【久保裕也】MLSとはどんなリーグか?

今年、MLSのFCシンシナティへ移籍したサッカー日本元代表、久保裕也が「ゲーテ」だけに語った現在の想いとは。インタビュー連載2回目。

自分らしさとは何か――

2020年1月、未知の世界に飛び込んだ久保裕也にとって嬉しい誤算だったのは、MLSのレベルが想像以上に高かったことだ。

「ヨーロッパよりもレベルが落ちると聞いていたんですけど、思っていたよりもレベルが高いんです。ヨーロッパから来る選手も多いし、南米出身の技術の高い選手も多い。ヨーロッパ出身の監督も多いですし、面白いリーグだと思いますね」

現在、オーランド・シティには元ポルトガル代表FWのナニ、ロサンゼルス・ギャラクシーにはメキシコ代表FWのハビエル・エルナンデスが在籍している。

2018-19シーズンには、元イングランド代表FWのウェイン・ルーニーがD.C. ユナイテッドで、元スウェーデン代表FWのズラタン・イブラヒモビッチがLAギャラクシーでプレーしたように、今後もビッグネームが参戦する可能性は高い。

リーグはアメリカの23クラブとカナダの3クラブの26クラブで構成され、ウェスタンカンファレンス(西地区)とイースタンカンファレンス(東地区)に分かれてリーグ戦を開催。その後、東西各カンファレンスの上位5チームずつ、計10チームによってMLSカップが行われ、優勝を争う。

コロナ禍によってリーグが中断された今季は、リーグ再開の第一歩として7月から8月にかけて「MLSイズ・バック・トーナメント」が開催された。久保の所属するFCシンシナティはグループステージを突破し、ラウンド16でポートランド・ティンバースに敗れて敗退。8月半ばからリーグ戦が再開されたところだ。

ポストシーズンのあるレギュレーションもさることながら、MLSの特徴のひとつが、選手の給与がリーグから支払われることだ。費用対効果の観点から、サラリーキャップ(年俸総額の上限制度)が導入されている。

だが、特別指定選手制度によって、各クラブが3人まで年俸を独自に決定することが許されている。かつてはデイビッド・ベッカムやティエリ・アンリもこの特別指定選手としてMLSに参戦したが、久保もそのひとりなのだ。

「クラブからの期待はもちろん感じますし、周りもそういう目で見ていると思うんですけど、僕自身はあまり考えないようにしています。そういうのを感じ過ぎると、いいことはあまりないですから。とにかく自分のプレーに集中しようと思ってますね」

久保を熱心に誘ってくれたロン・ヤンス前監督は2020年シーズン開幕を2週間後に控えた2月17日に退任し、後任にはオランダ代表として活躍したヤープ・スタムが就いた。基本システムはオランダ伝統の4-3-3だが、その後、5-3-2も取り入れるなど、模索中だという。そのなかで久保のポジションや役割も定まっていない。

「前(FW)だけじゃなく、中盤をやることも多いんですよ。あまり想像できないかもしれないですけど(笑)。中盤で自分がどうプレーするかは、新しいチャレンジです。もちろん、監督とは毎日のようにコミュケーションを取っていて、『前でやりたい』ということは伝えています。でも、『他の選手とのバランスがある』とか、『最適なポジションを探している段階だ』と言われます。監督には監督の考えがありますし、与えられたポジションで点を取れれば、それでいい。今は中盤でどうやって点を取るかを考えながら、やっています」

以前の久保ならFWにこだわっていたはずだ。しかし、今の久保からは新しいポジョションを受け入れ、楽しもうとする姿勢が窺える。

話を聞いていて感じたのは、ポジションとの向き合い方も、クラブやリーグの選択と同じということ。自分の思い通りにならないことにフラストレーションを溜めず、自分の成長にフォーカスするという柔軟なスタンスなのではないか。

「まさにそうだと思います。これまでは、そういうところでフラストレーションを溜めてきたので。『なんで俺はあのリーグでプレーできないんだ』とか、『なんで俺はあのポジションで起用してもらえないのか』とか。監督が代われば、システムや起用する選手は変わるでしょうし。そこばかりに目を向けていると、自分のプレーができなくなってくるんですよね。中盤で起用されても、ゴールを狙うという自分のプレーをすればいいだけですから」

スイス、ベルギー、ドイツ、アメリカと4ヵ国を渡り歩いて学んだのは、異なる文化や環境の中でも、自分らしくいればストレスをあまり感じない、ということだ。

「環境に影響されすぎると、自分がどんどんブレていく。そうなると、毎日生活していても苦しくなるじゃないですか。リーグや結果ばかりにこだわり過ぎると辛くなって、プレーも落ちていく。少し前まではそんなサイクルだったと思うんです。自分が成長しているとか、充実しているとか、そういうのが感じられたらハッピーになれる。年齢を重ねて、経験を積んで、自分の考え方も変化してきたと思います」

自分らしさとは何か――。それは、どんなリーグでも、どんなチームでも、どんなポジションでも、ゴールへのこだわりを持ち続け、自分の成長だけにフォーカスしてプレーする、ということだった。

近年の挫折と新天地での挑戦の過程で、久保は新たな価値観を手に入れたのだ。

3回目に続く

Text=飯尾篤史 Photograph=久保裕也