【ニューヨークは死なない③】ストップしたままの米スポーツ界。矜持を示すフリージャーナリスト

新型コロナウイルス感染が世界中に蔓延している中、アメリカ・ニューヨークでは学校、ジム、観光名所などが次々と閉鎖され、外での飲食も禁止。現在はロックダウン(外出制限)され、不要不急の外出は禁じられてしまった。世界的大都市の今について、ニューヨークに20年以上在住するスポーツジャーナリストの杉浦大介さんが緊急ルポを寄せた。

忘れがたき2020.3.11

アメリカに住むすべてのスポーツメディア、関係者は、3月11日の夜に自分がどこで何をしていたかを忘れることはないだろう。

この日、NBAのユタ・ジャズから新型コロナウィルスの感染者が出たため、オクラホマシティで行われる予定だったジャズ対サンダー戦は直前キャンセル。直後にNBAシーズンの中断が発表され、スポーツ界を激震が襲った。その後にNCAA、NHL、MLBなどが軒並み延期を表明。以降、米スポーツ界の動きは完全にストップしたままだ。

“運命の日”となった11日夜。私はブロンクスのアジア料理レストランで2人の記者仲間と会食中だった。長くお世話になっているNBA専門誌『ダンクシュート』の人気企画、“記者座談会”を収録していたのだ。

この日の座談会の議題は“プレーオフ展望”。NBAプレイヤーから感染者発生という衝撃的なニュースが届き、時が止まったのは、ちょうどファイナル(決勝戦)の予想にまで話を巡らせているところだった。経験豊富な記者たちは、その瞬間、収録したばかりのプレーオフ展望がお蔵入りになること、しばらくゲームを取材する機会がなくなったであろうことを即座に悟った。別れ際には、「次に会える時まで元気で」と言葉を交わし合ったのを鮮明に覚えている。

それから早くも20日間が経過した。予想通りに米スポーツ界の時計の針は止まったまま。状況はむしろ悪くなっており、シーズン再開の目処はもちろん立っていない。

NBAは夏場ごろのリスタートを目指すと表明してはいるが、このまま今季がキャンセルされても誰も驚くまい。他のほぼすべての業種と同じく、スポーツ取材、執筆を生業とするスポーツ記者たちも厳しい我慢の時間を余儀なくされている。

コロナ渦中でも仕事を続けることは不可能ではない

ただ、すべての人間が立ち止まっているわけではない。記者座談会の参加者の1人、シュロモ・スプラングも精力的な活動を続けている中の1人だ。

マンハッタン在住のフリーランス・ライター、スプラングはスポーツ界の活動停止後も『フォーブス』『Awful Announcing』といったウェブサイトに記事を寄稿。ゲームが行われる現場は存在しなくとも、選手、関係者への電話、E-mailインタビューで興味深いストーリーを構成してきた。「ライターとしても、人間としても、この状況ではとにかくサバイバルを続けるしかない」というスプラングの言葉からは、苦境をなんとかして乗り越えようという決意が感じられる。

「ゲームが行われていない時点で容易に書けるストーリーは存在しない。僕にできるのは、自分の持っているコネクションを総動員して記事のアイデアを考えていくこと。電話インタビューで難しいのは、話している際に取材対象の表情やボディランゲージが見えないことだ。おかげで相手が何を考えているのかを完全に理解するのは難しいけど、それにも慣れてきたとは思う。ソーシャル・ディスタンスを義務付けられた現状では、電話取材がほぼ唯一の手段だからね」

シュロモ・スプラング氏

スプラングが執筆した記事の中には、ジャズ対サンダー戦に居合わせたESPN記者をフィーチャーした臨場感あふれるストーリーが含まれる。その他、同じく3月11日にゲームの実況を担当したテレビアナウンサーの証言を集めたり、隔離中の選手たちにその生活を尋ねたり、複数の読み応えのある記事を発信してきた。その活躍は、実力があり、しっかりしたコネクションを確立した記者なら、コロナ渦中でも仕事を続けることは不可能ではないと示しているのだろう。

「今後も記事を考え、売り込みを続けていく」

もちろんスポーツ界全体がこのままストップし続ければ、状況は徐々に厳しくなるのに違いない。現場が存在しなければ、題材はいずれ枯渇する。これまでクライアントにしてきた媒体も衰弱することが予想され、家賃も生活費も高額なニューヨークのような街で生活を続ける厳しさは並大抵ではなくなるはずだ。

ただ、それでもスプラングは諦めず、「今後も記事を考え、売り込みを続けていくつもり。僕は頑固な性質なんだ」と笑って話す。高校時代からスポーツライティングを続け、この仕事には愛着がある。また、こうしてバンデミックからのサバイバルを目指す上で、メディアの中枢地と呼ばれるニューヨークにおいて、フリーランスという保証のない形で戦ってきたこれまでの経験が役に立っているのだという。

「フリーランス・ライターは自分がやらなければ何も始まらない。仕事をしなければ、必要なだけのお金は手にできない。自分自身だけでなく、友人たちや家族も支えられないんだ。最近は大イベントに立ち会い、有名な選手、関係者を取材するのにも慣れてしまい、新鮮には感じられなくなっていたところだった。しかし、こうして現場に立ち会えなくなったことで、その大切さに改めて気づけた。今ではアメリカのスポーツが再開されるその日を心待ちにしているよ……」

世界が危機に瀕している渦中でも、現状を嘆き、不平不満を述べているだけでは何も変わらない。こんなときだからこそ、フリーライターも、バイタリティと創造力の見せどころという考え方もできるのだろう。

たとえ時間がかかろうと、スポーツはいつか必ずこの国に戻ってくる。再び選手たちの叫び声が飛び交い、ファンの歓声に沸くスポーツ現場が蘇るその日まで。スポーツ記者たちも先の見えないサバイバルを続けていくしかない。今回の危機が終わる頃、生き残った記者たちはさらに逞しいジャーナリストに成長しているに違いない。

Daisuke Sugiura
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、スポーツライターに転身。20年以上、NYに在住してMLB、NBA、ボクシングを中心に取材。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポルティーバ』『Number』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿。