【プライベートジェット】なぜ千葉功太郎はホンダジェットのオーナー第1号になったのか?

超人的なスケジュールをこなすエグゼクティブにとってプライベートジェットは最強のビジネスツールだ。時間短縮だけではなく、非日常的な移動は所有することで信用につながり、新たなアイデアを与えてくれる。そんなPJを使いこなすオーナーたちの仕事術に迫った。


きっかけは飛行機を操縦することへの憧れ

この日仕事を兼ね、1泊2日で種子島、与那国島、宮古島など5島を巡るフライトへと旅立ったのは、数々のスタートアップで成功を収め、現在はファンドを運営する千葉功太郎氏だ。

移動時間を短縮したい、快適な旅にしたい、あるいはステータスとして……プライベートジェットを持つ人の理由はさまざまだが、千葉氏の場合はまったく異なる。ある日、「ホンダジェット」のCMを見て、その美しさに魅了された。

「とにかくその姿がカッコよかった。自分でこの飛行機を操縦したいと思ったんです」

共通認識を高め、具体的な課題をあぶりだすため、事実に基づいた実現可能な未来をイラスト化し、投資先や国にプレゼン。空を飛ぶことで感じる未来が創造力を生む。

それまではプライベートジェットの購入も、ましてや操縦桿を握るという発想もなかったそうだが、昨年にはその惚れこんだプライベートジェット「ホンダジェット エリート」の、なんと国内1号機のオーナーに。

もともと国内A級サーキットライセンスを取得するほどのクルマ好き。

「ホンダジェットはまさに"空のスポーツカー"。速いクルマを見たら、最大性能を引きだして走らせたいと思うのと同じ。旅客機は無理でもこの小さくてかわいい飛行機なら自分もできるんじゃないかと思ったんです」とはいえクルマとは違い、ホンダジェットの操縦には自家用多発、計器飛行証明など4つものライセンスが必要。現在も週1〜2日名古屋・小牧空港に通い、教官を乗せないソロフライト(単独飛行)の訓練中。職業パイロットでも2年はかかるライセンスを、多忙な合間を縫って約3年での取得を目指している。

「クルマの免許のように気軽な気持ちでしたが、ワンミスが命取りになる世界の厳しい訓練。ちょっと後悔しています(笑)」

毎日の時間を削ってでも過酷な訓練を続けられるのは、当初から持ち続けていた「早く操縦したい」という強い意志から。そしてもうひとつ、大きなモチベーションになっているのが『ドローンの未来を作る』という自身の仕事にある。先のモーターショーで発表した”空飛ぶバイク"をはじめ、エアモビリティに特化したファンドを創業し、その産業拡大に注力。経産省と国交省による「空の移動革命に向けた官民協議会」などにも委員として参画する千葉氏。

「パイロットとして空の安全性を学ぶことは、エアモビリティ産業の安全性にも貢献できる。また委員会の議論でも、日々空を飛ぶ自分なら、何よりもその知見を現実の迫力をもって発言できるんです」

ホンダジェットの日本1号機なので、自動車のナンバープレートにあたる登録番号はJA01JPに。

プライベートジェットの搭乗者として、そして操縦士としての空に魅せられた千葉氏。その経験がもたらしたのは「思考の改革」だと彼は言う。

「人間は陸上では緯度経度で定められた"絶対座標"の世界を生きている。でも空の上は、何を基準にするかで自分の位置が不確定になる"相対座標"。地上で感じる風も、空では空気の塊が移動しているだけ。その中に入り同じ速度で進めば、そこは無風の世界です。ふと見る地上のスピードとはまったく異なる感覚なんです」

当たり前だと思うものも空では通じない。その感覚を実体験することが、思考の大きな変化を生んだ。

「自分が縛られている『絶対』は、確実なものではない。いち起業家として、もっと思考の前提から崩さなければと思うようになりました」

そんな概念だけではなく、純粋な美しさも空の魅力だ。旅客機よりも高い高度4万3000フィートを飛行するホンダジェットから見る星の美しさは、言葉にならないほどだそう。

「機内の照明を落とすと、きらめく星に包まれて、本当に宇宙に来たかのようなんです」

ドローンがいつもと違う見たことのない視点を見せてくれるように、空は未知の世界も教えてくれる。

「エアモビリティ産業のように、自分の仕事は未来を創る仕事。創造力が命です。単なる夢ではなく、事実に基づいた解像度の高い未来を創造し人々に伝えることで、実感し共通認識を高める。こういう思考に至ったのも、空を飛ぶことで見えてきた少し先の未来が大きな影響を与えているからだと思っています」

カッコいいメカを自分で動かしてみたい、そんな純粋な好奇心から始まったプライベートジェットとの出合い。免許を取得し愛機の操縦桿を握るその時、見える世界はまた千葉氏に新たな変革をもたらすに違いない。

Kotaro Chiba
1974年生まれ。大学卒業後、リクルートに入社。2009年コロプラに参画、副社長として東証一部上場に導く。現在はエアモビリティに特化したDrone Fundを運営。慶應義塾大学SFC特別招聘教授も務める。


Text=牛丸由紀子 Photograph=五十嵐 真 Special Thanks=成田国際空港