【中田英寿に・ほ・ん・も・の外伝】昔ながらの「エーグルドゥース」のショートケーキ<東京③>

2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。

「年に数回どうしても食べたくなる」ショートケーキ

中田英寿は、酒にも詳しいがスイーツにもかなり詳しい。そんな彼が年に数回「どうしても食べたくなって、ふらりと訪ねる」というのが、目白にあるケーキ店『エーグルドゥース』のショートケーキだ。

目白通り沿いにあるこの店は、駅から少し距離があるにもかかわらず、常に多くの客で賑わっている。スイーツ好きなら誰もが知る有名店だが、店の雰囲気は「昔ながらのケーキ屋さん」。オープンは2004年だが、もっと昔からこの地にあるような、地元に密着した印象を与えてくれる。

「近所の人が散歩の途中に寄ってくれるような店が理想。おじいちゃんおばあちゃんから小さな子どもまで、みんなに愛されるケーキ屋を目指しています」(パティシエの寺井則彦さん)

店内には大きなガラスケースがあり、色とりどり、たくさんのケーキが並ぶ。ショートケーキ、モンブラン、シュークリーム、ミルフィーユなど、“おなじみ”のラインナップ。だが、そのひとつひとつ、素材選びから製法まで並々ならぬこだわりが詰め込まれている。

「モンブランはふわふわとした食感が命なので、オーダーを受けてからつくります。できれば1時間以内に食べてほしいですね」

そんな出来たてのモンブランをいただく。フォークを刺し、持ち上げた瞬間から確かに軽やかでふわふわ。一口食べると、栗のさりげない甘みと風味がさらっととけて口の中いっぱいにひろがる。まちがいなくモンブラン。でもいままで食べたことのあるモンブランとはまるで別物だ。

「ここに来たらショートケーキも食べさせてもらわなきゃ」

中田が絶賛するショートケーキ「シャンティフレーズ」が皿にのって登場する。こちらも見た目は昔ながらのショートケーキ。イチゴ、クリーム、そしてスポンジ。たったそれだけの組み合わせなのに、こちらも別次元のおいしさ。イチゴの酸味、クリームのコク、スポンジの食感がまさに三味一体となって口の中を通り抜け、身体にすっと入っていく。

日本で修行したのち渡欧。フランスやベルギーの店で腕を磨き、製菓学校の名門「ル・コルドン・ブルー」の講師として帰国。その後、「オテル・ドゥ・ミクニ」でパティシエをつとめていた寺井さん。「エーグルドゥース」の意味は、フランス語で「甘い、酸っぱい」だという。店の奥をのぞくと、10人以上の若者が白衣に身を包んでケーキをつくっていた。店のサイズに対して多すぎるような気がして尋ねてみると、

「本当においしいケーキをつくろうと思ったら、すごく手間ひまがかかる。だからどうしても人数が多くなってしまうんです」

素材にこだわり、作り方にこだわり、そして人にこだわる。そんな店のケーキがおいしくないはずがない。他のケーキも美味しそうだが、焼き菓子もかなり魅力的だ。帰り際、店内をぐるりと見て、中田のとっておきの店に、また足を運びたくなってしまった。

東京④に続く

「に・ほ・ん・も・の」とは
2009年に沖縄をスタートし、2016年に北海道でゴールするまで6年半、延べ500日以上、走行距離は20万km近くに及んだ日本文化再発見プロジェクト。"にほん”の”ほんもの"を多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促すことを目的とする。中田英寿が出会った日本の文化・伝統・農業・ものづくりはウェブサイトに記録。現在は英語化され、世界にも発信されている。2018年には書籍化。この本も英語、中国語、タイ語などに翻訳される予定だ。
https://nihonmono.jp/

Composition=川上康介 Photograph=淺田 創

中田英寿
中田英寿
1977年生まれ。日本、ヨーロッパでサッカー選手として活躍。W杯は3大会続出場。2006年に現役引退後は、国内外の旅を続ける。2016年、日本文化のPRを手がける「JAPAN CRAFT SAKE CAMPANY」を設立。
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