夢の遊びvs実の経済 対極を愉しむ 出井伸之vol 15


遊ぶところに困らない香港、シンガポール

9月にビジネス会議出席のため香港とシンガポールを訪れたのだが、アジアの都市はすでにここまで進んでいるのか、と改めて実感した。香港では、ご一緒した若い日本人起業家の皆さんと洒落た店で夜遅くまで盛りあがったが、若い人はまだ遊びたりなかったらしい。どうするのかと思いきや、ヘリコプターを飛ばしてマカオのカジノに行くという。すでに午前0時に近い時間だ。だが、こんなことは珍しくないという。香港の夜の街のレベルは相当なものになっていると感じたが、遊び方も半端ではなくなっていた。
 会議の出席者はランチをヨットクラブで、ディナーをジョッキークラブでという趣向だったが、後者はその場で馬券も買える。遊び心が満載なのだ。夜も昼も、エンタテインメントに満ちている。これならお金持ちたちも遊ぶところに事欠かない。ついでに、投資することにも。香港は完全に一歩先に進んだな、と感じた。


 シンガポールでは、4年目となるF1グランプリを見せてもらった。小さな国土ではオリンピックは呼べないが、世界的なイベントなら呼べる。予選からホテルの下を轟音を立ててマシンが走り抜ける。窓が開いているのかと思ったら、閉まっていた。とんでもない迫力だった。
 圧巻は翌日の決勝だ。着飾った人たちが世界中から集まり、食事をしながらレースを楽しむ。私は幸運にもご招待いただいたのだが、座席の料金を聞いて仰天した。それでも、人々は集まってくる。アジアで大きな話題になっている、マリーナ・ベイ・サンズのカジノも大変な賑わいだった。宿泊予約は大変らしい。
 アジアはマネーが沸騰している。同時にエンタテインメントにも飢餓感がある。だからこその、この2都市の頑張りなのだが、現地で僕が耳にしたのは意外な声だった。東京にこそ頑張ってほしい、なのである。

東京に新しい都市をもうひとつ作る

シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズのショップで見つけた「Bell&Ross」の新作ウォッチ。飛行機のコクピットの計器から生まれたブランド。この形をずっと崩さずにいるのがいい。微妙な色合いを持つ新作にひと目惚れして買ってしまった。

実は日本人より遥かに東京のポテンシャルを世界は評価している。とりわけアジアの富豪にとって、今なお東京は憧れの街。だが、彼らが口々に言うのは、「行っても、何もない」。遊ぶところがないのだ。昼の街も夜の街も。確かに東京は世界有数の経済都市。だが、「実」はあるが「夢」がない。それこそ他の都市が追い求めている“ファンタジー”が足りなさすぎるのだ。
 だからこそ、人々は東京にポテンシャルを感じている。開発が進んでいないからだ。そもそも東京と香港やシンガポールとでは、都市としての奥行きがまるで違う。街自体の多彩さやスケールもさることながら、東京にはこの地を入り口に各地に観光資源が広がっている。それこそ今や世界が関心を持っている東北だって近い。
 そこで僕が提唱したいのが、東京に「夢」を持ち込むことだ。端的に言えば、東京に総合エンタテインメントシティを作るのである。今の東京はそのままでいい。もうひとつ、アジアの都市国家に負けない、アクティブ・エンタテインメント都市を作ってしまう。実際、湾岸エリアには、今なお未開発の場所が数多く残されている。ここを、エンタテインメントと最先端技術を結集して、世界のどこにもない街にしてしまうのだ。
 カジノを、コンサートホールを、ヨットハーバーを、ホテルを作る。ヘリポートを作り、近隣のゴルフ場や東北エリアにすぐに飛べるようにする。そしてF1のような世界的なイベントも呼ぶ。湾岸沿いのトンネルやレインボーブリッジを使えば、世界に例を見ない面白いコースができる。それは、世界中に東京の街の面白さをアピールする機会にもなる。
 そして天然ガス発電、スマートグリッド、人工地盤など世界が注目する技術を使って新しい都市を建設する。魅力的なプロジェクトがあれば、世界からの投資を呼び込むことができる。世界からたくさんの人々に来てもらい、新しい東京の楽しさを味わってもらう。投資も外国から積極的に求める。それが日本を豊かにするのだ。雇用も、生産機会も生まれる。そして、ここからあげた収益を被災地の復興にも回し、東日本一体で復興と経済の活性化を実現する、という考えだ。香港やシンガポールが自分の魅力を最大限アピールしている女性なら、東京は自分がとんでもない美人であることに気づいていない女性だ。美人が一生懸命になれば、それこそ最強ではないか。


Text=上阪 徹 Photograph=OGATA
*本記事の内容は11年10月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい