鷹狩りで養った徳川家康の組織力 ~中野信子 Passionable Brain 第6回~

Passionable(常熱体質)とは、Passionとableを組み合わせた造語。仕事や遊びなど、あらゆることに対して常に情熱・熱狂を保ち続けられる=”常熱体質”である。この連載では、中野信子が常熱的な歴史上の人物を脳科学の視点から解説する。第6回は徳川家康が鷹狩りで養ったマルチプルな思考力について.。


Key person:徳川家康

今川家の人質だった少年時代から最晩年まで、徳川家康は生涯を通じて鷹狩りに熱中していました。享年75歳、この時代としては長寿ですが、その死の三ヶ月前まで鷹狩りに出てたという話も残っています。

彼にとって鷹狩りはただの趣味ではありませんでした。『徳川実紀』には、家康が常々語った鷹狩りの効用として「庶民の暮らしを知り、士風を察することができる。食事も美味しく、夜も寝付きが良くなる。なまなかな薬などを飲むより、よほど健康増進の役に立つ」という意味のことが書かれています。

士風を察するとは、部下の気力や判断力を推し量る機会でもあったということでしょう。集団で行う狩りは、軍事演習でもあったはずです。一石二鳥にも三鳥にもなる、まさに実利主義者の家康らしい趣味でした。

そして、脳科学的には、鷹狩りにはもうひとつの効用があったと考えられます。

鷹狩りの成功は、土地の高低差、森や藪の深さなど複雑な地形を把握し、人員を配置し、獲物の居場所を探索し、待ち伏せしたり、追い込んだりできるかどうかで決まります。逆に言えば、鷹狩りはそういう三次元的な状況下での思考力を鍛える脳のトレーニングでもあったわけです。家康が鷹狩りで養ったこの能力こそ、彼が260年余りも続く統治システムを構築できた秘密です。彼の組織力が抜群なのは、常に一手がマルチプルに効くような手を打ったから。そのために必要な重層的な思考力を鍛えるのに、鷹狩りは大いに貢献していたはずです。

現代の都市生活は、3Dの視点を必要としません。職場が高層ビルでも、エレベータで二点間を移動しているだけです。一日中パソコンで仕事し、コミュニケーションもスマホで済ませる私たちは、二次元の世界で生きているようなもの。現代人のモノの見方が短絡的で表面的になったと言われる一因でもあるでしょう。

アウトドアは現代人にとって、生身の肉体で三次元を経験する貴重な機会です。仕事で行き詰まったら、野で遊びましょう。パソコンの画面では解決困難に思えた問題も、思わぬ方向からのアプローチが見つかるかもしれません。


Text=石川拓治


第5回 Key person:細川幽斎


第4回 Key person:織田信長


中野信子
中野信子
脳科学者。1975年東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了フランス国立研究所にて博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学特任教授。脳や心理学をテーマに、研究や執筆を精力的に行う。著書に『サイコパス』、『脳内麻薬』など。『シャーデンフロイデ』(幻冬舎新書)が好評発売中。新刊『戦国武将の精神分析』(宝島社)が話題になっている。
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