工場直結ブランドがモノづくりを変える、ファクトリエ代表 山田敏夫ー滝川クリステル いま、一番気になる仕事

先の「シーバス ブラザーズ・ヤングアントレプレナー基金 Supported by GOETHE」で受賞を果たした、メイド・イン・ジャパンの工場直結ファッションブランド「ファクトリエ」を手がける山田敏夫さん。34歳の若き経営者が思い描く、本当にやりたい"私事"とは?

日本の感性と技術を守る適切価格のモノ作り

滝川 2012年に山田さんが立ち上げた「ファクトリエ」は、日本初の工場直結ファッションブランドです。優れた技術を持つ国内工場と提携し、高品質な日本製品と消費者をダイレクトにつなげる。さらに中間業者を省いて工場の利益率を上げることで、日本のモノ作り支援にもなる活動は、世界からも注目を集めています。今日はパートナー工場のクチーレ(千葉県東金市)で、ポロシャツ製作の工程を見学させてもらいました。

山田 こちらでは海外の有名ブランドの仕立ても担う、高い技術力を持つ工場です。他のパートナーも、世界の一流ブランドの指名を受ける工場ばかり。当然受注量も多いのですが、OEMの通常の原価率(2割)ではなかなか売上が上がらず、多くの工場が厳しい状況に陥りがちなんですね。そこで僕らは、こだわった最高品質の商品を工場に作ってもらい、同時に利益が出る見積もりを出してもらいます。販売価格はその倍となりますが、流通部分をカットしているので、通常の半分以下で購入していただけるんです。

左:ファクトリエ代表 山田敏夫、右:滝川クリステル 精巧の自社工場「クチーレ」には、この道20年以上というベテランが多い。縫製メーカーとして初めて、トヨタソーイングシステムを導入し、多品種、少ロット生産を可能にしている。「『商(商人)と工(職人)は対等』という考え方に共感しました」(滝川) [滝川さん]パンツ¥78,000(エンポリオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL:03-6274-7070)、トップス本人私物、ピアススタイリスト私物

滝川 すべての商品には「Factelier by(工場名)」と、工場名の入ったタグがついています。自分たちの名前がファクトリーブランドとして表に出ることも、働く人の誇りや、モチベーションにつながりますね。

山田 世界に名だたるヨーロッパ発のブランドも、元はファクトリーブランドが多いですよね。日本のモノ作りも、本来はヨーロッパ型でした。街中に機屋(はたや)さんがあって、日常的に織り機の音が聞こえていた。それがアメリカナイズにより、大量生産の流れになって。すべてが悪いとは思いませんが、それだけになったら、日本人が持っている稀有(けう)な感性や優しさのようなものがなくなってしまう気はしますね。またブランドネームやデザインの価値偏重になり、手を動かしている人たちへのリスペクトがなくなってしまう。

滝川 フランスのメゾンだと、職人たちが「自分たちあってのブランドだ」とプライドを持ち、権利を主張する歴史がありますが、日本の工場は奥ゆかしく、表に出てこないんですよね。世界に誇るべき技術を持っているにもかかわらず。対外的な情報が少なく、山田さんも当初は噂を頼りに夜行バスに乗り、地元のタウンページで調べてアポイントを取ることもあったとか。

山田 はい。日本全国600以上の工場をまわり、現在43工場と提携しています。今は数をどんどん増やすよりも、提携しているパートナーとよりよい製品を作る方向に力を注いでいるところです。市場の主流は大量生産を前提にしたコストダウン戦略ですが、そこに属さずとも日本独自の感性で生き残れるモノ作りがある。その価値に光を当てることが僕らの役割です。

ファクトリエが出会った世界水準の日本の工場

地元熊本のシャツ工場を皮切りに、現在43のパートナー工場と提携している。声掛けの基準は世界で通用する技術力を持っているかどうか。イベントや見学ツアーを開催し、地域における工場自体のブランディングも行う。

滝川 これだけモノが溢(あふ)れるなかで選んでもらうって大変なことです。私も立ち上げた財団で寄付つきの商品を扱っているんですが、試着しないとわからないものはなかなか売れなくて。素材にもこだわった日本製で、すごく気に入っているんですけど。ネット販売だけなので、特にデニムは難しいですね。ファクトリエさんのように、リアルのフィッティングスペースが必要なのかなと考えてしまいます。

山田 売る側と買う側のどちらがリスクを負うかなので、ボトムスは特に、試着か返品対応になってきますよね。でもフィッティングスペースを作る前、2015年秋に販売したトレンチコートは、10万円という値段でしたが2週間で100着完売したんですよ。返品不可の条件で。

滝川 すごい。どんなPRを?

