ビジネス界も注目! ラグビー界の名将エディー・ジョーンズが提言する「弱者が強者に勝つ方法」

ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の開幕が5カ月後に迫った。4年前のイングランド大会で、優勝候補だった南アフリカを破るなど歴史的な3勝を挙げた日本代表を率いたのが、エディー・ジョーンズ現イングランド代表ヘッドコーチ(59)だ。今も年に数回、来日しては指導や講演と精力的に動き回る闘将。4月12日に東京、ハンティング・ワールド帝国ホテル店で行われた「ハンティング・ワールド×エディー・ジョーンズ」ローンチイベントでも、示唆に富む言葉を残した。


ラグビーの母国イングランドでの挑戦

紺色のスーツに太めのストライプタイ。手には自らが監修したハンティング・ワールドのバッグを持ち、グラウンドでは決して見せない柔和な表情が印象的だった。9月の発売を前にすでに3ヵ月間、バッグを使用しているというエディーは「いろんなところに持っていける。それにすごくタフ。W杯にも持ってきたい」と冗舌そのもの。"オフ"で見せた余裕を感じさせる振る舞いは、"オン"での順調ぶりを裏付ける証拠なのかも知れない。

自らが監修したハンティング・ワールド「BATTUE × EDDIE JONES MODEL」を持ち、笑顔のエディー・ジョーンズ。スタンダードコレクション「BATTUE SURPASS」の代表モデルを基にしている。

日本代表ヘッドコーチを退任後、紆余曲折を経てラグビーの母国イングランドで初の外国出身ヘッドコーチに就任したのが2015年11月。当初は本場の厳しいメディアやファンの好奇の目にさらされたものの、結果で見返すところは日本時代と変わらない。就任後初のシックスネーションズ('16年)では、2003年以来のグランドスラム(全勝優勝)を達成し、同年6月には自身の母国オーストラリアに敵地で3連勝。テストマッチ13連勝(就任前の1勝を含むと14連勝)という記録を打ち立てたことで、手腕に懐疑的だった人々を黙らせた。

集大成としてのW杯を控える今年のシックスネーションズは、3勝1分け1敗で2位。2年連続優勝から一転、ここ2年は優勝を逃しているが、決して悲観はしていない。「(大会は)うまくいったと思う。W杯には間に合う」と言い切り、積極的に起用した若手選手については「素晴らしかったと思う。選手層にも厚みが出た。現在のチームは若い選手にリーダーシップがある」と高く評価する。

そして、日本がW杯の1次リーグで対戦するアイルランド、スコットランドについて問われると、「シックスネーションズでやっていたことは、W杯にはつながらないだろう。(W杯では)全く別のチームになっていると思う」と言う。130年以上の歴史ある大会ですら、4年に一度のW杯イヤーは準備段階であり前哨戦。ヘッドコーチやアドバイザーとして、3度のW杯を経験している名将の言葉だけに説得力がある。だからこそ2003年以来2度目の世界一を目指すイングランドもまた、3勝1分け1敗の成績は度外視できるという見立てだ。

「BATTUE × EDDIE JONES MODEL」キャリーオール(左)、トートバッグ(右)ともに2019年秋発売、¥190,000

小さい者が大きい者に勝つにはどうすればいいのか

エディーの指導者としての源流は、自らの現役時代の原体験だろう。ラグビー界全体がアマチュア時代で、今ほど選手が大型化していなかったとはいえ、身長1m73㎝のフッカー(最前列)は小柄だ。「小さくて動きも遅い選手だった。だからこそ、頭で考えないといけないので、頭を使ってきた」。

後に口癖となる「ハードワーク」を自らに課してオーストラリア代表を目指したが、ついにその目標をかなえることができなかった。ただ弱者が強者に、小さい者が大きい者に勝つにはどうすればいいのか、考え抜いて実践してきたことは、指導者となって花開くことになる。

日本代表ヘッドコーチ時代に掲げたスローガン「ジャパン・ウェイ」は、それを象徴する言葉だ。1996年、東海大のスポットコーチとして来日した当時の日本ラグビーの印象について「小さいけれど、内面のタフさは素晴らしいものがあった。ただ、当時は日本らしさを出すのではなく、ニュージーランドのようにプレーしようとか、どこそこの国のようにプレーしようという雰囲気があった」と語る。モノマネでは勝てない。日本人の俊敏さや勤勉さを見抜き、その特長を生かしたプレースタイルと練習方法を編み出し、2012年4月に就任後はそれを実践してきた。

総合格闘家で"世界のTK"こと高阪剛氏をトレーニングのスポットコーチとして招へいしたのも、1m81cmの同氏が、2メートルを超えるような巨漢と「低さ」を武器に伍してきたから。「例えば90キロの日本人と110キロの外国人が同じ高さでぶつかれば、日本人が負ける。だから低さとスピードを求め、高阪さんにコーチングしてもらった」。実体験や経験だけを元にコーチングすることに警鐘を鳴らし、在任中は国内外のさまざまな指導者と会い、自分自身が学ぶ労を惜しまなかった。

ビジネス界も注目の手腕

2016年からはゴールドマン・サックス日本のアドバイザーリーボードも務めるエディー。「そんなにたくさんの仕事はしてないよ」と笑うが、一スポーツ指導者が世界屈指の金融グループの社員を前に座学を施す。「人間関係を築くためには、チームをうまく運営するためには、モチベーションを上げるためにはとか、そういった話をしている。素晴らしい若い人材をどうやって掴むか、どうやってチームにして、最大限の能力を発揮してもらうか。どの業界もそういうことを必要としているのだろう」。ラグビーで積み上げた叡智を、ビジネス界から求められる人物は、世界広しと言えどもそうはいない。

人生のゴールは何か。「素晴らしいラグビーの試合をすること。最初の1分から最後の1分まで、ずっとコントロールすること。それができたら引退して日本に住みたい。沖縄がいいね」との回答は、半分本気で半分は冗談だろう。来年の1月には還暦を迎えるエディーの脳裏には、すでに次の4年の青写真がいくつも描かれているに違いない。


Eddie Jones
1960年、オーストラリア人の父と日本人の母の間に生まれ、現役時代はニューサウスウェールズ州代表として活躍。'96年にプロのコーチとしてのキャリアを日本でスタート。2001年、母国オーストラリア代表のヘッドコーチに就任。'03年、母国オーストラリアでのラグビーワールドカップ2003で準優勝を収め、'07年には南アフリカ代表のテクニカルアドバイザーとして、ラグビーワールドカップ2007で優勝に導いた。'12年に日本代表ヘッドコーチ就任。ラグビー強豪国を次々と破り、ラグビーワールドカップ2015では優勝候補の南アフリカを初戦で撃破、続いてサモア、アメリカにも快勝し、日本代表にワールドカップの舞台で24年ぶりの勝利をもたらせた。'15年11月に、ラグビーの母国・イングランド代表のヘッドコーチに外国人として初めて就任。


Text=阿部 令