iPS細胞研究者 山中教授「いつもボスに怒られてます」滝川クリステル いま、一番気になる仕事

ノーベル賞受賞後は、一研究者でありながら、400人以上が所属する研究機関を率いる「経営者」でもある山中教授。一刻も早く患者の力になるべく、情熱を胸に、常に冷静な判断を行うその心の内に迫ります。

一喜一憂している暇はない。あの手この手で道を探り当てる

左:京都大学iPS細胞研究所 所長・教授 山中伸弥、右:滝川クリステル ドレス¥122,000(マックスマーラ/マックスマーラ ジャパン TEL:03-5467-3700)、ピアス ¥180,000(TASAKI/TASAKI フリーダイヤル:0120-111-446)、靴¥96,000(ジュゼッペ・ザノッティ・デザイン/ブルーベル・ジャパン TEL:03-5413-1050)

医療を激変させる万能細胞。実用化はもう目の前に

滝川 2006年に山中さんが作製に成功した「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」は、さまざまな細胞への分化が可能となる万能細胞として、再生医療や創薬の分野で大きな期待が寄せられています。ノーベル生理学・医学賞を受賞されてから早くも3年が過ぎましたが、現在、研究はどのような段階に進んでいるのでしょうか?

山中 僕たちの研究は、「基礎研究」「前臨床研究」「臨床研究」という3つの段階に大きく分けられます。前臨床研究まではマウスや他の動物のモデルで安全性や効果をはかるもの。臨床研究でいよいよ、実際の医療の現場で患者さんにお願いして協力してもらうんですね。それで言うと臨床研究の段階にはすでに入っています。ただここから先は研究資金だけでも今までの何十倍もかかりますし、多くの社会的要件をクリアする側面でも、時間がかかっている状況です。

滝川 14年9月には、理化学研究所の髙橋政代さん率いるチームが、加齢黄斑(おうはん)変性の70代女性に対して世界で初めてiPS細胞から作った網膜細胞の移植を伴う臨床研究を実施して、大きな話題になりました。今後、眼科領域に限らず、一般的に医療現場で応用していくには、どんな要件をクリアする必要がありますか?

山中 法律的な問題もありますが、倫理的な部分も大きいですね。これまで、現時点で科学的に可能な範囲においては安全性と効果の検証はほぼ済んでいます。ただし臨床試験となると、絶対に安全とは言い切れない。最初は安全性を確かめるための試験なので、リスクを取らなければ前へは進めません。待っている患者さんも非常に多いのですが、リスクとのバランスや合意形成が非常に難しいんです。

滝川 昨年末には、製薬会社の武田薬品と提携し、iPS細胞を使った新薬開発や再生医療の共同研究をスタートしたと発表がありました。この提携は、そういった意味でも大きなジャンプを生む可能性があるのでは?

山中 そうあらねばと思っています。実質的にはこの4月から、湘南にある武田薬品の広大なラボに新設された施設に僕らiPS細胞研究所(以下CiRA=サイラ)から7人の主任研究員が赴(おもむ)き、武田の研究者の方々とチームを組んで共同研究を行っています。ここまで密接した民間の企業との共同作業は僕らにとっても前例のないことですが、受け入れる側の企業のほうが大変だと思うんです。情報に対して当然外部への強固な壁がありますから、外部の研究者が日常的に敷地内に入り込んでくるだなんて、ありえなかったことなんですよ。

滝川 武田薬品の社長兼CEOであるクリストフ・ウェバー氏は、フランスの方ですよね。

山中 ウェバーさんは14年6月に社長に着任してすぐにCiRAに来られて、1時間ほど話しただけで、この先10年の提携が決まりました。日本的な慎重さと欧米の意思決定の速さ、どちらもよさはありますが、今回の共同研究に関しては、ウェバーさんが情報共有に関して壁をつくらず、まさにトップダウンの判断をしてくれたことが大きいです。

「山中教授は走る時は音楽を聴きながら、頭を真っ白にしているんだとか」

滝川 こういう大きな提携はこれまでにもあったんですか?

山中 企業に研究者がここまで大規模に入る提携は、世界的にも珍しいと思います。もちろん京大側も、そのスピードに合わせてかなり頑張りました。協力し合い企業のリソースを使わせてもらうことで、研究スピードは確実に上がるはずです。必ず成果を出してよき前例となり、次の研究にもつなげなければなりませんね。

滝川 山中さんは現在、CiRAの所長をされつつ、アメリカの研究室と行き来をされているとお聞きしました。

山中 はい、自分の研究室はサンフランシスコにもあります。そこでは一主任研究員ですから、ボスにいつも怒られています(笑)。上の人だけでなく、後輩にもいろいろ言われますけれど。

滝川 対等なんですね。

山中 ボスも研究員も、教授も学生も基本はファーストネームで呼び合いますし、教授の発表でも学生がどんどん意見を言いますね。そこは日本とは違うかな。フランスはどうですか?

