柔道家・野村忠宏「なぜフランスは日本よりも柔道人口が多いのか?」【ジャポニスム2018】

日仏友好160年の記念イベント「ジャポニスム2018:響きあう魂」が、2018年7月から開催され、すごい盛り上がりだったという。縄文から若冲、琳派、アニメまでパリ内外の100近くの会場で、さまざまな文化芸術を紹介。なぜ日本のカルチャーはフランスで人気なのか、フランスで圧倒的な知名度を誇る柔道家の野村忠宏さんに話を聞いた。


ヨーロッパの騎士道精神と日本の武士道は親和性がある

「ジャポニスム2018」のプログラムの一環に、柔道競技が登場した。2018年12月、パリ郊外ヴェルボン・シュル・イヴェット市のル・グラン・ドーム等で、柔道講習会が開催されたのだ。大盛況となった会での感触について、講師として登場した野村忠宏さんはこう語る。

「上村春樹・講道館長と私が、3日間の特別講習会で講師役を務めました。2日間は指導者を対象としたもので、もう1日は青少年向けです。フランス人は、柔道をたいへんリスペクトしてくれています。日本の柔道から技術や精神を学ぶ目的で、毎年春と秋に、フランス人指導者が私の母校・天理大学に1週間講習を受けに来るプログラムも用意されていて、私も参加しています。柔道大国フランスと言われて久しいですが、彼らの学ぶ姿勢・真剣さにはいつも心打たれます」

フランスではなぜかくも柔道が人気と信頼を得ているのか。

「たしかに柔道に対しての熱い思いは特別なものを感じます。競技人口は多いし、試合会場での熱気はすごいものがある。現役時代、フランスで開催される国際大会の会場でフランス人選手と対戦したときは、アウェー感がすごくてかなりやりづらかったです(笑)。

それでも、私が豪快に一本を取る魅力的な柔道をすればしっかり称えてくれるし、ファンにもなってくれるので、そこはフェアだなと感心しました。フランス人は柔道を観る目が肥えているし、柔道そのものが大好きなんだなということが伝わってきました。

実際、フランスの柔道人口は日本の15万に対し、60万人です。フランスの人口が日本の約半分なので、柔道人口を見れば、フランスがいかに柔道大国かということを理解していただけると思います。街のいたるところに柔道場があり、人気のスポーツとして多くの子どもたちや柔道愛好家が汗を流しています。

フランスの人たちは、競技としてのおもしろさとともに、柔道の精神・、教育的な価値に共感してくれているように感じます。ヨーロッパの騎士道精神が、日本の武士道と響き合うところがあるのでしょうか。フランスでは、嘉納治五郎師範が唱えた柔道の基本精神を基に、「礼儀」「勇気」「友情」「誠意」「名誉」「謙虚」「自制」「尊敬」がモラルコードとして大切にされています。

フランスで子どもに柔道を習わせている親御さんたちは、身体の鍛錬だけでなく、礼儀や規律、道徳的なものを柔道から学んで欲しいと考えています。また、指導者資格制度もしっかり整備されており、子どものうちは勝ち負けにこだわらず安全に楽しみながら、柔道を好きになってもらえるような指導がおこなわれています。だから、柔道をやめたとしても、柔道が好きで応援する側に回って柔道とかかわり続ける人が多い。

要は柔道をめぐるいい循環が生まれているんです。そのあたりは、日本がフランスに学ぶべきところだと思います」

日本文化を広く伝える「ジャポニスム2018」のプログラムに、柔道が組み込まれたのはたいへん意義深いと野村さんは言う。

「日本柔道が大切にしてきた『心』の部分、そこを改めてしっかりフランスの人たちに伝えることができたのなら、柔道界にとっても、日本にとってもひじょうにいい機会だったのではないでしょうか。とくに、子どもたちがたくさん集まってくれたのがうれしい。子どもが対象の講習日は、700人もの子どもたちが集まってくれましたから。現役時代から僕が得意としてきた背負い投げを披露すると、目を輝かせて見入ってくれていました。

日本で生まれた柔道がフランスで教育的価値があるものと受け入れられ、信頼され、多くの皆さんに愛されていることを誇りに思います。世界に、そして次世代に文化を継承していくとはこういうことじゃないかと、強く実感することができました」

Tadahiro Nomura 
1974年奈良県生まれ。祖父は柔道場「豊徳館」館長、父は天理高校柔道部元監督という柔道一家に育つ。 アトランタ、シドニー、アテネオリンピックで柔道史上初、また全競技を通じてアジア人初となるオリンピック三連覇を達成する。40歳で現役を引退後、国内外で柔道の普及活動を行う。


Text=山内宏泰 Photograph=太田隆生