【シリーズ女性起業家】Create My Life わたしたちが起業を選んだ理由 vol.7

広報・PRで女性の社会進出を支援するPRプロデューサー、ikunoPR代表・笹木郁乃さんが送る「シリーズ女性起業家 Create My Life」。今回のゲストは、金融業界、経済記者を経たのち、現在は働く女性に人気のファッションブランド「Ayuwa」を経営する実業家・渡部雪絵さん。堅いイメージの職種からアパレルの世界に飛び込んだ経緯と信念に迫ります。


金融からアパレルへ

笹木郁乃さん(以下、笹木) 渡部さんの金融界からファッション界へのご転身は、私が知るなかでもかなり異色なご経歴です。これまでのキャリアを教えてください。

渡部雪絵さん(以下、渡部) 早稲田大学の商学部を卒業して、新卒総合職で三井住友銀行に就職しました。港区の支店でリテール、法人営業を経験するのですが、その頃は合併して2年目。あまりにきつすぎて、勤務先の近くに煌めく東京タワーにも全然感動できないほど忙しかった。絞られ方も半端なかった記憶があります。

その後、日本経済新聞系列で金融記者職に就き、東証や日銀記者クラブで株式市場・動向や、上場企業を取材していました。報道という金融以外のフィールドから金融を見ていたわけですが、改めて金融の中に身をおきたいと感じ、転職。三菱UFJモルガンスタンレー証券では、文章が書け、発信できて、かつ営業職というポジションに就くことに。専門的な金融商品の開発、営業や、商品自体をレポートする仕事を行っていました。

その後、社員20名ほどのファンド会社、コンサルティング会社の業務委託と転職は続きます。しかし、妊娠を機に、「辞めてください」と宣告を受け……。当時は自分の意志と反して社会から外れてしまったことに対して戸惑いがありました。

笹木 なんと。順調に見えたかのキャリアにも、結婚と出産を機に変化が小刻みになっていったのですね。

渡部 出産後に直面したのが保育所に子どもを預けるのが非常に難しい現実。その頃はひとりで細々と不動産関連の仕事をしていましたが、そういった働き方の場合特有の、制度と制度のはざまにはさまってしまって。自分で新たに仕事を起こすなら、そういった社会への問題解決にも寄与できることをしたいと思いました。

そこで「政治家になろう」と思い立ちます。保育問題を解決したい。だとすると区に権限があるので区議会議員だなと。調べてみると港区って1000票あれば当選できてしまうんです。夫に相談したら、私のことはすべて後押ししてくれる彼なのに初めて難色を示して。彼の直感がNOであることを信じるとともに、私は政治家になりたいというより、目の前の保育の問題を解決したい "だけ" だということに気づきました。だったら別のアプローチでいい。政治家であれば応援できる人を見つけて、その人を支援することで間接的ではあるけれど、ダイレクトに保育問題の解決に参加できるのではないか、と考えました。

笹木 保育園に入れられないから制度を変えるために政治家になろうだなんて大胆! そこからどうしてアパレル業界へと舵を切るのですか?

渡部 コンサル時代の同僚で「将来起業する」と言っていた人がいて、ふとそのことを思い出しました。じゃあ、私なら何をしようかということで、「オーガニック紙おむつ」がいいんじゃないかと。しかし、深掘りするうちに、かなりの初期投資が必要ということになり断念。投資家を募ることも考えましたが、行き詰まってしまいました。

そこで、妊娠中に知り合った某コスメサイト運営企業のCFOに話しを聞いてもらおうと、事業計画書をつくって訪ねていくわけです。そしたら第一声が「ああ、また "育児の気づきで起業系" が来ちゃったな。多いんですよ。こういう人」と。

「紙おむつをつくりたいって言うけど、息子さんが20歳になっても情熱を注げますか?」と問われました。さらに、「女性は社会貢献意識が強いから、利益を考えない人が多い。貢献意識を10%削って、利益意識を5%乗せて。好きなことを小さくやって、ちゃんと利益を増やして大きくしなさい」と言われ、私は何が好きなのかを改めて考えるきっかけに。

答えは "ワンピースが好き"だということ 。時間に追われていた会社員時代、「一枚でそれなりのビジネスパーソン仕様の見栄えにしてくれる便利なもの」と、毎日ワンピースを着ていたんです。2015年にファッションビジネスでいくことを心に決め、その年の8月に法人化。2016年5月にブランドをリリースしました。

笹木 Ayuwaのお客様はどんな層なのでしょうか。

渡部 多いのは30代半ばから40代後半くらいの自営業の方。弁護士や女医さんなどが多いですね。長時間着ていても楽なので、着やすいのだと思います。あとは、人前に出る方ですね。そういった方にとっては、スタイルがよく見えることが大きなポイントになる。スタイルをよく見せるには柄も影響するのですが、柄に頼らずデザインに取り込もうと、カッティングをキレイに見せることに注力しています。柄ものはどうしても印象に残ってしまいますから、着回しが難しい。シンプルでデザイン性の高いワンピースに、羽織ものやアクセサリーでイメージが変えられるようにデザインしています。

笹木 なるほど。さまざまな角度から工夫を凝らすことで、素敵な1着が生まれるのですね。渡部さんが考える、人生のターニングポイントはいつでしたか?

