"美しくも儚いトラ"を撮り続ける写真家·山田耕熙が本当に伝えたいこととは?

4月の東京・六本木「富士フイルムフォトサロン」を皮切りに、大阪、福岡、名古屋で写真展覧会『ロイヤルベンガルタイガー ~フラジャイルな存在~』を開いた写真家·山田耕熙。なぜ、彼はこれほどまでにトラに惹かれ、その美しくも儚い姿を撮り続けているのだろうか。


動物の美しさと儚さを表現する理由

山田が撮影する動物たちの写真には、ある共通点が存在する。それは「生態系としての美しさと儚さ」を表現しているということだ。残酷で凄惨な現場を伝えるジャーナリズム的な発想ではなく、あくまでも写真を通して動物たちの「美しさ」「儚さ」「面白さ」「素敵さ」を伝える。それが、人々に共感を呼ぶきっかけとなるに違いないと信じているからだ。

「私が初めて野生の動物や自然のある世界に行こうと思った理由は、動物たちの美しい姿を記録した映像や写真を見て感動したからでした。自分が見てきた瞬間を写真という手段を通じて人に感じてもらい、共感してもらうことが、まず自分にできること。遠い世界で生きている現代の多くの人へ、野生で生きる動物たちの姿が『美しい』『素敵だ』『自分で見てみたい』『面白そう』『興味がある』『行ってみたい』と共感を持ってもらうことが重要と思っています。なぜならば、共感こそが最終的に『何かを知ろう』『調べよう』『おかしい』『自分にできることは何だろう』『人に伝えよう』というアクションに繋がっていく最も重要な最初の入り口ではないかと考えているからです」

山田耕熙の写真はこちらから

では、なぜ彼はこれほどまでに「伝えなければならない」という使命感に駆られるのだろうか。それは、様々な場所に出向き、様々な動物を撮ることによって、人間という生き物が「矛盾」の中で生きていることを知ってしまったからだ。

「トラも他の動物も全部、自分たちの生活とかかわっているんです。例えば、インドシナトラが生息する東南アジア・メコン一帯の森は今のペースで伐採が進めば2030年までにほぼなくなってしまうという事実です。その森は1970代から伐採されはじめ、パームオイル農園やゴム農園になり、そこにいた野生のインドシナトラは残りわずか数百等にまで減っています。象やオラウータンも次々と命を落としています。パームオイルって、シャンプー、石鹸、口紅、洗剤などありとあらゆる生活必需品や、アイスやカップラーメンにも入っている。ゴムの木からは、クルマのタイヤが作られている。でも、我々が一切そうしたものを使わない選択はできないし、知れば知るほど自分でも矛盾を感じて生きなければならなくなるんです。疑問に感じることは確かで、自分の中で折り合いをつけなければ苦しくなる。だから何かをやって返さなければならないと思うのです」

山田が動物たちに魅了され始めたのは、意外にも30歳を超えてから。そもそものきっかけはBBC Earthのドキュメンタリー番組に圧倒的な衝撃を受け、地球上には「人間の想像をはるかに超越した世界」があることを知ったからだ。以来、地球上のあらゆる場所に出向き、写真を撮るようになったのだが、その中で最も魅了された存在がトラだった。インドのランタンボール国立公園に生息するロイヤルベンガルタイガーの美しくも儚い生き方の虜となり、時間が許す限り現地に出向き、写真に収め続けている。

「私は自分で会社を経営しているのですが、ある時、自分の目の前にある出来事が当たり前ではなくなるようなすごくつらいことがありました。5年以上に及ぶ長くて暗いトンネルだった。結婚もしていたので、この先、うまくいかなくなったらどうしようという不安と恐怖にかられて、もがいて進んでいる毎日でした。その時に出合ったのがトラだったのです。野生のトラは、最終的に兄弟や親と離れて一人で生きなければならないすごく孤独な生き物。複雑な状況の中をたくましく生きるトラと、もがきながらもなんとか生きている自分が重なったんです。要は自己投影。自分はトラを見て結果的に前に進もうと思えるようになり、そのきっかけをくれたことに対する感謝を持つようになりました、そこから勝手に、守りたいという使命感や役目を持つようになったんです」

