清正の城はなぜ美しいのか? ~中野信子 Passionable Brain 第11回~

Passionable(常熱体質)とは、Passionとableを組み合わせた造語。仕事や遊びなど、あらゆることに対して常に情熱・熱狂を保ち続けられる=”常熱体質”である。この連載では、中野信子が常熱的な歴史上の人物を脳科学の視点から解説する。第11回は勇猛果敢の武将としてその名を知られる一方で、熊本城を代表とする数々の名城を築きあげた加藤清正について。


Key person:加藤清正

私邸ではありませんが、戦国時代の豪邸といえば、やはり城でしょう。一国一城の主が男子の本懐という時代、全国の津々浦々に城が造られました。その城造りの名人と謳われたのが加藤清正です。

彼は生涯に十数の城を造りました。天下普請といわれた名古屋城や江戸城の築城でも重要な役割を果たし、文禄慶長の役では朝鮮半島に3つも城を築いています。

清正の天才的築城技術を今に伝えるのが、15年の歳月をかけ完成させた熊本城です。壮大なスケールもさることながら、胸を打たれるのはその優美さ。清正流石組と呼ばれる石垣の描く曲線は、まさに筆舌に尽くせぬ美しさです。とはいえ、美しさを追求したわけではないはずです。熊本城の縄張が始まったのは1590年代初頭、関ヶ原の戦いの10年前のこと。清正が目指したのは、籠城戦にも耐える堅牢な城です。難攻不落の城を造ったら、結果的にその城は美しかったという話なのです。

もちろんそれは偶然ではありません。高くなるほど勾配が急角度になる石垣の曲線は、登ろうとする敵を阻むために武者返しとも呼ばれますが、それだけではない。最近の研究によれば、あの曲線の構造は地震の揺れに強いという説があります。力学的に理にかなった形だからこそ、私たちはそれを美しいと感じるわけです。そしてこれは逆もまた真で、つまり私たちは美しいものを正しいと感じるもののようです。脳科学的に言えば、美しさを認識するのも正しさを判定するのも、同じ脳の内側前頭前野なのです。

下世話な話をすれば、美人には悪口を言い難いなどとも言います。美しいものには圧があります。ましてお城のような壮大で美しいものには、強大な圧があります。戦国武将は、その圧を上手く利用し、臣下や領民を視覚的に納得させ、支持を広げる基盤としたのです。つまり城は、彼らが自分たちの権威の正当性を可視化する強力なツールでもあったわけです。

現代の成功者たちが建てる大きくて美しい邸宅にも、美とそのスケール感によって多くの人の心を従えたいという欲求が隠されているのかもしれません。

Text=石川拓治

中野信子
中野信子
脳科学者。1975年東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了フランス国立研究所にて博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学特任教授。脳や心理学をテーマに、研究や執筆を精力的に行う。著書に『サイコパス』、『脳内麻薬』など。『シャーデンフロイデ』(幻冬舎新書)が好評発売中。新刊『戦国武将の精神分析』(宝島社)が話題になっている。
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