生徒5人から始まった予備校がベネッセグループ入りを果たすまで【スタディーハッカー】

「STUDY SMART(学びをもっと合理的でクールなものに)」をコンセプトに掲げるスタディーハッカー。大学受験の予備校から始まり、2015年より運営を開始した短期集中型の英語ジム「ENGLISH COMPANY」は事業開始と同時に大好評を得る。'20年1月にベネッセグループへ参画するに至るまでの10年間の軌跡と今後の展望を代表取締役社長・岡健作氏と、英語科の責任者を務める取締役・田畑翔子氏に話を聞いた。

必勝ハチマキで成績が上がるわけがない

ーースタディーハッカーは創業から約10年が経ち、2020年の1月にベネッセグループに参画されました。最初は大学受験の予備校からスタートされたのですよね?

岡:はい。最初は大学受験の予備校から事業がスタートしました。1年目のはじめには生徒が5人しかいなかったのですが、3ヵ月で英語の偏差値を15上げることを銘打った講座をスタートさせたところ、これが成功して1年後には入居していたビルの全フロアがうちの教室になったんです。「成果を出せば生徒は必ず来る」ことをこの経験から学びました。その後、京都で展開していた予備校事業を東京でもスタートさせ、着実に拡大させていきました。

ーーなぜ予備校の事業からスタートしたのですか?

岡:私は大学生の頃から塾でアルバイトをしていたんです。実は、田畑はそのときの教え子で。アルバイト時代から変わった授業をしていたのですが、ただのアルバイトが勝手なことをしても会社に迷惑じゃないですか。この頃から、「いつかは自分で予備校をやるしかない」と思っていました。

ーー具体的にはどんな変わった授業を?

岡:そもそも「受験は毎日が戦争だ」とか、「必勝」と書かれたハチマキを身につけるといった努力と根性が、受験の世界では支配的だったことに反感を抱いていました。実際のところ、根性論が好きな人はそれほど多くないとの実感もありました。現在、会社のコンセプトになっている「STUDY SMART」は設立当初から現在まで一貫しています。私自身、気合や根性が重んじられる九州の男子校出身だったこともあり、そうした非科学的な風潮とは別のアプローチで塾を始めました。だって、ハチマキを付けても成績は上がりませんよね(笑)。

ーー田畑さんが参画されるまでの経緯は?

スタディーハッカー取締役・田畑翔子氏

 田畑:私は元々、英語の教員免許を取りながら、大学院で言語教育の研究をしていました。なので、英語の教諭になるか、あるいは研究職に行くしか選択肢はないだろうと思ってたんです。ただ、あるときに岡と再会する機会があり、誘いを受けました。私のように英語教育を専門的に学んでいる場合、中学や高校の教員になっても、思い通りの教育を施せないことが少なくありません。

岡:大学院で先進的な研究を学んだとしても、学校現場でそれを実践するのは難しい。大学入試の仕組みが変わらない限り、変えられない部分も多くあります。新卒の先生が教職に就くなり、新しい教育方法を持ち込もうとしても、いろんな制約があるのではないかと思いました。なので、田畑にも「一緒にやれば自由に挑戦できる。新しく作っていこう」と説得した末、一緒にやることになりました。

オウンドメディアは決裁者が粘り強く推進することがマスト

ーー「ENGLISH COMPANY」など社会人向けのスクールをスタートさせたのはいつ頃でしょうか?

岡:2015年です。予備校での事業を通じて、英語のメソッドが社会人にも転用できること、またマーケットの大きさにも気づいていたことから開始しました。当時は、まったく競合も存在していなかったこともあり、開始と同時に60人、2〜3日後には200人ほどの申し込みがありました。

ーー受講者の方はどうやって「ENGLISH COMPANY」を知ることが多いのですか?

岡:一番多いのはオウンドメディア「STUDY HACKER(スタディーハッカー)」経由です。実はこのメディア、「ENGLISH COMPANY」を始める前から運営しており、現在では月間200万PVを超えています。今では重要な集客のチャンネルになっているメディアですが、最初は大変でした。スタートしてから4年ほど、私自身ですべての記事をチェックしていました。タイトルをつけて、写真を選び、アップする。1日3本の記事を毎日やっていました。

ーー当時はメディアそのものを事業化しようとされていたんですか?

スタディーハッカー代表取締役社長・岡健作氏

岡:いや、あくまでもスキルアップ向上を目指す社会人や、勉強を効率化したいと思っている人の母集団を囲い込む目的でした。現在の社名にもなっている、文字通り「スタディーハッカー」達を集めようとしていたんです。現在のコンテンツは勉強法やスキルアップ系のものがメインですが、当初は学習系アプリのレビューサイトを作ろうとしていました。ただ、当時は学習系のアプリが玉石混交どころか、ほとんどが全部石だったんです(笑)。レビューを書く人も見る人も、アプリを作った人も嫌な気持ちにしかならないサイトになってしまうということで、現在のメディアの形に落ち着きました。

ーーなかなか成果が出にくいとも言われるオウンドメディアですが、粘り強く継続してきたことで、現在では重要な集客のチャンネルになったわけですね。

岡:オウンドメディアは決裁権のある人が、自分の責任でしつこく推進し続けないと無理です。普通は最初から成果が出ることなんてまずないですし、私たちも最初はそうでした。

“スタディーハッカー”達を増やしていきたい

ーー創業から現在までで最も大変だったことは?

