サッカー元日本代表·鈴木啓太の今②大いなる志でベンチャービジネスに挑む

"腸内フローラ"の解析を主とする研究開発ベンチャー企業、AuB(オーブ)株式会社は、今年12月16日、腸内環境を整えるサプリメント、「AuB BASE」を発売する。同社を興し、代表取締役を務めるのは、浦和レッズで16年にわたって活躍し、サッカー日本代表にも選出された経験も持つ鈴木啓太氏だ。彼が、サッカーからベンチャービジネスの世界へと転身したのはなぜか。大いなる志と熱い想いに迫る。


アスリートにとって一番不幸なのは、体調不良で本来のパフォーマンスが発揮できないこと

鈴木氏が現役を退いたのは、2015年、34歳の時。

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「サッカー選手は、早かれ遅かれ次のキャリアに進まなくてはいけません。僕自身は、わりと早い時期からそのことを意識していました。引退後、指導者や解説者などサッカーに直接関わる人はたくさんいますが、サッカーとビジネスをつなげる人は圧倒的に少ない。でも、今後のサッカー界には、そういう人材が必要になるんじゃないか。そう考え、一度ビジネスの世界に飛び込んで、その経験をサッカー界に生かしたいと思うようになりました」

鈴木氏が選んだのは、トップアスリートの腸内環境を研究し、それを健康サポートに役立てるためのビジネスを一から立ち上げることだった。幼少期から腸内環境を意識し、プロになってからは、便の状態とコンディションの関係を日々実感するようになった彼にとっては、自然の流れだったのかもしれない。

「アスリートにとって一番不幸せなのは、ハードなトレーニングを積み、技術を磨いてきたにも関わらず、コンディションが悪くて、本来のパフォーマンスが発揮できないこと。もちろん、トップアスリートたちは、体調維持のために、トレーニングや食事、休息など、それぞれ気を配っていると思います。でも、腸内環境を整えることに目を向ける人は、まだ少ないのではないでしょうか。だからこそ、この分野を研究し、彼らの役に立ちたいと考えたのです」

12月16日より同社ECサイトにて販売する「AuB BASE」(1袋90粒入り、1ヶ月分)¥4,838[税込] 。1日3粒の摂取で、同社推奨量の3000万個相当の酪酸菌が摂れる。

それと、同時に鈴木氏の心をよぎったのは、ファンに恩返ししたいという想い。

「引退する1年ほど前に、ずっと浦和レッズを応援してくださったファンの方と話をする機会がありました。そこで言われたのは、『Jリーグが始まって20年以上応援に来ていたけれど、60歳を過ぎ、だんだんスタジアムに足を運ぶのが辛くなってきた』という言葉。僕は、現役時代に無観客試合(2014年、浦和レッズVS清水エスパルス)を経験しているんですよ。観客がいてもいなくても1点の価値は変わらないはずなのに、いつもとは、まるで違うものに感じられて。その時、熱を持ってスタジアムに応援しに来てくださる方々がいてこそ、僕らのサッカーは成り立つんだと実感しました。だから、健康状態を理由に、ファンの方々がスタジアムにいらっしゃれなくなるのは、すごく寂しいし、残念。そうならないよう、僕らアスリートがこれまで培ってきた健康に関するデータを、ファンのみなさんはじめ一般の方々のカラダをサポートすることに活用できれば」

資金が底をつきそうになり、倒産という言葉が頭をよぎったことも

とはいえ、腸の研究はもちろん、ベンチャービジネスに携わるのも初めてのこと。

「周りからは『無謀だ』と言われましたが、どうしてもやりたかった。自分でもどうなるか見当もつきませんでしたが、『トップアスリートの便には何かがあるはずだ』という確信みたいなものはあって……、というか、あるのはそれだけ。ファイナンスから、いっしょに研究してくれる相手探しまで、走りながら学び、見つけていくという感じでした」

