桐生祥秀がマセラティのアンバサダーに就任した理由

先月、桐生祥秀(日本生命)がイタリアの高級スポーツカーメーカーの「マセラティ」のブランドアンバサダーに就任した。2017年に日本選手初の9秒台を樹立。延期されることになった東京五輪でも、エースとしての活躍が期待される24歳には、アンバサダー就任を決めた"ある哲学"があった。

「マセラティのエンジンの重低音が好き」 

最低価格\27,000,000[税込]からの入札形式によって販売。売り上げの一部は日本陸上競技連盟に寄付されるという。入札終了は、4月9日(木)の午後11時59分。写真は、マセラティジャパン提供  

「パイオニアでありたい」ーー。

日本人初の9秒台を記録した男、桐生祥秀。東洋大を卒業した2年前から、陸上部が存在しないは日本生命と契約を結び、実質的なプロ選手として活動する。そんな24歳が、強い口調で誇らしげに言ったのが、冒頭の言葉である。

去る2月18日。まだ、新型コロナウイルスが世界的に蔓延する前、彼は六本木ヒルズで高級スポーツカー「マセラティ」のブランドアンバサダー就任会見に出席していた。世界に1台しかない特別限定車「マセラティ グラントゥーリズモ グランフィナーレ」を前にして、多くの報道陣や関係者の前で「嬉しい気持ちとともに、世界のマセラティ社と一緒に歩んでいけると思うとワクワクしています」と誇らしげに語っていた。

この日、桐生がなぜこれほどまでに"誇らしげ"だったのか。それは彼が、いわゆるプロ選手として、イタリアの高級スポーツカーブランドのアンバサダー契約を勝ち取ったことが第一だろう。しかし、それだけではないと感じた。会見後のインタビューで、こう答えたのだった。

 「これまでの陸上選手で、高級車のアンバサダーは今までひとりもいなかった。そういう意味では、陸上選手としての価値が上がったと思う。これからも、パイオニアでありたい。それが日本の短距離界のためにもなると思う」

ただ単にプロとして「飯を食べる」という意識ではなく、自らが先陣となって「切り拓きたい」という強い思い。日本の陸上短距離選手の価値を上げることによって、競技のすそ野を広げようという意識が存在したのである。

マセラティのアンバサダー就任という事実が、彼のプライドをくすぐったのは、もともと「クルマ好き」だったということも要因となっている。契約にともない、V8ツインターボを搭載したスーパーSUV「レヴァンテ トロフェオ」を見事にゲットしたのである。

「マセラティのエンジンの重低音が好き。加速するところを楽しみたい。今も、練習に行くのはずっとクルマで、生活の一部。クルマがないと練習場に行けない。マセラティで練習に行けるので、かなりモチベーションになります。自分で運転できるのは楽しみです」

自国開催の五輪は延期となってしまったが、"プロ選手"桐生にとっては、東京五輪までの露出が増える期間が長引くという捉え方もできなくはない。

「去年日本記録を(サニブラウン・ハキームに9秒97で)更新されたので、今年はしっかり自分が日本記録を出して、トロフェオ(イタリア語でトロフィー)とメダルを獲って活躍したい」

日本記録、オリンピックでのファイナリスト、そしてリレーでの金メダル獲得。桐生祥秀はこれからもプロとして結果を残して自らの存在感を高め、 陸上短距離界の価値を高めていく。

Yoshihide Kiryu
1995年滋賀県生まれ。中学校で陸上競技を始め、全国大会で活躍。洛南高校3年時には、当時のジュニア世界記録に並ぶ、10秒01をマーク。 東洋大学入学後は各大会で活躍、リオデジャネイロ2016オリンピックに出場し、陸上競技 男子4×100mリレーでは決勝でアジア記録を更新し銀メダルを獲得。2017年には世界陸上4×100mリレーで銅メダルを獲得。9月の日本学生選手権100m決勝にて、日本選手初の9秒台となる9秒98の日本新記録を樹立した。

Text=鈴木 悟(ゲーテWEB編集部) Photograph=小田駿一  PhotoRetouch=上住真司