NYヤンキース 田中将大 自分自身に揺るぎない自信がある。

スタジオでカメラの前に立っても、まるで緊張する様子はない。 彼が通り抜けてきた修羅場を思えば、些細なことなのだろう。 世界を相手に勝負をするNYヤンキースの田中将大は、どんなふうに精神と肉体のコンディションを整えているのだろうか。その秘密に迫った。

 田中将大は、験(げん)を担(かつ)ぐことがないという。
「ルーティンを作るのが面倒くさいんです。試合中にアレをやってなかったって不安になるのは嫌だし、それを言い訳にしたくないじゃないですか。試してみたこともありません。それに頼って安定する人はもちろんいるだろうし、自分をコントロールするためのひとつの方法だとは思います。でも僕には、そういうものは必要ありません。むしろ余計なことはあまり考えないようにして、自然に試合に入ることが大切だと思っています」
 身長188センチ、体重93キロの身体は、メジャー選手のなかにいると標準的に見えるが、実際目の前に立つと、とてつもない存在感だ。撮影用に誂(あつら)えられたシャツは、見たこともないような首回りと肩幅だった。
 インタビューをしていても、物理的な圧迫感がすごい。きっと彼と軽いキャッチボールをしたら、球を受ける手はどんどん痺(しび)れて感覚を失うのではないだろうか。
 まるで巨岩のようだ。
 ふとそんなことを思った。表面はゴツゴツしていない。むしろ滑らかで、丸みがあり、親しみを感じさせる。だが、大きく、重く、そして固い。地面にどっかと腰をすえ、雨が降ろうが槍(やり)が降ろうがびくともしないような印象を受ける。
 甲子園で注目を浴び、プロ野球入り。東北楽天ゴールデンイーグルスを日本一に導き、満を持してのメジャーデビュー。これまで彼が修羅場をくぐり抜けてきた過程は、多くの日本人の脳裏に刻まれている。そしてどの瞬間でも彼が動揺を感じさせることはなかった。あのメンタルの強さは、どこから来ているのか?
「とにかく自信を持ってやるということに尽きると思います。自分自身が自分を信じてあげないと、相手と戦えないし、チームからの信頼を得ることもできない。マウンドに上がれば、自分を疑うことはありません。いつからそう意識し始めたのかは覚えていませんが、もちろん最初からできたわけでなく、いろんな経験を積み重ねてきて、自分のものにしてきたからこそ、今の自分があるんだと思います」

スーツとシャツは、今回の企画のためのオーダーメイド(ともにザ スタイリスト ジャパン/ザ スタイリスト ジャパン TEL:03-3478-0144) ネクタイ¥16,000(ジエレ/ビームスF TEL:03-3470-3946) チーフ¥6,800(ロダ/ビームスF TEL:03-3470-3946) ヘッドホン¥37,800(Beats by Dr.Dre/Beatsテクニカルサポート フリーダイヤル:0120-435-500)

 もちろん野球というスポーツに完璧はない。自信を持って投じた一球を弾き返されることもあるだろう。そんな時自信が失われたりしないのだろうか。
「その時はどうして打たれたかを考えればいいだけです。打たれるのは、自分に理由がある。足りない部分があるわけです。すべてが完璧な人間はいないですから、打たれることがあるのも負けることがあるのも当たり前。次にそれを繰り返さないような努力をするだけです。すべての現象には理由があるんです。ただやみくもに自分を信じるというよりも、きちんとひとつひとつ考えながらやっていくしかない。打たれる理由をひとつずつ消していくしかないんです」
 田中といえば、ピンチに強いことでも知られている。ピンチでも平常心というより、ピンチでこそ発揮される闘争心。鬼気迫る表情で打者を圧倒するシーンをこれまで何度も見てきた。
「スイッチを入れて、ギアでいえば一番高いところに入っていって、フルスロットルで行くって感じです。スイッチは自然に入る時もあるし、自分で意識して入れることもあります。大切なのは、ただ熱くなるだけじゃなくて、熱くなっている自分を見ているもうひとりの自分がいること。闘争心と冷静さのバランスが重要だと思っています。それに野球は個人競技ではないので、チームの流れ、勢いも意識します。次のバッターは抑えて、ベンチに勢いを出したいという時は、スイッチを入れて、抑えにかかりますね」
 戦う場所が変わろうと、自らの立ち位置を変えることなく、日々着実に進化し、その身を大きく、固く育て続けている。