滝川 フランス人も基本はファーストネームで呼び合いますけど、初めは一応、敬語があるんです。だいたいは上の立場の人が「崩してください」と言って、そこからカジュアルな会話、意見交換になっていきます。

山中 やはり少し違うんですね。アメリカ人がラストネームで呼ぶ時なんて、怒ってる時くらいですよ。もしボスの秘書さんに「ミスター・ヤマナカ」と声をかけられたら、反射的に「ごめんなさい」となります(笑)。

滝川 わかりやすいですね(笑)。研究における大きなスタンスの違いというのはありますか?

山中 まず失敗に対する感覚が違います。日本は一度失敗したら終わりという風潮があり、慎重にならざるを得ないところがありますが、アメリカでは失敗もひとつの経験として尊重します。実際のところiPS細胞の臨床研究の準備に関しても、アメリカではかなり話が進んでいますね。

滝川 現在は日本の研究が最先端ではありますが、今後はわからないということでしょうか。

山中 むしろアメリカが前例をつくってくれることを願っている人は多いでしょう。僕としてはどのような形であれ、先に進めればと思うのですが。

滝川 本当に多くの方に、切望されていますものね。

山中 それに僕らの研究は特殊で、iPS細胞はだいたい難病の患者さん、特に子供さんの細胞からつくることも多いんです。常に「○○くんの細胞を使っている」と意識せざるを得ない。そして提供者の病気は時間とともに、確実に進行していきます。初めて会った時には元気だったのに......という経過も見ている。本当に時間との戦いで、みんなかなりのプレッシャーの下でやっています。

寄付こそ、日本の未来を支える一助に!

滝川 そんな事情も......。山中さんはマラソンで研究資金を募(つの)る際、寄付募集用のウェブサイトを利用されていますよね。それはどのようなきっかけで始められたのでしょうか。

山中 日本全体の動きを変えることはできないけれど、せめてCiRAに関してはアメリカと同等の環境を整えたいんです。アメリカの設備は20年前には日本と変わりませんでしたが、民間企業や一般からの寄付により、今や大きく差がついてしまった。それにアメリカではマウスの世話をするスタッフも、同じ人が働き続けています。日本だと非正規雇用なので、5年も経てば人が入れ替わってしまう。それも非常に大きな損失ですよね。

滝川 雇用を含めて、環境を変えていかれるんですね。

山中 臨床医時代「ごちゃごちゃ考えず手を動かせ」と叩きこまれました。止めたら患者さんが死んでしまう、と。その感覚は強く残っていますし、事実、状況に一喜一憂している暇はありません。できることはすべてやるつもりで進んでいます。

「iPS細胞研究基金」
■ インターネット
──①「iPS基金」と検索 ⇒ ②寄付ページにてお手続き
■ 電話
──①フリーダイヤル:0120-80-8748 で振込用紙取り寄せ ⇒ ②金融機関にてお手続き
──※詳しくは京都大学iPS細胞研究所 「iPS細胞研究基金」事務局まで。
    ips-kikin@cira.kyoto-u.ac.jp

Christel's Times Monthly Column

最近は環境の変化であまり見なくなってしまったけれど、ツクシも好き。よくトースターで焼いて食べていました。

今年は例年よりも長く桜を楽しめましたね。私にはこれからまだ、春の楽しみが待っています。それはタケノコ。家族で伊豆に行き、タケノコを掘るのが子供の頃からの恒例行事なんです。タケノコのまわりの土から少しずつ攻めて、根を傷つけないようグッと鍬(くわ)を引き上げるのが、上手にタケノコを掘るポイント。親の教えが厳しかったので、自分は日本で一番タケノコ掘りのうまいキャスターだと自負しています(笑)。私が自然を親しく感じるのは、こんな体験も関係あるのかもしれませんね。

Shinya Yamanaka
1962年大阪府生まれ。神戸大学医学部卒業後、大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了。整形外科の臨床医、米・グラッドストーン研究所の研究員や奈良先端科学技術大学院大学の教授などを経て、2006年にマウスiPS細胞樹立を世界で初めて発表、10年より京都大学iPS細胞研究所所長。12年ノーベル生理学・医学賞を受賞。

Christel Takigawa
1977年フランス生まれ。『NIPPON EXPRESS SAUDE! SAUDADE...』(J-WAVE)ほかに出演。WWFジャパン 顧問、世界の医療団 親善大使。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。http://www.christelfoundation.org/


滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
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