今季初登板で不本意な投球をした大谷翔平の表情に曇りがなかった理由【実践的行動学㉒】

幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けるメジャーリーガー・大谷翔平。今だからこそビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から“大谷番”として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。 

「球を投げることに集中していた」  

これまで「大谷選手は大丈夫なの?」と何回聞かれただろう。2018年10月に受けた右肘じん帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)、昨年9月の左膝膝蓋(しつがい)骨から二刀流復帰を目指すメジャー3年目のシーズン。今季初登板の7月26日のアスレチックス戦で1死も取れず5失点で降板し、打者では同29日のマリナーズ戦では今季1号を放った。2年ぶりの投手復帰とあって、世間の注目はどうしても「投手・大谷」に集まっている。

ただ、そもそも「大丈夫」か「大丈夫ではない」という判断をするのは時期尚早だろう。大谷の実戦登板は紅白戦3試合のみ。本来であればマイナー戦で数試合投げてメジャーの試合で登板する予定だったが、今季はマイナーリーグが中止になった。メジャーの公式戦で状態を上げていかざるを得ない状況で、結果を求めるのは酷だ。「公式戦を何だと思っている?」という意見もあるだろうが、そもそも大谷はポテンシャルが違う。そんな状況でもメジャーの強打者たちを抑えられる期待や可能性があったからこそ、大事な開幕3戦目で先発を任されたのだろう。

26日の直球の平均92・7マイル(約149キロ)は手術前の同96・7マイル(約156キロ)より約7キロ遅かった。試合後の大谷は「腕がいまいち振り切れていなかった。打者を抑えにいくという気持ちよりも、球を投げることに集中していた」と語っている。オンライン会見だったが、表情もスッキリしていて、気持ちを切り替えているような印象を受けた。この"球速ダウン問題"に関してテークバックが小さい新たな投球フォームの影響などさまざまな意見が飛び交ったが、トミー・ジョン手術は、損傷した肘のじん帯を切除して他の部位から正常な腱を移植するものだ。腱が腕になじみ、球速や制球力を取り戻すには、どうしても時間を要する。復帰初戦から100マイル(約161キロ)を出していれば驚き、心配する意見も出てきたのではないだろうか。

振り返ればメジャー1年目の'18年の春季キャンプ。実戦5試合で大谷は一度も100マイルを投げなかった。150キロ台前半~中盤がほとんどで、米メディアのある記者に「いつ100マイルのボールを投げるんだ?」と聞かれ、答えに困窮したこともあったが、大谷はデビュー戦で100マイルを当然のように投げ込んだ。そもそも徐々に調子を上げてくるタイプだ。60試合制の超短期決戦。悠長なことは言っていられないが、不安なく思い切り右腕を振れるようになるにはあと3、4試合はかかるのではないだろうか。

投手復帰戦翌日の27日。大谷は「3番・DH」で出場した。登板翌日のスタメン出場はリーグ優勝&日本一を達成した'16年9月22日のソフトバンク戦の一度のみ。メジャー移籍後は初めてだった。結果は4打数無安打だったが、ジョー・マドン監督の前例を重視しない柔軟な発想に驚いた。知将で知られる指揮官が二刀流の"今後"の鍵を握ることは間違いなさそうだ。

次回登板予定は8月2日(日本時間3日)の本拠地アストロズ戦。たとえ、そこで大谷が好投したとしても、「もう大丈夫」とはならない。大谷の状態を判断するのはもう少し待つべきだ。

Text=柳原直之