追い込まれているのはK-1だけじゃない! ギャンブルのような経営を避けるために~ビジネスパーソンの言語学88

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座88、いざ開講! 

「自粛をお願いしたわけですから、お願いを聞き入れていただけなかったのは残念」―――自粛要請にも関わらず開催されたK-1の会場を訪ねた埼玉県の大野元裕知事

新型コロナウイルスの問題で国からも県からも開催の自粛を要請されながらも、さいたまスーパーアリーナに6500人の観客を集めて開催された格闘技イベントK-1。

「密集を避ける意味でも、会場の席を削って1万人以下になるような形で大会を行っています」( K-1 イベント主催者・中村拓己プロデューサー)

主催者側は、他にもマスクや消毒液などを用意、換気にも配慮した形での開催だったが、強行ともいえる開催に現地を視察した埼玉県知事自ら批判の声をあげた。

「自粛をお願いしたわけですから、お願いを聞き入れていただけなかったのは残念」

「多くの人が集まるイベントは自粛が適当と考え、お願いしてきた。今後、無症状感染者が出る可能性もないわけではないので、大変残念だ」

ネット上でも、主催者や会場を訪れた観客に対する批判の声が上がっている。いつどこで新型コロナウイルスのクラスターが発生するかわからない状況での開催は、確かに無謀ともいえる。主催者側も批判は覚悟の上の開催だったであろう。それでも強行せざるをえなかったのは、恐らくこのイベントが会社の存続にかかわるからだろう。

野球やサッカーとちがって、格闘技は年間何十試合も行うことはできない。かつてのようにゴールデンタイムで放送され、その放映料が見込めた時代ならともかく、年数回の開催で多額の選手のギャラや施設使用料を支払うとなると、1回ずつの大会の成否が経営を左右することは、想像に難くない。

もし今後、この会場から新型コロナウイルスの患者が出たとなった場合、社会から大きな批判を浴び、経営は立ち行かなくなる。でも大会が開催できなければ、“不戦敗”のような状態で会社が傾く。それならばと、主催者が批判覚悟でギャンブルのような開催に踏み切った気持ちも理解できる。

“自粛”とは、自らすすんで行いを改め、慎むことだ。その意味で知事の言葉は矛盾している。みんながそうしているからと自粛を迫るのは、圧力に他ならない。明確なルールがあり、救済策があるならば、K-1も強行開催することはなかったはずだ。

この新型コロナウイルスの影響で経済活動が停滞し、経営が逼迫している企業や個人は少なくない。ウイルスの拡散を防ぎつつ、経済活動を維持するにはどうすればいいのか。この国のリーダーたちが本気で策を練らなければ、K-1のような “ギャンブル”をせざるをえない企業もどんどん増えていくのではないだろうか。

Text=星野三千雄