【夏野 剛】「ワインはビジネスを成功へと導く世界の共通言語」

ワインに魅せられた者たちには、 ある種の共通する熱量がある。 彼らにとって、ワインとはいかなる存在なのか? iモ ードの生みの親・夏野 剛さんは、世界を舞台に活躍するビジネスパーソンの視点から、ワインという教養の必要性について説く。


海外を相手にするビジネスパーソンにとって、ワインの知識は必須

ビジネス界きってのワイン通として知られる、iモードの生みの親、夏野 剛さん。人気ワイン漫画『神の雫』の原作者・亜樹 直さんとコラボし、ニコ二コ生放送に『神の雫とワインな1時間』と題した番組を持っていたほどの強者である。

一昨年に完成したご自宅にうかがえば、リビングルームに隣接したウォークインタイプのワインセラー。しかし、これで驚いてはいけない。このセラーはあくまで常備品の収納場所。ロマネ・コンティやペトリュスといった真のお宝ワインは、秘密の扉を開けなければ入れない、地下室のセラーで熟成の時を重ねているのだ。

さらに取締役を務めるドワンゴの執務室と個人事務所、軽井沢の別荘には計7台のセラー。ロンドンのワイン商、ベリー・ブラザーズ&ラッドに預けてあるボルドーのプリムール(先物買いのワイン)も含めると、所蔵本数は1500本を超えるという。いやはやワイン番長、すごすぎる。

「30代前半までは粋がって、まだ若い5大シャトーとかを飲んでいたけど、香りは閉じてるし、タンニンはきついし、正直、これならカリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンのほうが美味しいと思いました」

その考えを改めるきっかけなった1本は、2000年代の初めに口にした1990年ののシャトー・パルメという。

「柔らかさがあるのに力強さも備えている。余韻も長い。なんじゃこりゃと驚きましたね」

こちらが秘密の地 下室に置かれているお宝ワイン 専用セラー。DRCやペトリュス などが眠る。

そこからワインの深みにズブズブとハマっていった夏野さん。ビジネスにおいてワインの知識が役に立った最大のエピソードが、2002年、フランスのブイグ・テレコムと欧州におけるiモードの展開で提携した時の話だ。

「ミーティングの会食はワインにこだわりました。それですぐに打ち解けて交渉成立。その後、’06年に創業家のブイグ兄弟がボルドーの格付け2級、シャトー・モンローズの所有者になっちゃって。夏野、お前、ワイン好きだろと、’03年のマグナムをひと箱プレゼントされたんです」

’03年は、夏野さんの長女の誕生年。粋な計らいである。

「世界を相手にするビジネスマンにとって、ワインの知識は絶対に必須ですよ。ダボス会議でもワインのことを知っていると、参加者から一目置かれます。出されたワインをただ黙って飲むだけではなく、自分の意見をはっきり言うこと。ヨーロッパの人たちは、日本人にワインのことなどわかるまいと思っているから、そこで的確な意見を述べれば、自分たちの文化を理解しているんだと、シンパシーを感じてくれるようですね」

リビング横のセラーからひょ っこり出てきたお宝中のお宝。 アンリ・ジャイエのエシェゾー 2001年。「なんで地下室のセラー に入ってないのかな? 」と訝いぶかる 夏野さん。

ところで、多忙な夏野さんだけに、ワインの購入はもっぱらインターネット。数多あるネットショップのなかから、よい店を探しだすのは至難の技だが、ひとつコツがあるという。

「評論家の受け売りではなく、スタッフが実際に飲んだコメントが掲載されている店。こういう店は信頼できます。『開けてから1時間置いてみたら劇的に変わった』とか、ディテールが細かいほどよろしい」

ワインは「人生の彩り」と語る夏野さん。今夜もワインの知識を武器に、海外のビジネスパートナーを相手に丁々発止と渡り合っているのだろう。


夏野さんセレクトのワイン

■ボンヌ・マール2008 オリヴィエ・バーンスタイン(右)
最近注目しているのは、2007年創業のライジングスター。1 級と特級ものしか扱わず、ブドウを買いつけて自ら醸造。先物取引き分は瞬く間に完売。約¥38,000

■ヴォーヌ・ロマネ  1級レ・プティ・モン2007 ルシアン・ル・モワンヌ(中央)
“ツウ”に振る舞う1本は、ブルゴーニュのミクロネゴス(超小規模ワイン商)。優れた栽培家からワインを買い樽熟成。1 銘柄につき1 、2 樽しか扱わない。約¥22,000

■シャトー・ラフィット・ロッチルド1858(左)
福沢諭吉が飲んだかもしれない、慶應義塾創立年のラフィットが、人生で最も印象深い1本。25人で2本開けたが、それぞれ香りと味が違ったという。約¥1,045,000 ※写真は1963

Takeshi Natsuno
1965年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、’97年にエヌ・ティ・ティ移動通信
網(現NTTドコモ)入社。iモード事業を手がけた。現在、ドワンゴ取締役、慶應義塾大学特別招聘教授など肩書き多数。


Text=柳 忠之 Photograph=滝川一真

※ワインの価格は編集部調べ。「Cellar Watch」( 1 ドル=約¥110[2018年12月30日時点])と「wine-searcher」、ワイン輸入元の価格を参考に算出しています。