長友佑都、渡辺雄太、服部勇馬……。工夫で逆境を乗り越えたアスリートから今、学ぶべきこと

約1年の延期が決定した東京五輪。本連載「東京五輪の現場から」では、オリンピック担当として取材を続けるスポーツニッポン・木本新也記者が現場の生の声を届ける。メダルを目指す選手のスペシャルな思考や、大会開催の舞台裏とは――。

環境だけがすべてではない

サッカー日本代表の長友佑都(33=ガラタサライ)は明大時代に腰痛で練習ができなくなった期間に体幹トレーニングと出合った。歩くこともままならい状態でイチから体作りを見直し、復帰後に急成長。アンダーカテゴリーの日本代表に初選出され、一気に成功の階段を駆け上がった。

バスケットボール日本代表の渡辺雄太(25=グリズリーズ)の小学生時代の日課は午前6時からの朝練習。早朝から使用できるコートがないため、電信柱をゴールに見立ててシュートを繰り返した。正確に自分の方向にボールが戻ってきたら得点とみなすルール。ミリ単位のコントロールを必要とする独特のトレーニングでシュート精度を高めた。

東京五輪マラソン男子代表に内定している服部勇馬(26=トヨタ自動車)は新潟県十日町市出身。中学時代に陸上を始めたが、冬季は雪で閉ざされて屋外で走れなかったため、クロスカントリーで体力強化に励んだ。

新型コロナウイルスの感染拡大で、政府が非常事態宣言を出したことを受け、日本スポーツ振興センターは今月8日から五輪選手をはじめとするトップアスリートの強化拠点である味の素ナショナルトレーニングセンター、隣接する国立スポーツ科学センターなどの施設を閉鎖した。プロ野球、Jリーグ、Bリーグなども活動休止中のクラブが多い。グランドや体育館、ジムが使えず、十分な練習ができる環境はほぼない。

外出自粛要請が出され、多くの選手が自宅にこもることを余儀なくされている。ウイルス終息後の競技再開を見据えて、限られた環境で何ができるのか。先の見えない不安と逆境の中で、多くのアスリートが工夫を凝らしたトレーニングを実施している。

カヌー・スラローム男子カナディアンシングルで東京五輪出場の内定しているリオデジャネイロ五輪銅メダリストの羽根田卓也(32=ミキハウス)はツイッターでユニークな練習を発信。水を張った自宅の風呂場の浴槽にパドルを投入して必死に漕ぎ続け「今は外で練習ができないので、こぐ感触を忘れないように、こうして工夫しています」とつぶやいた。

サッカー元日本代表GK西川周作(33=浦和)はチームから通達されている体幹トレーニングに加え、下半身に刺激を入れるための縄跳びトレを導入。自宅の庭にトランポリンを設置して2人の娘と全力で遊び、空中で体をコントロールする感覚を養っている。

日本勢だけではない。スポーツクライミング女子のジェシカ・ピルツ(23=オーストリア)は軒先にぶら下がったり、壁を伝ったりする動画をSNSに投稿。「大変な時期だが、体を鍛えるためにベストを尽くす」と強調した。

陸上男子5000メートルでリオデジャネイロ五輪銀メダルのポール・チェリモ(29=米国)はバスタブに液体洗剤を投入。底を滑りやすくして、手すりにつかまり素足を滑るように動かしてウオーキングマシンのようなリズムを刻み、足腰を鍛錬する映像を公開した。

サッカー元スペイン代表のアンドレス・イニエスタ(35=神戸)は腕立ての状態から愛妻アンナさんと一緒に音楽に合わせてリズミカルに体を動かし体幹を鍛える方法を紹介した。

長友、渡辺、服部のようにトップレベルに上り詰めたアスリートたちには少年時代に直面した逆境を、工夫を凝らして乗り越え、成長のチャンスに変えてきた選手が多く存在する。コロナ禍で練習環境が限定される中、トッププロやオリンピアンが腕の見せ所とばかりに、様々なチャレンジをしているのは頼もしい。

YouTubeやSNSで映像を公開している選手は多い。知恵を絞って己を磨く姿は、外出自粛でパワーが有り余っている少年少女にとって、最高の教材といえる。今、スポーツにできることは何か――。日常が戻るまで試合や大会は開催できないが、グラウンドやコートの外でも〝プロの技〟を楽しむことはできる。


Text=木本新也