渡部 自分の意志と反して会社員を辞めたところでしょうか。子どもを預けるところがないということが社会への疑問を考えるきっかけをもらえた気がします。それまでは社会のルールのなかで最大のパフォーマンスができればいいと考えていました。でも、いきなり放り出され、かつどうにもならない状況に直面して、だったら社会を変えていくほうに立とうという気づきをもらえた。

笹木 その時の感情は? 悔しいとか悲しいとかあるいは……。

渡部 「これは最大のチャンスなのでは?」と。あれがなかったら、その先、自分らしい人生を歩めなかったと思います。私自身のモットーは「正直に生きる」ということ。それは子供のころから一貫しています。勤め人だった頃は、理不尽なことがあっても、自分で起業して何とかしようなんていう気にはならなかった。それは気持ちに蓋をしていたのかもしれません。「何が自分にとって正直なのか」を考える機会になりました。

笹木 起業をして、自分に正直に生きられるようになったのですね。やりがいを実感する時や、嬉しさを感じる時はありますか?

渡部 お客様がAyuwaを着てくださって、こんなふうに褒められたとメールをくださるんです。仕事がうまくいくようになったとか、Ayuwaを着始めたら芸能プロダクションからお声がかかったとか。いつもスーツをお召しになっていた方が、その方の顧客から「とっつきにくい印象がなくなった」と言われてうれしかったという声も。そういったお客様からの成功体験やフィードバックをいただいけるのがモチベーションです。

それから、ネガティブなことしか言われない女性の上司から褒められたというお声をいただいた時はかなりうれしかったですね。お洋服に興味がない上司だと思っていたけど、身だしなみに関してずっと部下をチェックしていたようで、「クライアントによってファッションを変えることは、できるビジネスパーソンのスキルのうち。あなたはやっと気づいてくれたのね」と褒められた、とおっしゃっていて。

私は似合わないものを似合うとは絶対に言いません。どうしてもテイストが違うと思ったら、「こんなブランドもあるんですよ」とよそ様を紹介してしまうことだってあります。今の消費者は正直じゃないものに敏感。こちらが正直でいるとお客様も「この前あのブランドの服を着た時に……」と教えてくださったり、私のほうも勉強になるんです。だからこそ「正直」に真摯に対応したいと思うのです。

笹木 今後、Ayuwaはどうしていきたいですか?

渡部 現在常設店舗は予約制の白金のサロンのみですが、まずは東京を出てみよう、と。グローカル(グローバル+ローカル)に、東京以外の地域に挑戦していきたいですね。

単に店舗を増やすというのは、Ayuwaにとっては違うと思っています。コストがかかれば価格に乗ってしまいますから。まるで常設店舗が身近にあるようなサービスの行き届いたオンラインシステムと、期間限定店舗で実現していけたらいい。それがお客様への一番のフィードバックだと考えています。

また、Ayuwaは1アイテムの販売につき1コイン(500円)を寄付とし、オンラインストアでは「社会問題への気づきのきっかけに」という想いを込めて「お客さまが寄付先を指定する」というスキームを取り入れています。そんな社会への気づきや貢献も続けていきたいのです。


渡部雪絵さんへ一問一答

どんな方にAyuwaを着てほしい?
自分のペースで前に進みたい女性に。進むばかりでなく、今は立ち止まる時だと思ったら、その選択ですら「前進」だと思う。自分の価値観を持ち、進化していきたいと願う女性に着てほしいですね。

休日はどう過ごしている?
4歳になる息子と過ごします。子育ての愛情は量より質。その間は仕事のことは考えない!

楽しみにしていること?
朝ごはんは必ず息子と食べるようにしています。この時間があってこそ、がんばろうと思えるのです。夜はそこまで時間がとれないので朝の1時間は必ずベタベタ。

動物に例えると
究極の猫。甘えんぼうなんです。でも、違うなと感じたらスーッと引いてしまうところも猫っぽい。

座右の銘は?
正直に生きる。振り返れば母がそうだったからかもしれません。

尊敬する人は?
母です。教員なので、当初私のチャレンジに対して心配してましたが、ようやく理解してくれるように。ある時、グズグズと愚痴る私に、「目標決めたなら突っ走りなさい」と母が喝。あれだけ反対していた母からの言葉だけに、グッときました。

Yukie Watabe
1979年生まれ。アユワ代表取締役。早稲田大学卒業後、三井住友銀行に入行。日本経済新聞社グループ(日経QUICKニュース社)、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、2016年にAyuwaをリリース。金融機関や金融、経済メディアで働いてきた経験から、大量生産、大量消費といった規模の経済だけでは真の成長は成し遂げられないと考え、"規模ではなく「質の経済」が真の発展を下支えする" という理念のもと、同ブランドのすべてのアイテムは日本製。子ども支援活動を中心とした活動に取り組む各種団体に、1アイテムの売り上げにつき1コイン(500円)を寄付するなど、社会貢献活動も積極的に行っている。

Ayuwa
https://ayuwa.jp

ikunoPR
http://ikuno-pr.jp

Text=三井三奈子 Photograph=坂田貴広


笹木郁乃
笹木郁乃
宮城県出身。ikunoPR代表。「エアウィーヴ」、「バーミキュラ」2社の飛躍にPRで大きく貢献した後、2016年2月に独立。2年で、約600名の経営者・起業家に対して、PRについて直接指導。 日本唯一の「PR塾」主宰。1期〜11期(定員30名)まで毎回満席・キャンセル待ちの人気に。その他、メディアとのアカデミー設立、企業や政府支援団体のPRプロデュースなどに力を入れる。
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