"生きる伝説"武豊が藤田菜七子に見せた強さと優しさ ~ビジネスパーソンのための言語学32

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「5着は本当に立派。僕も初めてのG1は6着でしたから」ーーーJRA史上女性として初めてG1レースに挑んだ藤田菜七子騎手について語った武豊騎手

2月17日に行われた今年のJRAのG1開幕戦、第36回フェブラリーステークス。この日の東京競馬場には、6万人以上が押し寄せ、レースの売り上げは13年ぶりに150億円を超えた。この数字だけでもJRA所属の女性騎手として初めてG1レースで騎乗した藤田菜七子騎手の貢献の大きさが伝わってくる。

「東京競馬場のダート1600メートルは何度も経験しているコースなのに、今日は違った景色に見えた。競馬場自体の盛り上がりが凄くて、ファンファーレと歓声を聞いた時は初めて馬場の中で泣きそうになりました」(レース後の藤田騎手のコメント)

2016年のデビュー以来、JRAとしては3年ぶりかつ唯一の女性騎手として注目を集めてきた。デビュー36戦目で初勝利をあげると、3年目となる2018年にG1レースの騎乗資格条件となる「通算31勝」をクリア。女性騎手の最多勝数記録も更新した。その実力も高く評価されている。それでも彼女がG1レースで騎乗することに批判があったのも事実だ。「人気優先」「女性騎手だから」という声は彼女にも届いていただろう。

そんなプレッシャーのなか、4番人気のコパノキッキングに騎乗し、5着となったのは、見事と言っていいだろう。このフェブラリーステークスを人気馬インティで制したのが最多勝利数、最多G1勝利数など数々の記録を持つ武豊騎手だったというのも興味深い。49歳の武騎手にとっても1年半ぶりとなるG1勝利となった。

「僕自身、負けたくなかった。彼女が勝って、僕が2着はキツい(笑)。5着は本当に立派。僕も初めてのG1は6着でしたから。彼女は頑張っているし、自分でつかんだもの。今後はG1騎乗が当たり前のようになれば」

28歳下の女性騎手をしっかりとライバルとしてリスペクトし、さらに未来に向けた励ましの言葉をかける。下手に先輩風を吹かせるとパワハラだといわれる時代を生きるビジネスパーソンとしてもぜひ参考にしてほしい、"先輩"としての完璧なコメントだといえる。

「去年G1を勝てなかったのでホッとしています。このペースで、いや、もっと上げて頑張っていきたい」

49歳にして、さらに上を目指す。藤田騎手が武騎手と同じレースで戦う機会がこれから何度あるのだろうか。彼の騎乗、彼の言葉、彼の生き様から、学ぶことはまだまだたくさんありそうだ。

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images