現地に初めて行った際に見た2頭のトラが、目に焼き付いて離れていない。

「1頭目はオスの強いトラ。レンズの中で覗いているのに、気づいた瞬間は本当にその存在感に興奮して鳥肌が立って、胸の高鳴り具合が凄かった。彼らは堂々と座っているだけなんです。単純に圧倒的存在感にすさまじい衝撃を受け、頭の中に焼き付けられた。2頭目は、他のトラに追われて人間の住むエリアに出てきてしまったメス。テリトリー争いに負けて人間エリアに追いやられて出てきたんですが、必死に生きようとしているんです。やせ細りながらも闘っている姿を見て儚いながらもたくましく生きる姿を見たんです」

その2頭のトラに衝撃を受け、それが「フラジャイルな存在」という写真展のテーマとなった。

「フラジャイルというのは儚い、脆い、弱々しいという言葉。決して強いだけではなく、不安定な儚い生き物であることを伝えたくて、そういうタイトルにしました。1頭目の強いトラがいたからこそ、2頭目のトラから儚さを感じ取ることができたのだと思います。人間によってトラが不安定な状況に追い込まれている事例は他にもあります。昔は森が広大だったので、テリトリー争いを避けて細々とでも生きていける場所があったけど、今はジャングルを人間が限定的に囲っているから、スペースに余裕はない訳です。だから、一度テリトリー争いが起きればトラ同士で負けられない闘いをする方向に追い込まれ、争い方が激しくなって、重傷を負ってしまう状況があります。また、そんな状況で傷を負ったトラを手当しようと向かう人の手は、現地でトラを害獣扱いする人達によって阻止されたりします。トラたちは時に人間エリアの家畜を襲ってしまうから現地ではトラを憎む人もいるのです。元々トラたちがいたエリアを人間が奪って家畜を置いているだけであり、トラたちにとっては目の前に襲いやすい獲物がいるに過ぎない訳ですが、人間にとっては財産を取られることになるから、毒を盛ったり、密猟者に教えてトラを殺したりします。こういった出来事がインドでは根強い問題として残っているんです。一見、ただ単にトラ同士が闘ってケガして死んだふうに見える事柄でも、物事を深く見れば、トラを追い込んでいるのは人間という事実が見えてくるのです」

野生のトラは食物連鎖の頂点にいるにもかかわらず、残り約3000頭まで減っている。その原因は森林破壊による生息地の減少と密猟とされる。そうした事実をより多くの人に知ってもらうことが、もっとも重要だと山田は考えている。

「いろいろな人に、トラをはじめ野生の動物たちの姿を見に行ってほしい。見に行くことで現地にお金が落ち、それが現地の方の収入と動物たちにとって必要な環境整備に繋がっていくというグッドスパイラルが生まれるからです。悲しいことですが、現代においてはツーリズムのない場所からは、ワイルドライフは消え去るという事実が存在していると思います。私が目指すものは、自分が愛するトラをはじめとする野生の生き物たちの命が、人間と共存する中で守られることです。一人でも多くの人に、野生の動物が生きる世界を感じる旅に出かけてほしいと思っています。そのきっかけとなってもらえるように、私が見て感じた、動物達の一瞬の表情、命のやりとり、たくましさと儚さ、深い愛と優しさ、そう行った部分を伝える写真を撮り続けようと思っています」

KOKI YAMADA
1979年生まれ。東京在住。旅先で綺麗な写真を撮りたいと思い、2012年頃からカメラに興味を持つようになる。これまでにアラスカ、北極、南極、ガラパゴス諸島、アフリカ等を旅し、様々な生き物達を撮影。厳しい環境をその身ひとつで立ち向かう生き物達の逞しさ、そして儚く美しい姿、自分が感じたそんな瞬間を、写真を通じて伝えていきたいと思い活動している。 腕時計も好きで、IWCを愛用。「トラと同じで、一番最初は"きれいだな、美しいな、カッコいいな"というところから興味の対象に矛先が向きました。ブランドとしてぶれない姿勢は自分に通じているものがある。モノに共感するということは自分のスタイルに合うかどうかだと思います」
HP:https://www.kokiyamada.jp
Instagram:https://www.instagram.com/koki_yamada_photography/


Text=鈴木 悟(ゲーテWEB編集部) Photograph=鈴木泰之 Cooperation=IWC 銀座ブティック