.jp/

Text=慎 武宏 Photograph=黒瀬康之

*本記事の内容は11年1月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい