年齢を超越した絶対王者! フェデラーの敗者の弁に思う ~ビジネスパーソンの言語学53

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「これ以上の失望や悲しみ、怒りもあるのかもしれない。今の感情は自分でもよく分からない」ーーーテニス・ウィンブルドン選手権決勝でノバク・ジョコビッチに敗れたロジャー・フェデラー

2003年、16年前のあなたは何をしていただろうか? ロジャー・フェデラーはこの年、22歳にして初めてウィンブルドンを制した。以後、16年間グランドスラムで重ねた優勝回数は史上最多の20回を数える。幾度となく不調や怪我に見舞われるがそのたびに復活。38歳になった今年もグランドスラムの優勝こそないものの、全盛期を思わせるテニスでノバク・ジョコビッチやラファエル・ナダルと上位争いを繰り広げている。

14日に行われたジョコビッチとのウィンブルドン決勝も稀に見る好ゲームだった。6歳下のジョコビッチを相手にフルセット、決勝史上最長の4時間57分を戦い、何度もギリギリのところまで追い詰めた。しかし勝利の女神は、フェデラーに微笑むことはなかった。

試合後のコートでは、勝者をたたえ、自らの奮闘にも満足気だったフェデラー。「37歳でもまだ終わっていない、ということを他の人々に信じるチャンスを与えられたと願っているよ」と余裕しゃくしゃくでコメントし、観客を沸かせたが、翌日のインタビューでは、敗戦の悔しさを強い言葉で表現した。

「これ以上の失望や悲しみ、怒りもあるのかもしれない。今の感情は自分でもよく分からない」

負けていいと思っている選手はいない。やはりどんなに素晴らしい試合だったとしても彼は負けたくなかったのだ。5年ほど前、故障で苦しんでいたフェデラーに飛ぶ鳥を落とす勢いだった錦織圭について訊いたことがある。いよいよ世代交代かとテニス界が活気づいていた時期だった。彼は、王者の微笑みをたたえながらこう答えた。

「ケイは素晴らしいプレイヤーだと思う。彼のテニスは僕も大好きだ。でも試合をしたら負ける気はしない」

そして5年経った現在でも彼は世代交代を許していない。30歳がピークといわれていてテニス界で常識をくつがえす活躍を続けている。負ける自分を許さない、強い心があるからこそ彼は走り続けてけるのだろう。自分は、16年前から何を得て、何を失ったか。フェデラーという歴史に残る王者の生き様に思うところは少なくない。

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images