オフシーズンは、テレビ出演なども積極的に行う。「僕を通して野球に興味を持ってくれる人が増えればいいと思っています」。Twitterでの積極的な発言もその一環だとか。「賛否両論ありますが、素の自分を知ってもらえればと思っています」。着用している時計は田中が愛用している、ウブロの「スピリット オブ ビッグ・バン」

「試合に入る時とか、緊張することもありますよ。でも自分で試合に入って、リズムを摑(つか)んでいくしかない自分のピッチングで、自分のプレーでチームの勝利に貢献したい。考えているのはそのことだけです」
 昨年、名門ニューヨーク・ヤンキースと総額1億5500万ドルの7年契約を結び、渡米した。前半は順調に勝ち星を重ね、5月にはリーグの月間MVPに選ばれる活躍を見せたが、夏場に右肘を故障し戦線を離脱。シーズン終盤に復帰を果たしたが、チームはポストシーズンに駒を進めることができなかった。
「日本とアメリカでは、根本的に違うことがたくさんありました。それを一つずつ、アメリカはこうなんだって勉強し、受け入れながらやっている感じです。不安もありましたが、僕にとって大きかったのは、黒田さん(博樹・現広島カープ)の存在です。キャンプの過ごし方、コンディションの整え方、チームとのコミュニケーションなどをアドバイスしてくださったので、とても助かりました。黒田さんが気にかけて、声をかけてくださることもありましたし、自分から聞くこともありました。黒田さんは、惜しみなく教えてくれる方だったので僕自身も聞きやすかったです。毎年ローテーション投手として活躍してきた方の言葉は大きかったですね」

良質の睡眠を得るために欠かすことのできない[エアー]/メイクの時に椅子に置いて使用していたのが東京西川の[エアーポータブル]クッション。体圧を分散させ、快適な座り心地が持続する。田中は良質な睡眠を得られると、遠征先にも常に[エアー]のマットレスを携帯しているという。

 食事や睡眠は、あまり気にしないという。
「妻の手料理はアスリートとしてすごく頼りになりますが、基本的に食事に関しては、その時に食べたいもの、自分が必要としているものをバランスよく食べるっていうことだけですかね。自分の体が必要としているものを意識しながら食べている。寝る時間も決まっていません。何時に寝なきゃとか考えることが面倒くさいんです(笑)。試合が終わる時間によって寝る時間も違うし、起きる時間も違うから。ただ遠征の時は、必ずマットレスを持って行きます。ホテルによってベッドの硬さが違うので、眠りの質を確保して体の負担を減らす意味でも必ず用意しています。基本的に生活に決まり事はありませんね。ただ普通に生活している。自然体です」
 2年目のシーズンに向け、気合は十分だ。
「1シーズンいろいろなことを経験して、大体の流れが摑(つか)めたのは大きいですね。去年の経験を踏まえて、自信を持って挑みたいと思います」
 まるでずっと昔からそこにいたかのように、田中将大がメジャーで大きな存在感を示す日は、そう遠くない。

Masahiro Tanaka
1988年、兵庫県出身。甲子園を沸かせた駒大苫小牧高校卒後、2007年ドラフト1位で東北楽天ゴールデンイーグルスへ入団。13年はエースとして球団初の日本一に導く。14年にMLBのNYヤンキースへ移籍し、13勝をあげた。公式FBはwww.facebook.com/masahiro.tanaka.mh

Text=川上康介 Photograph=藤本憲一郎 Styling=大久保篤志
Hair & Make-up=竹島健二(unite inc.)

*本記事の内容は15年2月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。14年8月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)