ベンチャー、とくに研究開発系は資金がかかる。サッカー選手としての実績はあっても、ビジネスの世界では新参者ゆえ、資金調達ひとつとっても簡単にはいかなかった。それでも、自己資金4000万円に加え、個人投資家などから約1億2000万円を集めることに成功。人づてに共同開発先も見つけ、なんとかスタートはきったものの、その後も順風満帆とはいかなかった。

AuBでは、腸内フローラ検査と食生活の分析をもとにパーソナライズしたコンディショニングサポートサービス、「BENTRE」も提供している(¥30,800[税込] )

「思うような研究結果が出なかったり、資金が底をつきそうになったり。幸いにも、新たに投資家が見つかって乗り切れましたが、夜も眠れないほど大変な時期が続きました」

そう言った後、「まぁ、大変なのは、今も変わらないですけれどね」と笑う鈴木氏。そのタフさは、トップアスリートとして厳しい世界で闘ってきた中で身についたのだろうか。

「うーん、どうなんですかね。ただ、サッカーにしても、始めた時はプロになれるかどうかなんてわからなかったわけだし、プロになってからも試合に出られるか、勝てるかどうかわからなかったわけです。結果は見えていないけれど、『こうなるはずだ、こうなりたい』という仮説を立てて、目の前のことに必死に取り組む。それは、どんな仕事も同じだと思います。そうやって、試行錯誤しながらやっていくのが、めちゃめちゃ楽しい。昔から僕は、プラモデルでもなんでも、説明書を読むより前に手を出しちゃうタイプなんですよ。もちろん目指す山が高ければ高いほど、辛いことも、苦しいことも多いんですけど、それも含めて、僕は、楽しんでいるんでしょうね。もっとも、こんなに大変だとは思わなかった。今なら、4年前の自分に『やめておけ』って言っているかもしれません(笑)」

AuB代表取締役として腸内環境に関する講演のほか、投資家へのプレゼンなど、人前で話す機会も増えた。「当初に比べれば、だいぶスムーズに話せるようになりました(笑)」

スポーツは高齢化や教育問題解決のセンターピンになるはず

日本は今、超高齢化社会を目前にし、課題先進国だと言われている。「トップアスリートの腸内環境研究が、問題解決に貢献できれば」とも、鈴木氏。

「これまでサッカー選手には、観ている人を楽しませるというエンタテインメント的な価値にスポットが当たっていたと思います。だけど、トップアスリートは、コンディショニングに人一倍気を配ってきているわけで、彼らの体内には、そのデータが蓄積されているのです。自分のパフォーマンスを上げるために使ってきたこのデータを、他の人の健康に役立てられれば、こんなに素晴らしいことはない。アスリートの腸が、世界の人々の健康を変える。そんな風になると嬉しいですね」

こうした鈴木氏の信念と研究成果が実を結んだのか、今春、大手製薬メーカーと資本・業務提携をし、腸内細菌の特許ビジネスの研究拠点を開設。また、Forbes JAPAN初のスポーツビジネスアワードで、鈴木氏がキャリアデザイン賞を受賞するなど、AuBの活動はじょじょに評価され、注目が集まっている。今後も、実績を重ねつつ、各分野の企業等と、資本・業務提携を進めていく予定だという。

「サッカーの次に、こんなにも打ち込めるものに出会えたことは本当に幸せ。でも、AuBにとって、主語は常に"アスリート"。会社が大きくなるとか、利益を生むことももちろん大事ですが、それ以上に、アスリートの価値を高めたいし、スポーツを応援してくれる人を増やしたいんです」

スポーツは、高齢化や教育の問題を解決するセンターピンになる。そう語る鈴木氏の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

Keita Suzuki
1981年静岡県生まれ。幼少期よりサッカーを始め、2000年に浦和レッズに入団。2015年に引退するまで379試合に出場し、Jリーグベストイレブン2回、Jリーグ優秀選手賞3回、をはじめ、’07年には日本年間最優秀選手賞受賞するなど活躍。日本代表にも選出され、通算27試合に出場。‘15年10月、AuB (“Athlete micro-biome Bank”の略)を設立。


問い合わせ
https://aubstore.com/

Text=村上早苗 Photograph=吉田タカユキ


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