悲願の世界一を狙うヤンキース田中将大を奮い立たせた意外な試合とは?【インタビュー】

メジャーリーグ6年目を迎えたヤンキースの田中将大。日本人初の6年連続2桁勝利を目指す今季は防御率4点台と苦しみながらも、オールスターで勝利投手となるなど随所に存在感を見せている。後半戦を迎え、チームは東地区トップを走り、悲願の世界一へここからが山場。GOETHEでは、シーズン前に田中への独占インタビューを実現。「2桁勝利への価値観」「昨季のベストゲーム」「世界一に対する思い」などを語ってくれた。


2桁勝利への価値観

2014年にヤンキースのピンストライプのユニフォームに袖を通しデビューを飾ってから、田中将大は5年連続で2桁勝利を続けている。6年目の今季も9勝(8月21日現在)をマークする。記録を6年連続まで伸ばせば日本人初の快挙となるわけだが、達成はほぼ間違いないだろう。

楽天時代は7年間で99勝。13年には24勝無敗の異次元のパフォーマンスでチームの初の日本一へと導いた。日本で無双に近い実績を誇った男が、海の向こうでも結果を残す。周囲が称賛しないはずがない。

「さすが田中だ」

「メジャーでも通用している」

ただし、彼らの評価の対象はこのような数字に集約されていると言っていい。果たして、この記録は本当に「快挙」と呼べるのだろうか?

その問いに、田中は真正面から対峙する。答えは懐疑的なものだった。

「数字が一番わかりやすいのはわかっているんですよ。でも、日本とアメリカの2桁勝利の価値が一緒か? っていったら絶対に違うんで。登板数も多いし、『メジャーリーグで2桁勝利、何人いるんだよ』って話なわけですよ。数字はネットとかで調べればすぐに出てくるけど、投球内容まで調べる人っていないじゃないですか」

田中の心情を補完すれば、昨年、日本のプロ野球で2桁勝利を挙げた投手が19人に対し、メジャーリーグでは59人と3倍以上だった。試合数や登板数が多いことも比例してくるだろうが、「19分の1」より「59分の1」のほうが、どうしても価値は薄れる。これも数字の認識かもしれない。

意外だった昨シーズンのベストゲーム

誰もがそうであるように、マウンドに上がる田中の脳裏には勝利しかない。あるいは、そのために求められるパフォーマンスの具現化に全力を注ぐ。勝ち負けも重要だが、田中は1球の積み重ねにも注視する。だからこそ、結果だけの評価に反発したくなるのだろう。

そう感じたのは、田中に昨シーズンを振り返ってもらった時だった。

――ベストゲーム、もしくはそれに近い登板はどの試合だったか?

「18年7月16日のインディアンス戦」

田中は即答した。

この試合の田中は、自分のイメージするフォームでボールもコントロールできていた。2点こそ奪われたが、6回1/3を投げ77球。1回を13球前後で抑えれば上出来と評されるだけに、快調ぶりが顕著に表れるマウンド捌きだった。

だが、結果的に不満が残る登板となった。

この直後、ランナーを出したところで、田中はベンチから交代を告げられたのだ。投球はベストに近かった。だが、不満もあった。

相反する感情。その裏を、田中が漏らす。

「すごく悔しかったですね。勝つために力のあるピッチャーを出すのは理解できるんですけど、ひとりの先発投手として考えた時に『こんなんじゃ絶対にダメだ!』って。あの試合で自分のなかで変われたというか、新たな強い気持ちが芽生えた瞬間でしたね」

負の感情をパフォーマンスによって是正する。次の登板となった25日のレイズ戦、田中は完封勝利を飾った。それは、先のインディアンス戦での快投と屈辱があったからこそ得られた結果であるはずだ。

とはいっても、実際は完封した後者の試合がクローズアップされる。それがメディアの特性であり、日本人特有の型にはめたがる国民性が作用しているのかもしれないが、田中は理解を示しながらも、少しだけ辟易する。

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「誘導質問には、その通りに答えたくない自分がいる」

そんな話題になった時、田中は同調するように大きく頷いていたものだ。

「わかります、それはわります。型にはめようとしてくる方に対しては、『あなたと価値観が違いますから』と思いますよね。インタビューとかでも、明らかに誘導的な質問をされると『いやいやいや』とか。相手も構成とか考えてのことだからわかるんですけど、その通りに答えたくない自分がいますね」

記者からすれば、取材対象者の田中は"難敵"だ。口数は少なくないが、なかなか本音を話さない。時間が短い囲み取材となると、なおさら懐に入りづらい。

今年のシーズン開幕前、田中の囲み取材で興味深いやり取りがあった。

「今年こそ世界一になる」と公言する田中に、記者がアプローチをかける。

――ワールドチャンピオンの実現のためにやっていることは?

田中の口角が上がる。「いやいやいや」。そんな表情を見せながら、口を開く。

「自分なりにやっていることはありますけど、ここであえて口にすることではないんで。シーズンで結果を残さないと意味がないので、まずはそれを実践できるようにしたいです」

確信は避けながらも、活字にはなる要素は提供した――。そんなコメントだった。

このやり取りについて、田中は胸中を説明してくれた。

「やっていることを人に知ってもらうつもりはないんで。極論みたいになりますけど、最終的に勝てばみなさん認めてくれるわけじゃないですか。ただ、『あの試合はどうでしたか?』ってシチュエーションを聞かれるのは全然いいんです。それを僕が説明して、みなさんが伝えてくれることによって、野球がまた面白いものになっていくと思うんで」

結果と同じくらい、もしかしたらそれ以上に過程を大事にし、マウンドに立てば野球の醍醐味を表現するべくボールを投げる。

それが、日本が誇るメジャーリーガーのプライドである。

田中は世界一に向け、マウンドに立つ。

目的が果たされた時、初めて本人の口から、それまでの取り組み、そのことで得た成果や失敗を決めるはずである。

だからと言って、「世界一」という結果だけを称えてしまっては田中に笑われる。

歩みは今も続いている。

その試合、その1球。全てが、世界一への道へと通じている。

Text=田口元義