中田英寿 仕事、人生、そして愛を 今こそイタリアに学ぶ!

ローマの国立21世紀美術館MAXXIからの依頼で、イベントに日本酒を提供するためにイタリアに来ている元プロサッカー選手の中田英寿は、日本酒を国内外でもっと多くの人に楽しんでもらうことをこれからの自分のライフワークにしたいと考え、会社を設立した。日本酒という文化を残したい。日本酒業界の発展に寄与したいという思いがあるという。中田氏は自分が好きなことを仕事にして、人生を楽しみたいと語る。

「日本人は、イタリア人の人生の楽しみ方をもっと学ぶべきだと思います」

仕事に対する考え方を僕はイタリアに学んだ

 サッカーをしていた間も、仕事だと考えたことはありませんでした。好きなことを続け、それがたまたま仕事になっていた。その考え方は今も同じです。というか、そういう働き方しかできない。自分が好きなことを仕事にし、仕事を楽しむ。そんな考え方を僕はイタリア人に学んだように思います。

 僕がセリエAのペルージャに移籍し、イタリアで暮らし始めたのは1998年、21歳の時でした。移住したての頃は、イタリア人のいい加減さに心底驚きました。まず約束の時間を守らない。30分くらいの遅刻は当たり前。ガレージが壊れて修理を頼んだのに、約束の時間を過ぎても業者が来ない。どうしたのかと思い電話をしたら、「今日は雨だから」と平然と言う(笑)。最初はイライラすることもありましたが、それが普通なのでこちらが慣れるしかありません。

「イタリア人は人生にとって、
 何が一番大切なのかを理解している国民です」

ローマでは現役時代からの友人たちとランチをともにした。久しぶりの再会だったが、昔の濃密な時間が蘇り、すぐに和やかな雰囲気に。

 イタリア人と付き合っているとわかるんですが、彼らは怠け者ではないんです。とにかくいい加減なだけ(笑)。でも他人を大切に考えてくれるところもあるから、言葉がよく理解できなかった頃は本当に親切にしてくれたし、僕が自分の意見を伝えると、それを尊重してくれる。長く生活していくうちに、そんなイタリア流に慣れて、楽しめるようになりました。

 イタリア人ほど、人生を楽しむ方法を知っている人たちはいません。イタリアでは、デザインや建築、ファッション、食、歌など、生活を豊かに、楽しくするものが発達しています。彼らと食事をしていると、ずっと笑い声が絶えません。

 言葉によって性格が変わるといいますが、僕自身、イタリアに来てイタリア語を話す時は、イタリア人になっているように感じます。日本語で話している時より明るい性格になっている。いつも冗談を言い合い、笑い合う。人と人の距離が近くなるイタリア流のコミュニケーションがとても心地いいのです。

 イタリア人は、政治が不安定でも、経済が逼迫(ひっぱく)していても、人生を楽しむことをやめない。お金がなくても楽しむ術をよく知っています。彼らはよくホームパーティーをするんですが、それなら外で食事をするよりもお金がかからないし、自慢のインテリアを人に見せることもできる。ファッションやインテリアなど、格好つけることも大好きですからね。多少使いづらかったり、壊れやすかったりしても、見た目が最優先(笑)。そんな子供っぽいところも、僕は嫌いじゃありません。

 彼らは人生にとって、何が一番大切なのかを理解している国民だと思います。イタリアのブランドの多くは、世界的な成功を収めても大都市に移ったりしません。自分が生まれ育った地元に残り、家族や従業員を愛し、それらを守ろうとする。彼らは、地域に残すべき文化をビジネスにすべきだと考えていると思います。彼らにとっての成功は、年収や貯金を増やすことではなく、地元で家族や仲間と楽しく過ごすことなのです。

 日本人は、イタリア人の人生の楽しみ方をもっと学ぶべきだと思います。自分は何のために生きているのか? 自分にとっての成功とは何なのか? 真剣に考えれば、自ずと答えは見つかるはずです」

国立21世紀美術館MAXXIのガラパーティーでは、中田さんが「日本酒N」を提供。その味わいとともに、食事と合う冷酒という飲み方も来場者に好評を得た。今回幸運にも中田さんの第二の故郷、イタリアで撮影ができたのはその間の出来事だった。 Photograph=Musacchio Ianniello Courtesy Fondazione MAXXI
Hidetoshi Nakata
1977年山梨県生まれ。イタリア・セリエAなどで活躍。昨年「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。工芸や日本酒のイベントを開催するなど、日本文化を世界に発信し続ける。今回、ローマに飛んだのは、11月9日から2017年2月26日まで開催予定の日伊国交150周年を記念した「日本住宅建築展(仮)」のガラパーティーのため。日本酒を紹介することで、日本文化への理解を深める一助となった。

Direction & Tex=島田 明 Text=川上康介 Photograph=Massi Ninni

*本記事の内容は16年11月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)