【本田圭佑】選手と監督、前代未聞の挑戦に挑む男の目指す先とは?<インタビュー後編>

サッカーにビジネスにファッションに、そして何より己の人生そのものを貪欲に追求し続ける勝負師。それが本田圭佑だ。常に"カッコよく"あることにこだわるその生き様には、自分の限界を超え、高みを目指し続ける真の男としての美学が映しだされている。


「壁があったら、越える方法を考えるだけ」

それにしても、だ。彼があの時、話したそうにウズウズしていた"秘密"がこのメルボルン移籍だとは思えなかった。もっと大きな何かを隠していた。本田圭佑は有言実行の男だが、大言壮語する人間ではない。メルボルンへの移籍だけなら、「面白い挑戦」ともったいぶった言い方はしなかったはずだ。もしかしたら本命の移籍先は別のチームだったが、交渉がまとまらなかったのでメルボルンになったのではないか。そんなうがったことまで考えていた。

そんな本田の真意を測りかねていたタイミングで、唐突に飛びこんできたのが、本田の、カンボジア代表の実質的な監督であるジェネラル・マネージャー(GM)就任の一報だった。

これか! まったく予想もできない、まさに本田らしい「面白い挑戦」。この間まで日本代表としてワールドカップを戦っていた選手が、現役のまま、他国の指揮を執る。もちろんこれまで、そんなことを実現した選手はいない。彼は、メルボルン入団をおとりにして、見事かつ豪快なトリックプレイを決めたのだ。その旺盛なチャレンジ精神と見るものを楽しませるサービス精神には、頭が下がる。

本田は、カンボジアで行われたGM就任の記者会見でこう語った。

「私にとって初めての監督業になります。実際にはメルボルンでプレイするので、すべての試合に関われない可能性がありますが、可能な限りでカンボジアのサッカーに関わっていきたい。ミッションがふたつあります。ひとつは、カンボジアサッカー連盟、各チーム、育成年代のすべてが同じサッカースタイルをつくること。これは日本でもすごく苦労していることです。目指すものがバラバラだと、皆が違う方向に向かって、強いサッカーチームができあがりません。

ふたつめは、サッカーを強くするだけではなく、サッカー以外のカンボジアの素晴らしいところを世界に伝えていくことも僕の使命だと思っています。何度もカンボジアに足を運んでいて、カンボジアの素晴らしいところをいくつも目にしてきました。文化、世界遺産、農業、そういったところを世界にアピールしていくつもりでいます」

チームを強くするだけの監督は、世界中にいる。しかしモウリーニョもグアルディオラも、監督をつとめる国のPRまでは考えていないだろう。

やりたいこととやるべきこと

「サッカー選手って皆が思っているよりヒマなんですよ(笑)。チーム練習は長くても3時間。そこに個人練習をやっても2時間。たっぷり寝て、ゆっくり食事をしてもまだ10時間以上残っている。僕はその時間を社会のために使いたい。

自分の人生をかけて、本気で世界の貧困と戦っていきたいんです。世界中を旅すると、困難な生活を送っている人がたくさんいる。それを見て見ぬふりはできないですよ。途方もなくタフな戦いだということはわかっていますし、本田がデカいこと言っていると笑う人もいるかもしれない。それでも同じ夢を見られる仲間を集めて、彼らとともに1歩ずつ前に進めていきたいと思っています」

世界から貧困をなくす。そのための道筋が投資家であり、起業家であり、そしてカンボジア代表のGMなのだろう。

「今は毎日プログラミングの勉強をしています。ゴールは決まっている。あとはプロセスを考えるだけ。ああしようか、こうしようかと考えているのは、すごく楽しいし、幸せですよ」

小学校6年生の時、本田はある選択を迫られた。

「ずっとサッカーと野球の両方をやっていたんです。どっちも好きだったし楽しかったけど、中学生になるとどちらかを選ばなきゃならない。結果的にサッカーを選んで正解だったと思いますが、ふとあの時、野球を選んでいたらどうなっていたんだろうなと思うことがあります。

でも今の僕は、あのころと違って何かだけを選ばなくていい。サッカー選手をやりながら、監督業もやり、投資家や起業家もやって、世界を変えることも考えていく。好きなこと、やりたいことを全部やりたいし、自分がやるべきことも考えてやっていきたい。壁にぶちあたることもあるでしょう。そしたら壁を越える方法を考えるだけ。そうやってどんなことも諦めることなく、前に進んでいくのが性に合っているんです」

やはりこの男はカッコいい。見ため以上にその生き様がカッコいい。本田圭佑の物語はまだまだ続く。彼の言葉を聞いていると、今まで見ていたサッカー選手としての彼は、物語の序盤にすぎないのかもしれないと思えてくる。"終わりなき物語"の今後が楽しみで仕方がない。


KEISUKE HONDA
1986年大阪府生まれ。J リーグ名古屋グランパスエイトでプロデビュー。W杯に3大会連続で出場し、全大会でアシストと得点を記録。今季からオーストラリアA リーグのメルボルン・ビクトリーFCに所属。カンボジア代表のGMにも就任。


Direction=島田 明 Text=川上康介 Photograph=前田 晃 Styling=近藤 昌(TOOLS) Hair & Make-up=林 勲(Ambesten)  Cooperation=La Brianza


<インタビュー前編>
メルボルン入団、五輪への夢。ホンダ流を貫く生き様とは?