Xiborg 為末 大×遠藤 謙 世界最速の義足を作ってボルトの世界記録を抜き、世の中の常識を変える

義足が現在の眼鏡のような存在になるのが理想だという。そう語るのは、Xiborgランニングオフィサーの為末 大氏とXiborg代表取締役遠藤 謙氏だ。異色のコンビが挑む「世界最速の義足」とは何か聞いた

身体と社会の常識を変える

「今、裸眼視力が悪くて眼鏡で矯正できている人を、社会的弱者だと思う人はいないですよね。それと同じように失われた足や手をテクノロジーがカバーし、それを当たり前のように受け入れる社会ができたらいいなと思っています」

と言うのは競技用義足やロボット義足の開発を行うXiborg(サイボーグ)代表の遠藤謙氏。目指すのは、単なるテクノロジーの開発ではなく、その先にある社会の変革だ。

「すべての人に動く喜びを」という思いで、2014年にともにXiborgを立ち上げた元プロ陸上選手の為末大氏も、その義足の可能性についてこう語る。

「人間とモノって融合しながら進化を続けてきたわけじゃないですか。例えば飛行機が誕生して、人間が移動できる距離が飛躍的に伸びた。それがどれだけ社会に変革をもたらし、多くの人に喜びを与えてきたか。僕らの作る義足も、そんなふうに世の中を豊かに変えていければいいと考えています」

目の前にある目標は、2020年の東京パラリンピック。ここで開催される100メートル走でウサイン・ボルトの世界記録9.58を突破する"世界最速の義足ランナー"を育てることだ。

「東京パラリンピックでヒーローが生まれれば、それが障がい者と健常者の間にボーダーがない、フラットな社会への起点になるのではと思っています。今、義足の技術としてはかなり高いところまできていますし、走り幅跳びではすでに健常者の記録を上回るところまできている。あとは、アスリートとの相性や義足に合う走法を研究していくこと。前例がないチャレンジですが、決して不可能ではないと信じています」(為末氏)

昨年末、全天候型の陸上トラックに義足の開発ラボを併設した「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」も完成。新記録誕生の準備は着々と整っている。

個人の生活に合わせて進化するロボット義足

Xiborgが手がけているのは、競技用の義足だけではない。コンピュータ制御でより自然な動きを追求したロボット義足の開発も同時進行中だ。

「まずは現在の義足ができない動き、例えば階段を自然にのぼるようなことができるようになること。そしてさらに人間ができないようなこともできるようになればという思いもあります。必要に応じて変形したり、車輪が出てきたり。個人の生活に合わせて進化する可能性を秘めているんです」(遠藤氏)

法整備や価格の問題など、「壁やもどかしさを感じることもある」と、遠藤氏は言う。だが、決して悲観はしていない。

「障がい者が納税者になって、社会に貢献できるようなテクノロジーに育てていきたい。そうすればGDPも上がるわけだし、みんながハッピーですよね」

義足が特別でなくなる日まで、彼らの挑戦は続く。

Xiborg
2014年創業。すべての人が動く喜びを感じられるような社会を目指し、競技用義足、ロボット義足、途上国向け義足の研究・開発を行う。

左:Ken Endo
1978年静岡県生まれ。マサチューセッツ工科大修士課程修了後、ソニーコンピュータサイエンス研究所の研究員に就任。後輩が骨肉腫で右足を切断したことにより義足開発の道へ。2014年、世界経済フォーラムが選ぶヤング・グローバル・リーダーズに選出。

右:Dai Tamesue
1978年広島県生まれ。400メートルハードル日本記録保持者。世界陸上で銅メダル獲得。2000年シドニーから3大会連続でオリンピックに出場。引退後は、スポーツ、社会、教育など多岐にわたる分野で活躍する。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長を務める。


Text=川上康介 Photograph=岡村昌宏

*本記事の内容は17年2月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)