山田 ほぼリピーターの方と口コミです。ただ最初に作ったシャツ400枚は本当に売れませんでした。クラウドファウンディングで120枚売れた以外はさっぱりで。300件の法人に電話して、10件でスーツの着こなし無料セミナーをさせてもらうなど、ひとりで行商のように営業したんです。そのお客さんが半年から1年後にリピートしてくれて、SNS等でも紹介をしてくださって。そのあたりでやっと、光が見えてきました。

滝川 それでも10万円の返品不可のコートを試着なしでって、けっこう勇気がいるのでは。

山田 もともとトップブランドのコートを作っている工場なので仕立ては第一級。ただデザインとしてはベーシックですから、品質のよさとその効用は、販売ページでしつこく伝えました。

滝川 広告はいっさい出さずに。

山田 広告宣伝費はほぼゼロのままですね。利益は非効率なものに投資する。それが僕らの生き残るための唯一の方法だと考えています。例えば今僕が着ているこのジャケットの生地は、80年前に製造された織り機で作られました。この風合いは、世界の最新の機械でも出せません。そういう宝物を残すために何ができるかを考え、そこに注ぎ込む。主に工場見学ツアーや交流会を開催するような、地道な活動ではあるんですが。

台湾に海外一号店! ファクトリエは熊本・銀座・横浜元町・名古屋に直営フィッティングスペースを設けている。試着・注文可能で、後日工場から手紙つきで製品が送られる仕組み。今年1月には台湾に初の海外店舗をオープン。現在月に100カ国からアクセスがあり、海外に向けた展開も期待されている。

滝川 少しずつ、世間全般の意識も変わってきていませんか。

山田 徐々にですが、その輪ができつつあると思っています。僕は仕事って「私事(しごと)」だと思っていて、ホントに好きでやりたいことをやっているんですね。なのにボランティアではなく事業として頑張りたい理由は、適切な価格でモノづくりできるサイクルを世の中に広めたいから。ビジネスってうまくいくと、真似されるじゃないですか。例えば20年前にアウトドアブランドのパタゴニアがオーガニックコットンを使い始めましたよね。

滝川 パタゴニアは進んでいますよね。リサイクル・ダウンもいち早く採用しましたし。

山田 機能性のよさももちろん、理念に共感しているファンも多いと思います。ただそういう情報って、意識せずに暮らしているとなかなか気づかない。でもその後ナイキが総生産量の1%をオーガニックコットンにしました。その1%で、パタゴニアの全生産量を超えたんですよ。今は7%まで上がっています。

Toshio Yamada1982年熊本県生まれ。創業100年の老舗婦人服店に生まれ、メイド・イン・ジャパン製品に囲まれて育つ。大学在学中にフランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。SoftBankHCにてネットビジネスを学び、2012年1月ライフスタイルアクセントを設立、「ファクトリエ」を立ち上げる。

滝川 それは大きいですね。

山田 正しいことで売上を上げれば、みんな追随して正しいことをするんですよね。うちだけで世の中を変えることはできないけれど、きっかけのひとつになれたら嬉しいなと。ファッションは人を喜ばせるものであってほしいですし、若い人たちにも、希望を持ってモノ作りの現場に入ってきてほしいので。

滝川 ビジネスの拡大は次世代につなぐ要素でもあるんですね。

山田 まだまだ考えなければならないことが山積みですが、まずは継続することだと思っています。僕は子供の頃から不器用で、陸上部でも足が遅くて。でも辛くても遅くても、地道に足を動かしていれば必ずゴールにたどりつくという考えでいます。20歳の時に掲げた「日本で世界一のブランドを作る」という夢に向け、日々1ミリでも前に進んでいきたいですね。


Toshio Yamada
1982年熊本県生まれ。創業100年の老舗婦人服店に生まれ、メイド・イン・ジャパン製品に囲まれて育つ。大学在学中にフランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。SoftBankHCにてネットビジネスを学び、2012年1月ライフスタイルアクセントを設立、「ファクトリエ」を立ち上げる。

Text=藤崎美穂 Photograph=斎藤隆吾 Styling=吉永 希 Hair & Make-up=COCO(関川事務所)

*本記事の内容は17年3月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)

滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
気になる方はこちらをチェック