岡:ENGLISH COMPANYを立ちあげた頃ですね。ベンチャーの創業期は「立ち上げワクワクします!」とか言って、人が集まってきます。ただ、起業家が本気でハードワークするレベルを求めると、めちゃくちゃ文句を言ってくる(笑)。どうしてもこちらは成果を出したいから、働き過ぎてしまう。一方、ただベンチャーの立ち上げに憧れて来ただけの人は不平不満が溜まる。こうした感覚のズレを合わせていくのが大変でした。もちろん今は会社も大きくなったので、しっかりと制度を整えて、うまく回していくフェーズ。数人がめちゃくちゃ頑張ってもどうしようもできないので、仕組みを整えていこうとしています。

ーー効率よく英語を学ぶというカリキュラムに関しては田畑さんがゼロから作り上げたと聞きました。作る上でどんなことを意識しましたか?

田畑:第二言語習得研究など、なるべく理論的な背景に基づいて、短い学習時間でも効果が出るように意識してきました。特に受験勉強においては、生徒も英語にばかり時間を割けるわけではありません。なるべく楽させてあげて、理系科目の勉強時間を確保してあげたい、と思っていました。英語教育の研究者の中では常識とされているようなことも、一般的にはあまり知られていません。学校教育でもこのような科学的アプローチを取り入れたほうが絶対に効率いいのにな、とはずっと思っていました。あとは、どんな講師が教えても同じような効果が出せるように、サービスを均質化するための仕組みも同時に考えていました。それが、今のENGLISH COMPANYの仕組みにも生かされていると思います。

ーーカリキュラム作りで大変だったことは?

田畑:第二言語習得研究の知見というのはかなり蓄積されてきてはいますが、それをそのまま指導の実践に応用するのは難しい。理論を元にメソッドに落とし込み、試しては修正して、というようなことを10年間ずっと繰り返してきました。今も、アップデートし続けています。

ーー ENGLISH COMPANYはスタジオの内装もかなり工夫されているように感じますが、設計や場作りでこだわったことはありますか?

田畑:なるべく可愛くしたいなと(笑)オフィスもそうですけど、あまり飾りとかは付けずになるべくシンプルでお洒落な感じにしたかった。あとは、オープンスペースにすることにはこだわりました。個室ではなく、壁を付けずにスタジオ全体を見渡せる感じに作り、他のスクールさんと差別化を図りました。周りの人からも見える状態で英語を話す環境に慣れていれば、実生活で英語を使う心理的なハードルも下がるのかなと。

ーー2020年1月にはベネッセグループ入りされることになりました。こちらはどういった経緯だったのでしょうか?

岡:我々は予備校から事業をスタートさせた教育系の事業者ですが、最近では非教育系の事業者の方々も参入して来ました。その多くは「1日3時間やれ!」といった努力や根性をベースとした長時間派ばかり。一方、我々はこれまで10年かけていかに学習をハックできるかに挑戦してきました。特に、時短でできるだけ高密度な学習の実現です。ここから一気に拡大を図っていこうとするなか、自社だけではどうしても間に合わない。上場を狙うにしても準備に時間がかかる。そこで浮かんだのがM&Aの選択肢でした。一番シナジーが利き、世の中に影響を及ぼしやすい方法は何か。それがベネッセグループに入ることでした。

ーー具体的な連携はいつから?

岡:これからですが、基本的には経営の安定と採用の部分ですね。ベンチャーなので、バックオフィスの採用はいつも苦労してきました。そのほかのポジションについても、学生からしてみればベネッセのブランドは大きいでしょう。今後、規模を拡大していく上で、優秀な人材を採用し続けることは重要です。今回、ベネッセグループ入りすることになりましたが、それでも常に新しいことは仕掛けていくつもりです。変わり続けていく、という部分については、変わらないのだと思います。

ーー最後に、今後の展望をお教えください。

岡:まずは、まだ展開できていない地域も多くあるので、今の事業を広げていきたい。それを通じ、長時間を前提にするのではなく、できるだけ密度の高い合理的な学習を当たり前にしていきたいです。「量をたくさんこなせば、質が良くなる」といった考え方もあると思うのですが、ほとんどの場合、すでに質がいい方法はあり、自分が知らないだけなんですよ。我々としては、まずそうした方法をご案内する。その上で、質の高い方法で頑張れる人はいっぱい頑張ればいいし、頑張れない人もそれなりでしっかり成果が出ることを示したい。そうしたスタディーハッカー的なアプローチを広げていきたいです。

ENGLISH COMPANY 横浜スタジオ


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Text=長谷川リョー(モメンタム・ホース) Photograph=小田駿一